幕末☆妖狐戦争 ~九尾の能力がはた迷惑な件について~

カホ

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元治元年

それぞれの困惑(参)

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 広間が素っ頓狂な空気に包まれる。

 山崎が、血まみれの人間を連れてきた??

「とりあえず、ここに連れてこい」
「は、はい!」

 バタバタと島田が広間を出て行き、広間に沈黙が落ちる。

「土方さん、こりゃどういうこった?」

 新八がそう聞いてきた。

「知るか。何があったのかは山崎に聞かねえと」
「血まみれってことは、死にかけってこと?」
「どうだろうな。返り血を浴びただけって可能性もあるだろ」

 平助と原田がそんなことを言い合っている。

「長州の間者ってことはないのかい?」

 これは源さんだ。

「なんとも言えんな。少なくとも現時点では」
「そもそも、なぜ山崎くんがそんな人物を連れてきたのでしょうね」

 それも一つの疑問だ。どんな理由があって、山崎はそのような人間を屯所まで連れてきたのか。

 しばらくすると、広間のふすまが開かれ、黒ずくめの姿のままの山崎が入ってきた。

 その後ろには、確かに半身が血まみれの人間を一人連れていた。そしてなぜか三毛猫も一匹。

「山崎 丞、ただいま帰還しました」
「ああ。ご苦労だった」
「……………」

 山崎が跪いて報告している後ろで、血まみれの袴姿の少年は黙ってその場で正座する。

 その少年の顔を見た時、土方は心臓が止まるような思いをした。

 幹部たちや近藤さんが口々にいろんなことを言っているが、土方は何も聞こえていなかった。彼の目は少年の顔に釘付けだった。

 まさか。ありえない。

 どうして………あいつが、ここに?

「土方くん………」

 山南さんが困惑の表情を浮かべながらそう言ってきた。その声は彼にしては珍しく硬い。

 彼もまた、目の前のこの人物について心当たりを見つけたのだろう。




 忘れるはずもない、あの大坂での出会い。




 藤山診療所で見たあの盲目の少女は、忘れるには美しすぎる姿をしていた。だから、見間違うはずもない。

 袴姿の少年に扮したこの者は、間違いなく"彼女"だ。そう断言できる。

「なんで、あいつが」
「わかりません。少なくとも、荷物があるところを見ると、旅をしていたことは確かなのですが」
「む?なんだ?なんの話をしているのだ?」
「……………」

 間に挟まれた近藤さんが不思議そうに土方と山南の顔を見比べている。浅葱色の上着を着た"少年"は、さっきから表情一つ変えていない。

 こいつがあの時の彼女だと考えた時、いろいろおかしいと思うことはある。

 診療所で暮らしている彼女が、なぜ男装して京の都にいるのか。なぜ見えていなかっただろう瞳に光が戻っているのか。なぜ山崎に連れてこられているのか。

 聞きたいことは山のようにある。

 しかし聞きたいことが多すぎて、逆に何を聞けばいいかとっさに出てこなかった。
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