転生ぱんつ

えんざ

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一章

六話 誓い

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 赤髪の女メイは、パンティに変化したウルセーナを握り、街の外へ出ていた。

「このパンツ何も反応がないけど、まさかただのパンツってことはないわよね。そうだったら、私バカみたいじゃない。ちょっとアンタ! いつまで寝てんの? それとも死んでんの? 何とか言いなさいよ、ねえっ!」

 メイはパンティを思いっきり地面に叩きつけた。

「んぎゃっ! ……痛ってえ。あれ、どこだここ?」

「ここは街の外のどこかよ。アンタがあまりにも反応ないから起こしてあげたの」

「起こしてあげたってなんだよ、乱暴すぎんだろ。てかお前誰な――」

「――今日からアンタのパートナーになるメイよ。よろしく。じゃあさっそくだけど、今後の話し進めていくわよ」

「は? ちょっと待てよ。いきなりすぎて状況掴めねえんだけど。仲間には困ってたけど、目覚めていきなり知らない奴にそんなこと言わ――」

「――最初はみんな知らない奴よ。これから知っていけばいいだけ。アンタ仲間に困ってたんでしょ? じゃあ問題ないどころか感謝されてもいいくらいじゃない。ちなみにだけどもう断っても無駄よ。私決めたら頑固だから。無理やりにでもアンタを連れ回すわ」

「びっくりするぐらい自分勝手だなお前。あと話し割り込みすぎだろ。俺の話し聞けよ。なあ、そもそも何で俺なんかとパートナーになろうと思っ――」

「――話しは聞いてるわよ。アンタの語尾まで聞いているのが退屈なだけ。アンタと組みたい理由は、この重い大剣を使う予定だからよ。今は背負うのでやっとだから、あんたのサポートスキルでとりあえず剣を振れるようにしたいってのが一つ。もう一つは追い追い話すわ」

 メイは背負っていた大剣を地面に突き刺す。

「なんだよそれ……。ならもう軽装備でいんじゃねえの? 無理してそんな重たいもの使わなく――」

「――それは人の勝手でしょ。私は大剣って決めてるのよ。これじゃないとダメなの。私はあんたのアドバイス聞きに来たわけじゃないし、指図される筋合いもない。無駄なことは一切話さなくていいから、私の言う通りに動いてくれればいいの。分かった? じゃあさっさと話し進めるわよ」

「待て待て、せっかち過ぎんだろお前。俺のこと分かって言ってんのか? 俺はパンツ――」

「――はけるわ。パンツに変身するのがアンタのスキルなんでしょ? 知ってる。ナビって子から全部聞いたわ。ついでに言うけど、あの子とはもう会ったらダメよ」

「は? 何言ってんだお前。何でナビを知っ――」

「――アンタに決定権はないの。ナビって子と話した結果、もう会わない方がいいって私が判断したの。あの子といると、アンタは甘やかされてダメになるわ。どうせ初心者の街を出ればお別れなんだから、変に情が湧く前にさっさと忘れた方がいいのよ」

「そんなの従えるわけねえだろ! ナビの何を分かってんだ。あいつはめちゃくちゃイイ奴――」

「――ほら! もう既に情が湧いてるじゃない。あんたこの街に来てまだそんなに日が経ってないでしょ? なのにもうこの有り様。この先そういう関係が続いたら一生この街から出られなくなるわよ。そんな風にさせられてるってことがダメって、何で気付かないの? アンタは冒険者。魔王を倒すのが目的なのよ。自分に親身になってくれて嬉しかった? すごく優しくて、楽しくて、好きになっちゃった? 色恋沙汰なんて百年早いのよ」

「別にそんなつもりじゃねえよ、大袈裟だな。それにいきなり魔王だの何だの言われても……。まだやっとレベル2になったとこだぞ。気が早いってもんじゃ――」

「――今はそうじゃなくてもそうなるのが目に見えてるのよ。だから私が軌道修正してあげようとしてるんじゃない。それにのん気に構えてていい事なんてないの。この街は平和かもしれない。でも今も魔王によって苦しめられている人達がいるの、この世界にはね」

「言いたいことは分かるよ。だけど俺なんかより、もっとお前に相応しい奴を探した方がいいんじゃねえかって思――」

「――何度も言わせないで。アンタじゃなきゃダメなの。というよりアンタのユニークスキルが必要なのよ」

「大剣振ることができたらいいんだろ? 力が湧くようなサポートスキル持ってる奴なんてどこにでもいるんじゃねえの? 何で俺を執拗に必要とす――」

「――そんなありふれたスキルじゃダメなの。圧倒的に強くなれなきゃ。はっきり言ってスーパーレア程度のスキルじゃ全然話しにならない。私がアンタを見つけたのはもう運命としか言いようがないのよ。そもそもユニークスキルを持った奴なんて、この世界に微粒子レベルでしか存在しないんだから。百年に一人の逸材って言っても大袈裟じゃないレベルなのよ。それくらい貴重なスキルを持ってるってことを少しは自覚してよね。アンタにしか出来ない事があるの」

「さっきから思ってたけど、お前全然初心者に見えねえよ。一体お前何者なんだ? まるで何か先を知ってるみたいに聞えるぞ。俺じゃなきゃダメって何か理由があって言ってんのか? あれ? 最後まで言えた。よっしゃ勝っ――」

