狐火郵便局の手紙配達人

烏龍緑茶

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第6話:「戻りし青白き光」

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 浮遊庭園での任務を終え、湊とあかりは「風の道」を戻っていた。行きのときは足がすくんで震えていたが、今は不思議と恐怖が薄れている。風の渦が足元を撫でるたび、心が澄んでいくような感覚に包まれた。

 (俺、少しだけ成長できたのかもしれない。)

 湊は思った。配達人としての務めは、ただ手紙を運ぶだけではないのだろう。これは、自分自身を試し、乗り越えていく旅でもあるのだ――そんな確信が胸に灯った。

 狐火郵便局へ戻ると、久遠が待ち構えていた。

 「おかえり! おお、やるじゃん。高所が怖い人間のくせに、よくまあ成功したね!」

 久遠は飛び跳ねるように笑う。その無邪気な表情に、湊は苦笑しながら肩をすくめた。

 「まあ……怖かったけど、なんとかやり遂げたよ。」

 その言葉には、自分でも少し誇らしさが混じっているのを感じた。

 棚を整理しているあかりは、特に褒めることも叱ることもない。ただ静かに仕事を続けている。だが、その背中からはどこか満足したような空気が漂っていた。湊にはそれだけで十分だった。

 「でも、これからが本番だよ。」

 久遠が指差した先に、山積みになった手紙が並んでいる。色とりどりの封筒が目に飛び込んでくる。漆黒の封筒に銀の紋様が浮かび上がったもの、桜の花びらのように柔らかな色合いのもの、奇妙な模様が刻まれた厚紙のようなもの……どれも人間界では見たことのないデザインだ。

 宛名も異様だった。「鬼火」「河童」「雪女」「蜘蛛の巣姫」――どれもあやかしの名ばかりで、人間の名前は一つもない。

 湊はその光景にしばし呆然と立ち尽くした。

 (こんなにもたくさんの依頼が……こんなにも、人間とあやかしの間に届けられる想いがあるのか。)

 だが、その思いと同時に、胸の奥に湧き上がる小さな決意も感じる。この手紙たちを届けることで、自分は人間とあやかしを繋ぐ役割を果たせるのだ。湊はその事実に、どこか誇らしさを覚えた。

 外を見ると、郵便局の局舎は夜霧の中で青白い光を放ちながら、まるで夢のように揺れている。

 狐火ランタンの光は静かに揺らめき、この場所が異界への入り口であり、人間界とあやかし界を結ぶ接点であることを物語っていた。

 湊は肩の力を抜いて深呼吸をした。そして、翻訳の石を懐に確かめ、狐火ランタンを見上げる。

 「よし、次の手紙を受け取ろう。」

 彼はあかりと久遠に向かって静かに微笑んだ。「俺はもう、逃げ出したりしない。」

 久遠は悪戯っぽい笑みを浮かべ、「それは頼もしいね」と言った。あかりはほんの僅かに頷き返す。その仕草は、湊にとって何よりの答えだった。

 局内には次々と新たな依頼が舞い込んでいる。

 こうして湊は、正式に「あやかし郵便配達人」としての道を歩み出した。手紙は人の想いを運び、想いはやがて世界を変える力となる。

 夜はまだ深い。霧はなお濃く、狐火の光が微かに揺れる。

 だが、この局がここにある限り、人間とあやかしを繋ぐ物語は続いていく。湊は、その物語の一部になったことを、心底頼もしく感じていた。
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