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二章
二十話 同一人物
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日も沈んだ頃、宿の浴場を出たウルセーナとメイは、街の大通りを歩き焼肉店を目指していた。
「お前の風呂は長いってもんじゃねえよ。もう日が沈んじまったじゃねえか。俺なんか10分で上がったんだぞ」
ウルセーナは嫌味っぽくメイに言う。
「女の風呂はあんなもんよ。それにお腹もちょうどいい具合に空いたでしょ」
メイは詫びの一つも入れることなしに、たんたんとウルセーナの言葉を捌いた。
ウルセーナもこれ以上言っても無駄だと諦めたようだった。
「しかし夜になると一段と街に活気が出るな。歩いてるだけでわくわくしてくるぞ」
通りを見渡し、少年のように心躍らせるウルセーナ。
「アンタ、変な遊びに手を出しちゃダメよ。ナビを仲間にする為にお金を貯めないといけないんだから」
「……ナビ、今頃新しい誰かのナビゲーターになってんのかなあ……」
ウルセーナは少し寂しそうに空を見上げた。
「ほら、ちゃんと前を見て歩いて。危ないわよ、人が多いんだから」
「ああ、分かってるよ……」
メイが注意するも、ウルセーナは空を見ながら流れに沿って歩く―――と、案の定ウルセーナは人にぶつかり、相手を下敷きにして地面に倒れた。
メイは呆れた様子で立ち止まると、倒れた相手をみて表情を一変させた。
「……ってて。悪い、ちょっとよそ見してて……ってあれ?」
ウルセーナは目をまるまるとさせて押し倒した相手の顔を覗き込んだ。
「……こちらこそすみませんでした。ちょっとボーっとしちゃってましたから。あ、あの、お怪我はありませんか? こっちは平気ですけど。……え。……あの、何か?」
「――――」
ウルセーナは言葉を失った。
夜の露にしっとりとさせる桃色の髪は、普段より少し色濃く、長く見せた。
その下、小さな顔に不相応な大きな瞳が、街の灯りを受けて潤うように輝いている。そして幼さの残る小柄な体型。
それは紛れもなく、ウルセーナが片時も忘れず想っていた彼女、ナビだった。
「……ナビ」
ウルセーナは呟いた。
「え? ……ナビ? 私のことですか?」
「……ナビ! やっぱナビだよな! びっくりさせんなよ、はっは! ……なあ、その格好はなんだ? いつもと雰囲気が違うけど。つうか、そもそもどうやってここに来たんだよ、お前」
「……あ、あの、人違いされてますよ。私はナビという名前ではありませんから」
ナビと思っていた彼女から、ウルセーナの思いとは全く別の返答が返ってくる。
「はあ? おいおい、何言ってんだよ。じゃあ誰なんだよお前は。はっは! 俺をからかってんのか?」
「……えっと、あの、本当に違うんです。私はユナと申します」
「……ユナ? 冗談で言ってんのか? だってどこからどう見てもお前はナビだぞ」
「いえ、冗談ではなくてですね、私はこの街の――――」
メイがウルセーナの襟を掴む。
「パンツ、その子はナビじゃないわ。同じ姿をしているだけよ」
「――は? 何だよお前。おい、何してんだ……!」
「後で話すから、もう行きましょ。彼女も仕事中みたいだし」
メイはユナから遠ざけるようにウルセーナの襟を強引に引っ張った。
「――えっ! ちょっと! おいおい、待てって!」
「ぶつかって悪かったわね。それじゃこれで失礼するわね」
メイはウルセーナを引きずって行く。
「あ、はい。こちらこそ、どうもすみませんでした。それでは失礼します」
ユナはそう言って会釈すると、人ごみの中へと姿を消した。
ウルセーナはメイに引きずられながらも、ユナの行方を最後まで目で追っていた。
――そして焼肉店の店内。
