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じゅん

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二章 引きこもりの鬼

二章 9

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「これを、食べるのか」
 青藍は困惑している様子だが、クロは「いただきます」と言ってさっそく粥を口に運んでいる。
「美味しいにゃ。毬瑠子は料理上手にゃ」
 クロは元気よくしっぽを振った。その姿は微笑ましく、毬瑠子は「ありがとう」と礼を言う。
「ダメだ、苦しくなってきた」
 青藍は口元を押さえてカウンターから椅子ごと下がる。湯気が顔に当たるだけでもつらいようだ。
「青藍さん、薬だと思って食べて。噛まなくていいから飲み込んで!」
 小豆粥など意味があるのかと半信半疑だったが、青藍の様子から効果がありそうだと期待が高まってきた。
 食べやすいようにと固めに粥を作ったが、小豆汁と出汁で味を調えて、飲み込みやすくした粥を椀によそって青藍の前に置いた。火傷しないよう温度も下げている。
「ここまでしてもらって、食べないわけにはいかないな」
 青藍は覚悟を決めたように椀を持つ。額に冷汗を浮かべながらも、きつく目をつむって一気に粥を喉の奥に流し込んだ。
「うう……っ」
 青藍は口を押えて呻いた。カウンターを血管が浮くほど強く握っている。
「青藍さんっ」
 心配になった毬瑠子はカウンターから飛び出して青藍の背中を擦った。クロも小さな手で毬瑠子と同じようにする。
「大丈夫?」
「痛い……、身体が裂けそうだ」
 青藍は荒い息を繰り返している。
 しばらくすると青藍の背中に変化があった。
 着物越しに凹凸を感じる。なにかが背中でうごめいている。
「……っ」
 毬瑠子は顔をしかめた。しかし背中を擦る手を止めることはなかった。
「頑張って、青藍さん」
 その凹凸はだんだんと大きくなり、そしてとうとう青藍の背中から飛び出した。
「きゃっ」
「にゃにゃっ」
 毬瑠子とクロは驚いて、擦っていた手を引っ込める。
「なんだ、これは」
 苦しさに生理的な涙を浮かべている青藍も、それを見て驚愕した。
 青藍から出てきたのは、白い衣を着た老人だった。
 頭は禿げ上がり、顎には白いひげをたくわえ、小柄で貧相な体つきをしていた。
「やはり疫神でしたか」
 マルセルは落ち着いた様子で赤ワインに口づけた。
「疫神って、疫病神と同じ? 人に災いとか病気をもたらすという」
 毬瑠子に「そうですね」とマルセルはうなずいた。
「でも疫病神って家につくんじゃないの?」
 家どころか、疫神がついたのは人ですらない。あやかしがあやかしにつくなんて聞いたことがなかった。
「なんてことをするんじゃ! この鬼は居心地がよかったのに、こんなおいぼれを追い出すなんて、ひどいと思わんのか」
 疫神は憤っている。
「なぜ青藍さんについていたの?」
 毬瑠子が問うと、疫神は腕を組んだ。
「この鬼はいわれのない罪で人々に責められて、生気が抜けて弱っていたんじゃ。すっかりふさぎ込んで悪いほう悪いほうにと思考を巡らすでな。ワシの住処に適しておった」
 疫神はひげをさすった。
「青藍さんを匿った家が土砂にあったのを含めて、青藍さんの周囲の人が不幸な目にあったのは、あなたのせいなのね」
「そうじゃな」
 厄神はうなずいた。
「オレ自身が厄の原因ではなかったのか」
 青藍はまさに憑き物が落ちたような、安堵の表情になった。
「娘、ワシを悪者のように扱わないでおくれ。これが生まれながらのワシの性、役割というものよ」
 疫神は悪びれずに言った。
「さあ鬼よ、この店を出てワシを受け入れておくれ。山に帰ろう」
 疫神が触れようとするのを、青藍は腕を振って払った。
「いやだ」
「なぜだ」
「もう、一人はいやだ」
 青藍はつらそうに顔をしかめて視線を落とした。
「わかるにゃ。ボクもおばあちゃんに会うまではずっと一人だったにゃ。淋しかったにゃ」
 クロが青藍に寄り添った。
「これからボクたちは仲間にゃ」
「仲間……」
 青藍はクロの大きな瞳をみつめた。クロは満面の笑みを浮かべてうなずいた。首の鈴がチリンと鳴る。
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