「――アンタがもう少しまともになってから話そうと思ってたけど、もうこの際はっきり言うわ。アンタに理解できるかは分からないけど」

「やっぱり何かあるんだ。そうだと思ったんだよなー」

「単刀直入に言うわね。この世界は魔王を倒さない限り、あと一年で消滅してしまうの。そして魔王を倒すには、強力な一撃で仕留めるしか方法がない。小さな力はいくつあっても無意味なの。だから世界最強の大剣を手に入れて、更にそれを強化するあなたの力が必要なの。分かった?」

「うーん、まだ飲み込めてねえ。でも何でお前はそんなに色々知ってるんだ?」

「何度もやり直しているからよ、この世界で」

「え?」

「この世界は一年に一度、魔王の力よってリセットされているの。リセットすると、この世界に存在していたものは全て一年前の状態に戻るの。だけど、それは元々この世界に存在していたものに限るの。つまりモンスターやNPCは元通りになるけど、別次元からこの世界に転生して来た冒険者はリセット時に存在自体を弾かれて消滅してしまうのよ」

「えっと、NPCって何?」

「簡単に言えば冒険者以外の人よ。そしてNPCは能力の成長がない。特別なプログラムを組まれていない限り初期状態のままよ」

「なあ、じゃあお前はNPCなのか? 冒険者はリセット時に消滅するんだろ?」

「そう、私はNPCよ。ただ、リセット時のバグによって冒険者になったNPCね。幸運なことに、世界がリセットされても記憶だけは繰り越し出来る仕様になってるわ」

「もうわっかんねー。後で読み返して理解しとくか。でもさ、魔王は何でわざわざ一年に一回世界をリセットしてんだ? 何か意味あんのかな」

「恐らく魔王は、自身を倒せるほどに冒険者が成長するのを恐れているのよ。普通に冒険なんてしてたら一年程度じゃ魔王城まで到達することすら出来ないからね。分かった? 時間は限られてる。私とアンタが組めるなんてこんなチャンスは二度とないわ。だから協力して」

「……メイ。一つだけ条件がある」

「はあ? まだ納得出来てないの?」

「やっぱり、ナビとは縁を切れねえ。条件はそれだけだ」

「アンタさあ――」

「――自覚が足りない俺が悪いだけだ。やっぱどう考えてもナビは全く悪くねえよ。自分の出来ることを探して、精一杯やってるだけだよあいつは。もし成長して強くなれるなら戦ってたと思うんだ。なあメイ、俺も負けないように頑張るからナビのことも認めてやってくれよ。お前も同じNPCだったんだろ? 気持ちは分かるんじゃないのか?」

 メイは腕組みをして少しの間沈黙した。

「じゃあこっちも条件を出すわ」

「へ?」

「レベルMAX! スキルレベルMAX! 最強装備!」

 メイは仁王立ちしてそう叫んだ。

「これを一年以内に達成するって誓えるなら勝手にすれば。私はただ不穏分子を排除したいだけなの。あの子自体が嫌いとかそういうくだらない事言ってるんじゃないんだから」

「メイ……、ありがと。誓うよ俺! 絶対に魔王を倒して世界を救ってやるよ!」

「ハァ、簡単に言ってくれるわね。私が何度繰り返して来たと思ってんのよ……」

――突然風が吹いた。生温く、鼻をつんと突く臭いが風に乗って二人の前を通り過ぎた。

「……パンツ、人の姿に戻って。早く」

「ああ、そういえばパンツのままだったな。たしかリリースって言えば――」

――ウルセーナがリリースと唱えた瞬間、パンティは蒸発したかのように白煙と化し、なんだかんだあって人の姿へと戻った。

「つーかパンツって呼び方はないだろ! 俺はウ――」

――メイはウルセーナの口を手で塞いだ。

「あまり大きな声を立てないで。姿勢を低くして私の指す方向を真っ直ぐよく見て。少し離れているけど骸の群れがいる」

「……あ、ちょっと遠くて見えづらいけど人っぽい形したあれか? 確かにうようよしてんな」

「何で初心者エリアに骸が、しかもこんなにたくさん……」

「モンスター見るの初めてだけどちょっとわくわくするな! パレードを遠目で眺めてるみてえだ。ていうか初心者の街は安全なんだからびびってんじゃねえよ。お前らしくねえな」

「何言ってるの……。アンタ本っ当のバカね! この街自体は何かの作用で守られているわけじゃなくて、初心者エリアのモンスターがただパッシブで襲って来ないだけなのよ。それにあれは中級者エリア以上で出てくるモンスターよ。一匹でも今の私たちじゃ手に余るのに、あの尋常じゃない群れの数……。一体あれは……」

「え、ど、どうすんだよじゃあ。何でそんなのがここに来るんだよ」

「誰かが故意に連れて来たと考えなきゃあまりにも不自然よ。今の私たちにはどうすることも出来ない。もうこうなったら街を捨てて逃げるしかないわ」

「えっ! ちょ、じゃあ、とりあえずナビを探さなきゃ――!」

――メイは駈け出そうとするウルセーナの腕にしがみついた。

「待って! そんなことしてたらもう間に合わない。私たちだけでも逃げなきゃ!」

「そんなこと出来るわけないだろ! 離せっ!」

「くっ、だから言ったでしょ! アンタにだけは死んでもらったら困るのよ!」

「頼む、離してくれよ、メイ――」

――ウルセーナは視界に入った鈍い光に目を奪われた。

「おい、何だよあれ……」

「えっ――」

――ウルセーナを釘付けにしている視線の先を、目で追うようにメイは振り返った。

「そんな、嘘でしょ……。何でこんな所にデスナイトが――」

 メイは、骸の大群の中に潜む青白く燃えるデスナイトの眼光を見た。
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