二人は焼肉を食べ終わり、締めの冷麺をすすっている。
「なあ、あれホントにナビじゃなかったのか?」
「違うわ。姿かたちは全く同じ人間だけどね」
「同じ? もっと詳しく教えろよ。それじゃ全然理解出来ねえって」
メイは冷麺を一束すすると、箸を置いた。
「NPCってのはね、存在をコピーされて方々で使い回されてたりするのよ。元NPCの私のコピーも何処かにいるんじゃないかしらね。でも、これはそんなに珍しいことじゃないのよ、この世界ではね。違うのは名前と職業。あとは環境による性格の違い。生まれ持った性格は変わらないわ」
「ほぼ同一人物ってことか。ふーん……。なあ、じゃあナビはこの世界にもっといっぱいいるのか?」
「まあ、いても後一人いるかいないかってところよ」
箸を取り、再び麺をすすり始めるメイ。
「そっかあ……。あいつ、何してる奴なんだろうな。ユナって言ってたっけな……」
「もう忘れなさい。それ以上は知らないほうがいいわ、きっと。アンタには本物のナビがいるでしょ? それだけでいいじゃない」
「いや、別にただの興味ってだけだよ。ナビはナビで一人しかいないって思ってるけどさ。あんまりにもナビに似てたから……って、ほぼ同じ人間なのか……」
メイは冷麺を食べ終わると、バンと机を叩くように立ち上がった。
「さあ、もう出ましょ。明日からみっちり金稼ぎに励まなきゃいけないからね。アンタに余計なことを考える暇は与えないわよ」
「はいはい、分かってるよ。おし! 明日からがんばるか! ごっそさん!」
ウルセーナとメイは焼肉店を出て、来た道を帰って行った。
その途中、ウルセーナは無意識にユナの姿を探していた。
宿に戻ると、メイは下着姿になりベッドに入って眠った。
そんなメイを気にする様子もなく、ウルセーナはどこか浮かない表情で長椅子に体を横にすると、カーテンの隙間から覗く星を見て、ナビのことを想った。
――オークション開催まで残り15日
目標金額2000万まであと50万(ウルセーナ1070万、メイ880万)――
「お前の風呂は長いってもんじゃねえよ。もう日が沈んじまったじゃねえか。俺なんか10分で上がったんだぞ」
ウルセーナは嫌味っぽくメイに言う。
「女の風呂はあんなもんよ。それにお腹もちょうどいい具合に空いたでしょ」
メイは詫びの一つも入れることなしに、たんたんとウルセーナの言葉を捌いた。
ウルセーナもこれ以上言っても無駄だと諦めたようだった。
「しかし夜になると一段と街に活気が出るな。歩いてるだけでわくわくしてくるぞ」
通りを見渡し、少年のように心躍らせるウルセーナ。
「アンタ、変な遊びに手を出しちゃダメよ。ナビを仲間にする為にお金を貯めないといけないんだから」
「……ナビ、今頃新しい誰かのナビゲーターになってんのかなあ……」
ウルセーナは少し寂しそうに空を見上げた。
「ほら、ちゃんと前を見て歩いて。危ないわよ、人が多いんだから」
「ああ、分かってるよ……」
メイが注意するも、ウルセーナは空を見ながら流れに沿って歩く―――と、案の定ウルセーナは人にぶつかり、相手を下敷きにして地面に倒れた。
メイは呆れた様子で立ち止まると、倒れた相手をみて表情を一変させた。
「……ってて。悪い、ちょっとよそ見してて……ってあれ?」
ウルセーナは目をまるまるとさせて押し倒した相手の顔を覗き込んだ。
「……こちらこそすみませんでした。ちょっとボーっとしちゃってましたから。あ、あの、お怪我はありませんか? こっちは平気ですけど。……え。……あの、何か?」
「――――」
ウルセーナは言葉を失った。
夜の露にしっとりとさせる桃色の髪は、普段より少し色濃く、長く見せた。
その下、小さな顔に不相応な大きな瞳が、街の灯りを受けて潤うように輝いている。そして幼さの残る小柄な体型。
