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終曲 先生と私のピアノ・フィナーレ 9
しおりを挟む「どこで出会ったんですか?」
「魔術学院の中等部の時だよ」
「え、その時からのお付き合いなんですか!?」
「それじゃ僕が幼女趣味の変態じゃないか」
「先生、言葉選んでくださいよ。その時は先生と生徒だよ。私が先生を好きになったのはもっと後。学院生になってからだよ」
「なんで好きになったんですか? やっぱり顔ですか?」
「顔は…実は顔ってずっとちゃんと知らなかったの。前は髪が長くて猫背で陰気で暗くてだらしなくて授業すっぽかして」
「なかなか言うね」
「ある時先生がチェロを弾いてくれて。髪が弦に挟まるって縛ったの。そこで初めてちゃんと先生の顔を見て衝撃を受けて…あ、顔だ。顔だわ」
「君そう言えばあの時全然練習に身が入らなかったよね」
「だって…そんなに綺麗な顔してるとは思わなかったから…でも本当はもう少し前から先生の優しさに気づいてたんです! 顔だけじゃないです!」
「えー、じゃあ先生はいつ好きになったんですか? どこを好きになったんですか!?」
女の子の当然とも言える質問に、コールディアまで興味津々の目を向ける。
「君まで気にしてる?」
「そりゃ気になるじゃないですか。私がずーーーっと好きって言ってもだめだったんですよ。気になるじゃないですか!」
「明確にはわからないよ…ずっと僕はあんな状態だったしね…でも気づけば君の色んな音を拾っていた・・・声の変化もだし、足音とかも・・・いつの間にか色々と自制することが増えて…この先は君たちには少し早いよ。好きなのは声。他はコールディアにしか教えない」
女の子がきゃーっと騒ぐ。
「先生、私先生とコールディアさんの連弾聞きたいです! 昨日先生を待ってる時に言ってたやつ!」
「そんな話したの?」
「しましたね」
すると中の一人が「よいしょ」と言ってもう1台のピアノから椅子を持ってきた。
断る理由も特になく、2人して並んで腰かける。
「なんか懐かしいですね」
「あの時と同じでいいの?」
「はい」
いつか中等部の特別授業で弾いた、“氷上のカノン”が始まる。
あの時と変わらぬメロディ。だけど少しだけノートヴォルトの音は優しい気がする。
またこうして共に音楽を奏でられる幸福感に、コールディアの指も踊った。
長調が短調に変わり、仕返しのラグタイムに変わる。
だがおどけた雪だるまが着地するはずのステップは終わらず、コールディアが声を上げる。
「え、え、聞いてない、また!?」
最初の長調と同じ曲調に戻ったけど、彼は流れるような音符が連なるアラベスクを奏でて来た。
流暢な低音に一瞬戸惑うも即興でついて行く。
装飾的なメロディは低音から高音へ。ノートヴォルトからコールディアに行ったり来たりを繰り返し、やがて美しい和音の余韻を響かせて終わった。
息の合った2人の変奏曲にいつの間にか女の子たちだけでなく子供たちの聴衆ができており、歓声と拍手が沸く。
「君少し練習サボってたでしょ?」
「教員にそんな時間ないんですよ」
「でも楽しかった」
「私も楽しかったです」
「コールディア」
「なんです?」
「愛してる」
「ん…アフィ…」
ピアノに向かい合ったままキスを始めた2人に、年齢に関係なく女の子は大はしゃぎし、男の子はどこか気まずそうに視線をさ迷わせた。
この小さな音楽堂には、2人の夢と、子供らの希望が詰まっていた。
それがどんな形になっていったのかは、きっと後世の人々が語るのだろう。
ピアノを愛しただけなのに運命に翻弄された一人の魔術師と、その魔術師の奏でるピアノに惹かれた少女。
2人が起こした愛の奇跡は2人だけのものに留まらず、多くの人を幸せに巻き込む予兆があった。
これは2人にとって終曲ではなく、序曲なのだから。
Fine
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