学生だけど、魔術学院の音楽教授で最終兵器な先生を好きになってしまいました。

茜部るた

文字の大きさ
88 / 113
27

第26楽章 運命の日

しおりを挟む
 
 夏休み中の追加補習を受け、時々会う友人と街にできた新しい店の話をし、利用しよとした図書館で魔術師学科のレベルの低い嫌がらせを無視し、利用者の増加で営業することになった学院のカフェで夏季限定のスイーツを自分のご褒美にする。
 それを何度か繰り返すと、いつの間にか後期が始まり、消えた音楽教授のことはそのうち誰も気にしなくなった。

 耳には時々、結界の割れる前兆のような嫌な音が聞こえたけど、あの何とも言えない金属のような高音は聞こえることはなく、一見すると普通な日々を過ごしていた。

 だが不安定な結界の外では人々の知らない激闘が繰り返され、宮廷魔術師の数は僅かに減っていた。
 最前線に立つ特殊な装備の魔術師がいくら魔物を削っても減らず、街には徐々に、だけど確実に恐怖の瞬間が近づいていた。

 褒めてくれる教授がいない実技テストの後、冬休みもあともう少しと言う日。
 ついに恐れていた事態が起きる。

 朝日課の掲示板のチェックをしていたコールディアは、学院が既にいつもの雰囲気ではないことに気づいた。
 結界が壊れた音はしていない。
 だけど、出入りする宮廷魔術師関係の人が多い気がする。
 緊急事態に備え、徐々にその配置を増やしていたとは言え、こんなに出入りした日はない。

「コールディア!」

 後ろから声をかけてきたのは、同じように異変に気付いたフレウティーヌ。その隣にはいつもの能天気さなど忘れ、不安で染まったラッピーが一緒にいた。

「コールディア、何か変ですわ」

「うん…もしかしたら、外で何かあったのかもしれない…」

「…教授は何かおっしゃっていませんでしたの?」

「…結界が危ないかもしれないって…もうずっと会えてないの」

「あのさ、今更なんだけど、私教授が何してるのかよくわからないんだよね」

 フレウティーヌは以前本人に一部を聞いたことにより、多少察することはできる。だがラッピーは経緯を知らないため、“よくわからないけど戦える”らしいことしかわからなかった。

「物凄くざっくりした説明だけど、先生は本当は音楽教授じゃなくて宮廷魔術師だった、っていう感じかな。しかもかなり特殊な」

「え、じゃあもうずっといないのってそういうこと?」

「うん…きっと結界の外でずっと魔物を殲滅してると思う…」

 3人は見えるわけではない、ずっと遠くにあるであろう結界の方を見る。
 今もノートヴォルトはその奥で戦っているのかもしれない。

「夏休み中に1度だけ会えたんだけど、その時にはもう結界を保つのが難しいかもって言ってた。それと…」

 言い淀むコールディアに、2人の視線が結界の方から彼女に戻る。

「多分、死の覚悟をしてるかもしれない…」

「そんな…そんなとんでもないことしてるの? あの教授が?」

「そうだよ、レングラント様よりずっと魔力は上…最前線に立ち続けるって…」

「え? だってレングラント様ってショスターク家だよ? お父様に並んでこの国筆頭の魔力のはずじゃ…」

「隠された魔術師ですわ」

「何それ?」

「ショスターク家の隠された魔術師。レングラント様は先生の異母兄弟」

「なに、それ」

キィィィィィンッ

「結界の音!」

 結界が破られた音が1つ響いた。
 1度この音を経験している学生は、音が聞こえた瞬間にパニックに陥った。
 
 その場に立ち尽くす者、避難を開始するもの、魔術師学科らしい上級生は臨戦態勢に入っている。

「早く運び込め! 間に合わなくなるぞ!」

 そう校門の方から聞こえ、振り向けば何かの機材と共に宮廷魔術師を束ねるクレド公爵がいた。

「あれは何をする気なの?」

「わからない、そこまで先生と詳しく話す時間はなかったの。でもろくなことじゃない気がする。広場に行こう。他の学生と一緒にいた方がいいと思う」

 彼女たちが移動する間も、宮廷魔術師が次々と同じ方向に向かっていた。
 前に破られた時は5分もたたずに魔物の侵入があった。
 彼らの行く先にはもう戦いが始まっているかもしれない。

「私、訓練なんてなんの役にもたたない気がしますの」

 走りながらフレウティーヌがそう言う。
 ラッピーも「私も」と同意した。

「私もそう思うよ。だって魔術師学科の教授でさえまともに狼に当たらなかったでしょ。戦闘訓練をしてる魔術師と魔力が高いだけの机上の空論者とは違うんだよきっと」

 広場には既に多くの学生が寄り集まっていた。
 まだここに魔物の気配はなく、学生を守るためなのか他の理由なのか、宮廷魔術師が何人か周囲に見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...