それは紛れもなく、ウルセーナが片時も忘れず想っていた彼女、ナビだった。
「……ナビ」
ウルセーナは呟いた。
「え? ……ナビ? 私のことですか?」
「……ナビ! やっぱナビだよな! びっくりさせんなよ、はっは! ……なあ、その格好はなんだ? いつもと雰囲気が違うけど。つうか、そもそもどうやってここに来たんだよ、お前」
「……あ、あの、人違いされてますよ。私はナビという名前ではありませんから」
ナビと思っていた彼女から、ウルセーナの思いとは全く別の返答が返ってくる。
「はあ? おいおい、何言ってんだよ。じゃあ誰なんだよお前は。はっは! 俺をからかってんのか?」
「……えっと、あの、本当に違うんです。私はユナと申します」
「……ユナ? 冗談で言ってんのか? だってどこからどう見てもお前はナビだぞ」
「いえ、冗談ではなくてですね、私はこの街の――――」
メイがウルセーナの襟を掴む。
「パンツ、その子はナビじゃないわ。同じ姿をしているだけよ」
「――は? 何だよお前。おい、何してんだ……!」
「後で話すから、もう行きましょ。彼女も仕事中みたいだし」
メイはユナから遠ざけるようにウルセーナの襟を強引に引っ張った。
「――えっ! ちょっと! おいおい、待てって!」
「ぶつかって悪かったわね。それじゃこれで失礼するわね」
メイはウルセーナを引きずって行く。
「あ、はい。こちらこそ、どうもすみませんでした。それでは失礼します」
ユナはそう言って会釈すると、人ごみの中へと姿を消した。
ウルセーナはメイに引きずられながらも、ユナの行方を最後まで目で追っていた。
――そして焼肉店の店内。
二人は焼肉を食べ終わり、締めの冷麺をすすっている。
「なあ、あれホントにナビじゃなかったのか?」
「違うわ。姿かたちは全く同じ人間だけどね」
「同じ? もっと詳しく教えろよ。それじゃ全然理解出来ねえって」
メイは冷麺を一束すすると、箸を置いた。
「NPCってのはね、存在をコピーされて方々で使い回されてたりするのよ。元NPCの私のコピーも何処かにいるんじゃないかしらね。でも、これはそんなに珍しいことじゃないのよ、この世界ではね。違うのは名前と職業。あとは環境による性格の違い。生まれ持った性格は変わらないわ」
「ほぼ同一人物ってことか。ふーん……。なあ、じゃあナビはこの世界にもっといっぱいいるのか?」
「まあ、いても後一人いるかいないかってところよ」
箸を取り、再び麺をすすり始めるメイ。
「そっかあ……。あいつ、何してる奴なんだろうな。ユナって言ってたっけな……」
「もう忘れなさい。それ以上は知らないほうがいいわ、きっと。アンタには本物のナビがいるでしょ? それだけでいいじゃない」
「いや、別にただの興味ってだけだよ。ナビはナビで一人しかいないって思ってるけどさ。あんまりにもナビに似てたから……って、ほぼ同じ人間なのか……」
メイは冷麺を食べ終わると、バンと机を叩くように立ち上がった。
「さあ、もう出ましょ。明日からみっちり金稼ぎに励まなきゃいけないからね。アンタに余計なことを考える暇は与えないわよ」
「はいはい、分かってるよ。おし! 明日からがんばるか! ごっそさん!」
ウルセーナとメイは焼肉店を出て、来た道を帰って行った。
その途中、ウルセーナは無意識にユナの姿を探していた。
宿に戻ると、メイは下着姿になりベッドに入って眠った。
そんなメイを気にする様子もなく、ウルセーナはどこか浮かない表情で長椅子に体を横にすると、カーテンの隙間から覗く星を見て、ナビのことを想った。
――オークション開催まで残り15日
目標金額2000万まであと50万(ウルセーナ1070万、メイ880万)――
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