幕末☆妖狐戦争 ~九尾の能力がはた迷惑な件について~

カホ

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文久3年

不思議な少女(壱)

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 藤山 康順ふじやま こうじゅんは、大坂の街ではそこそこ名の知れた蘭方医である。

 蘭方医学の診察を受けると、大抵高い金を支払うことになるが、康順は破格な治療費を取ることもない。

 だからなのか、彼の診療所にはいつも様々な人が訪れ、様々な階級や身分の方が彼を懇意にしている。

 それに、まだ若いのに診療の腕も良く、街の人々にも大変信頼を寄せられている。

 そんな康順は、一年に一度、夏の間に大坂の周辺を一回りして、大坂に足を運べない病人や怪我人の治療をしていた。

 多くの人を救いたい思いで続けていることだ。 毎年患者は多く、大坂に帰り着くのはいつも初秋になってからだった。

 今年も例年のように診療を終え、康順は大坂への帰路についた。毎年歩いている道だから、特に何も起こらずに大坂へ帰れるはずだった。




 所属藩不明の浪士たちに絡まれるまでは。




 このご時世、蘭方医というのは非常に利用価値の高い存在だ。腕の良い蘭方医はそれこそいろんな藩からお抱え要請がきたりする。

 そして狙われることも多い。蘭方医学で救える人間の方が圧倒的に多いからだ。敵味方問わず、持っておきたい存在だろう。

 だから見た感じ行商人に見えるように姿を変えたんだが、どうやら看破されてしまったらしい。

 彼らから逃げるため、康順は彼らに背を向けて走る。抜刀した彼らが振り下ろした刀が、康順の腰にぶら下げてある背嚢はいのうを切り落としてしまう。

 その荷物の中には食料の類が入っていた。水の入った水筒も一緒だ。

 旅で食料をなくすことはかなり危険なことだ。拾いたかったが、浪士たちに捕まったらさらに何をむしり取られるか、わかったもんじゃない。

 だから康順は必死に走った。

 毎年旅して診察をしているから体力はそこそこあると自負している。自分で言うのもなんだが、康順はまだ若い。

 しばらく無心になって走り続ければ、やがて浪士たちの足音も怒鳴り声も聞こえなくなった。

 ひとまず危機はすぎた。しかし今度は別の問題が浮上した。

 食料の入った袋を落としてしまったから、食いつなぐためのものがなくなってしまったのだ。

 今はまだ昼過ぎだ。昼食は浪士に絡まれる前に済ませたが、大坂に到着するのはどう頑張っても夕方になるだろう。

 今までと同じ速度で歩き続ければ夕方には着くが、それでは絶対に途中で力尽きてしまう。なんせ飲み水も袋の中なのだから。

 しかし戻るわけにはいかない。さっきの浪士たちがいないとも限らない。

 康順は意を決して先を急ぐ。

 できれば体力が尽きる前に大坂の街に到着したい。
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