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第26楽章 運命の日
しおりを挟む夏休み中の追加補習を受け、時々会う友人と街にできた新しい店の話をし、利用しよとした図書館で魔術師学科のレベルの低い嫌がらせを無視し、利用者の増加で営業することになった学院のカフェで夏季限定のスイーツを自分のご褒美にする。
それを何度か繰り返すと、いつの間にか後期が始まり、消えた音楽教授のことはそのうち誰も気にしなくなった。
耳には時々、結界の割れる前兆のような嫌な音が聞こえたけど、あの何とも言えない金属のような高音は聞こえることはなく、一見すると普通な日々を過ごしていた。
だが不安定な結界の外では人々の知らない激闘が繰り返され、宮廷魔術師の数は僅かに減っていた。
最前線に立つ特殊な装備の魔術師がいくら魔物を削っても減らず、街には徐々に、だけど確実に恐怖の瞬間が近づいていた。
褒めてくれる教授がいない実技テストの後、冬休みもあともう少しと言う日。
ついに恐れていた事態が起きる。
朝日課の掲示板のチェックをしていたコールディアは、学院が既にいつもの雰囲気ではないことに気づいた。
結界が壊れた音はしていない。
だけど、出入りする宮廷魔術師関係の人が多い気がする。
緊急事態に備え、徐々にその配置を増やしていたとは言え、こんなに出入りした日はない。
「コールディア!」
後ろから声をかけてきたのは、同じように異変に気付いたフレウティーヌ。その隣にはいつもの能天気さなど忘れ、不安で染まったラッピーが一緒にいた。
「コールディア、何か変ですわ」
「うん…もしかしたら、外で何かあったのかもしれない…」
「…教授は何かおっしゃっていませんでしたの?」
「…結界が危ないかもしれないって…もうずっと会えてないの」
「あのさ、今更なんだけど、私教授が何してるのかよくわからないんだよね」
フレウティーヌは以前本人に一部を聞いたことにより、多少察することはできる。だがラッピーは経緯を知らないため、“よくわからないけど戦える”らしいことしかわからなかった。
「物凄くざっくりした説明だけど、先生は本当は音楽教授じゃなくて宮廷魔術師だった、っていう感じかな。しかもかなり特殊な」
「え、じゃあもうずっといないのってそういうこと?」
「うん…きっと結界の外でずっと魔物を殲滅してると思う…」
3人は見えるわけではない、ずっと遠くにあるであろう結界の方を見る。
今もノートヴォルトはその奥で戦っているのかもしれない。
「夏休み中に1度だけ会えたんだけど、その時にはもう結界を保つのが難しいかもって言ってた。それと…」
言い淀むコールディアに、2人の視線が結界の方から彼女に戻る。
「多分、死の覚悟をしてるかもしれない…」
「そんな…そんなとんでもないことしてるの? あの教授が?」
「そうだよ、レングラント様よりずっと魔力は上…最前線に立ち続けるって…」
「え? だってレングラント様ってショスターク家だよ? お父様に並んでこの国筆頭の魔力のはずじゃ…」
「隠された魔術師ですわ」
「何それ?」
「ショスターク家の隠された魔術師。レングラント様は先生の異母兄弟」
「なに、それ」
キィィィィィンッ
「結界の音!」
結界が破られた音が1つ響いた。
1度この音を経験している学生は、音が聞こえた瞬間にパニックに陥った。
その場に立ち尽くす者、避難を開始するもの、魔術師学科らしい上級生は臨戦態勢に入っている。
「早く運び込め! 間に合わなくなるぞ!」
そう校門の方から聞こえ、振り向けば何かの機材と共に宮廷魔術師を束ねるクレド公爵がいた。
「あれは何をする気なの?」
「わからない、そこまで先生と詳しく話す時間はなかったの。でもろくなことじゃない気がする。広場に行こう。他の学生と一緒にいた方がいいと思う」
彼女たちが移動する間も、宮廷魔術師が次々と同じ方向に向かっていた。
前に破られた時は5分もたたずに魔物の侵入があった。
彼らの行く先にはもう戦いが始まっているかもしれない。
「私、訓練なんてなんの役にもたたない気がしますの」
走りながらフレウティーヌがそう言う。
ラッピーも「私も」と同意した。
「私もそう思うよ。だって魔術師学科の教授でさえまともに狼に当たらなかったでしょ。戦闘訓練をしてる魔術師と魔力が高いだけの机上の空論者とは違うんだよきっと」
広場には既に多くの学生が寄り集まっていた。
まだここに魔物の気配はなく、学生を守るためなのか他の理由なのか、宮廷魔術師が何人か周囲に見えた。
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