幕末☆妖狐戦争 ～九尾の能力がはた迷惑な件について～

文久3年

まさかの生贄デビュー（壱）

　今、古びた社の床に座り込みながら、私は全力で「おかしい」と叫びたい。

　いや、絶対おかしいでしょ。

　いきなりわけのわからない森に放り出されたと思ったら、今度はボロい着物を着た男の人たちに囲まれてさ。

「こいつを次の生贄にすればいいんじゃね？」

　なんていう適当な会話によって生贄街道（っていうのも謎だけど）まっしぐらとか。

　マジで誰得！？

　ちょっと落ち着こうか私。今テンパってもきっといいことなど一つもない。

　はい落ち着いてー、深呼吸してー………。




　って落ち着けるかーーー！！

（※主人公は混乱している）


　◇ ◇ ◇

　時は2017年8月。二十一世紀真っ只中の日本に、一人の平凡な、ほんっとーにその辺にいそうなぐらいめっちゃ普通の女子大生がいました。

　その女子大生は、都内のとある薬学部に通う1年生でした。

　際立って成績が優秀だったわけではありませんが、成績はそれなりに良く、友人もたくさんいました。

　顔面レベルもそこそこで、本当にどこにでもいるような、なんの変哲もない女子大生でした。

　そんな女子大生は、夏休みを満喫していました。

　友人と海に行ったり、お出かけして遊んだり、遊園地に行ったり、夏休みの長期バイトをしたり、時たま学校の夏期講習にも行ったり………。

　つまりとても普通に、純粋に夏休みを楽しんでいたのです。

　女子大生は歴史と本が好きでした。歴史は特に幕末が好きで、その辺りの時系列の年表を何度も読んでいました。

　マニアってほどではありませんが、時期的には開国後から戊辰戦争のあたりに一番詳しかったです。

　薬に関する本を読むのも好きでした。そして薬を作ることも好きでした。

　さすがに部屋にフラスコを並べて研究をしているわけではありませんが、身の回りにある薬用植物で簡単な薬を作るのが、女子大生の地味な趣味でした。

　そんなどこにでもいる普通の（くどいようだけど大事なことだから）女子大生は、ある日バイトを終えて、いつものようにアパートに戻ってきました。

　女子大生は一人暮らしをしていました。そんな彼女の部屋はアパートの二階にあります。

　女子大生は特に何も考えていませんでした。まあ、それが普通でしょう。

　鍵穴に鍵を差し込み、鍵を開けてドアを開いた時にも、疲れたからシャワー浴びて寝よー、くらいのことしか考えていませんでした。

　だから思いも寄らなかったのです。




　まさか玄関の床が突然抜けるとは。

　なす術もなく、家の玄関からどこぞへ向けて真っ逆さまです。

　これは地面に叩きつけられたら一発でオジャンじゃない！？と女子大生は一人でパニクりました。

　そしてよくわからないうちに暗いの森の中にポツーンと座っていました。