狐火郵便局の手紙配達人

烏龍緑茶

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第24話:「鬼火の余韻」

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 鬼の祭りの会場を後にした湊は、夜の山道を一人進んでいた。狐火ランタンの青白い光が足元を照らし、静寂が耳を包む中、祭りの記憶が心にくっきりと刻まれていた。

 (手紙は、確かに鬼たちの心に届いた。そして、憎しみを超えて人と鬼の新たな絆を紡いだ。あの光景を、俺はきっと一生忘れない。)

 湊は胸に手を当て、あの祭りの熱気と、鬼たちの燃えるような眼差しを思い返した。言葉には不思議な力がある。それを信じた彼の手紙が、過去に囚われた心を解きほぐし、未来へと繋いだのだ。

 (手紙は、時を超え、種族を超え、心を繋ぐ。無限の可能性を持つこの力を、俺はもっと信じていこう。)

 そんな思いを胸に、狐火郵便局を目指す足は軽やかだった。しばらく歩くと、霧の向こうにお馴染みの青白い光がぼんやりと見えてきた。

 「ただいま戻りました。」

 扉を開けると、そこには変わらない温かな空気が満ちていた。あかりが静かな笑みを浮かべ、湊を迎え入れる。

 「おかえりなさい、湊。無事でよかった。」

 「ただいま、あかり。鬼の祭りは素晴らしい場所だったよ。そして、あそこで手紙の持つ力を、改めて実感することができた。」

 湊が微笑むと、久遠が駆け寄ってきた。

 「湊、お帰り! どうだった? 祭り、楽しかった?」

 「楽しいだけじゃなかったけど……とても興味深かったよ。鬼たちは人間を信じきれない心を抱えていた。でも、手紙を通じて少しずつ変わり始めたんだ。」

 湊の言葉に久遠は目を輝かせて頷く。

 「すごいね! 僕も湊と一緒に鬼の祭りに行ってみたいなぁ。」

 「いつか一緒に行こう。」湊は優しく久遠の頭を撫でた。

 それを見ていたあかりが静かに言葉を紡ぐ。

 「湊、また少し成長したわね。今回の配達は、ただ手紙を届けるだけじゃなかった。鬼たちの心に触れ、新たな一歩を見届けた。とても立派なことよ。」

 「ああ、俺は毎回、手紙を届けるたびに成長している気がする。そして、手紙の力の可能性をもっと信じたくなるんだ。」

 湊の言葉に、あかりは満足げに頷くと、次の手紙を手渡した。

 「さあ、次の配達の準備をしましょう。次はどんな場所へ行くのか、楽しみね。」

 湊は手紙を受け取り、内容を確かめる。

 「……風に乗って移動する、不思議な果樹園の精霊宛てか。」

 思わず声に出した湊に、久遠が興奮した様子で駆け寄る。

 「風に乗る果樹園? それってどんな場所? 面白そう!」

 「確かに、面白そうだな。ただ……これは少し難しい配達になりそうだ。」

 あかりが目を閉じ、静かに言葉を添える。

 「風を読む力が試されるでしょうね。果樹園にたどり着くには、風と調和する感覚が必要になるはずよ。」

 湊はその言葉に決意を込めて頷いた。

 「どんな場所へでも手紙を届ける。それが俺の役目だからな。そしてどんな困難も、乗り越えてみせる。」

 湊は狐火ランタンを高く掲げ、出発の準備を整えた。狐火郵便局の青白い光が彼の背中を押すように優しく揺れる。

 「行ってらっしゃい、湊。気をつけてね。」

 「ありがとう、久遠。必ず無事に帰るよ。」

 湊は微笑みながら扉を開け、冷たい夜風に身を委ねた。

 その夜、山道を進む湊の耳には、風のささやきが聞こえていた。狐火ランタンの光が頼りなく揺れながらも、確かに彼の足元を照らしている。

 (風を読む力が必要か……俺にできるだろうか?)

 不安が胸をかすめるが、すぐに祭りでの出来事を思い出す。鬼たちの憎しみが希望に変わる瞬間を見たとき、自分が手紙を届ける意味を改めて感じた。

 (大丈夫だ。俺は手紙の力を信じている。そして、風だってきっと俺を導いてくれる。)

 その思いを胸に、湊は一歩ずつ進む。やがて山道の奥に、不思議な光景が広がっていた。宙を漂うように揺れる木々と花々――まるで空中に浮かぶ庭園だ。

 (あれが、風に乗る果樹園……一体どうやってあそこへ行けばいいんだ?)

 湊は見たことのない風景に圧倒されながらも、次第に気持ちが高揚してくる。手紙を届ける先がどんな場所であっても、自分にはやるべきことがある。

 (風の流れを感じよう。風はきっと俺を果樹園へ導いてくれるはずだ。)

 静かに耳を澄ませると、風が優しく鼓膜を揺らす。その音は、彼を導こうとするかのように柔らかで力強い。

 湊は風に背中を押されるように歩みを進めた。果樹園の光景が次第に近づき、手紙の新たな物語が動き出そうとしていた。

 (手紙は、想いを届けるだけではない。繋がりを生み、未来を照らす光だ。)

 狐火ランタンの光が夜を切り裂き、湊を導く。その灯りは、決して消えることのない希望の光だった。
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