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じゅん

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一章 猫又とおばあちゃん

一章 3

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 クロは、老婦人との出会いを話し出した。

   * * *

 温かい日差しの中、猫又は空き地で日向ぼっこをしていた。
「にゃっ」
 突然石が体に当たり、猫又は悲鳴をあげた。
「この黒猫、しっぽが二本あるぜ」
「気持ち悪い。妖怪だ!」
「やっつけろ!」
 子供には妖怪が見えることがある。そして、こうして石を投げつけられることも猫又は初めてではなかった。
「やめてにゃ、痛いにゃ」
 猫又は逃げ回ったが、子供たちは執拗に追いかけてきた。
 しばしまどろんでいたため近づいていた子供に気づくのが遅れ、猫又は深い傷を負ってしまった。
 なんとか子供たちから逃げ切ったが、もう動くことができなかった。
「ボク、死んじゃうのかにゃ」
 それもいいのかもしれない。
 同じ猫又の仲間はいつの間にかいなくなってしまった。都市部にいるのは人間と上手く共存できる器用なあやかしばかりだ。とはいえ、山には気性が荒く力の強いあやかしが多いため、そちらに行く気にもなれなかった。
 もう何百年前だろうか。人間が当たり前のようにあやかしが見えていた頃は、人間と暮らしていたこともあった。子供たちとも仲良く遊んだ。気持ちが悪いだなんて言われなかった。
「ボクのことは、誰もいらないにゃ」
 猫又はうずくまった。もう尻尾すら動かなかった。
 意識が遠のいていく。
「大変、あなた傷だらけね」
 そんな声がして、猫又は重い瞼を開けた。
 白髪の老婦人が屈んでこちらを見ていた。シワに埋もれた瞳は、高齢にもかかわらず澄んでいる。
「よいしょ、重い。動物病院に連れて行くからね」
 これは夢なのだろうか。
 なぜ大人なのに、ボクが見えるにゃ?
 温もりに包まれながら、今度こそ意識が遠のいていく。
 そのなかで猫又は思い出していた。
 あやかしが見える人間は、子供のほかに、死期が迫った者だと。

 目が覚めると、猫又はベッドの上にいた。同じベッドにさっき助けてくれた老婦人もいる。猫又の身体には包帯が巻かれていた。
「目覚めたのね、よかった」
「にゃあ」
 猫又は無難な返事をした。言葉を話すと老婦人を驚かすかもしれないと思ったからだ。
「あなた妖怪さんなのね。病院に連れて行ったら誰もあなたが見えないんだもの。びっくりしちゃったわ」
 横たわっている老婦人は楽しそうに笑った。
「あなた、しゃべれないの?」
 老婦人は笑顔のまま猫又の返事を待っている。
「……しゃべれるにゃ」
 猫又は恐る恐る答えた。
「まあよかった、話し相手が欲しかったの。怪我が治る間だけでいいから一緒にいてくれないかしら。一人暮らしで淋しかったのよ」
 猫又は大きく目を見開いた。
 一緒にいてほしいと言われた。
 自分を求める人がいた。
「ボクでよかったら、ずっと一緒にいるにゃ」
「嬉しいわ」
 猫又は抱きしめられた。うっとりと目を細める。
 こうして人の温もりに触れるのはいつ以来なのだろうか。長い年月を生きる猫又でさえ忘れてしまうほど遠い昔だった。
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