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#1 夫の浮気を突き止めたら監禁された

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どうしても我慢できないタイプの人間がいる。
嘘つきだ。

「じゃ、俺行ってくるから」
妙にかっこつけた格好の京介がなんでもない顔を装ってそう言った。

「行ってらっしゃい」
私はテレビを見ながらそっけなく見送った。

……高校の友達と会うのにジャケットねえ。


バタン、という玄関が閉まる音

スマホの写真を見る。
決意を揺るがせないために。

さっきと同じジャケットを着た京介の後ろ姿。
……その横には明るい髪色の女がいる。

その腕は親しげに組まれている。

夫は嘘つきだ。

京介と結婚して3年になる。

きっかけは友人の紹介だった。

私も良い年齢だったし、嘘彦もそうだった。
お互い都合があった私たちはスピード婚だった。

だけど、結婚してしばらくして、京介の些細な言動が気になった。

浮気の可能性にはずっと気がついていた。

だから、ある時から何度か用事があると嘘をつき外出するふりをした。

思った通り、京介は私がいない隙に女を家に連れ込んでいた。



薄暗い室内。
ぼうっとテレビを見ていた。

がちゃ、という音。

「ただいま……って、なんで暗いの」

部屋が暗いことに戸惑っている京介。

「おかえり。遅かったじゃない」


「あ、ああ……盛り上がってね」

へえ、盛り上がってねえ……


リモコンでテレビを消す。

「なあ、あかりつけていいか?」

私の様子にひるんだように、ジャケットをハンガーにかけながら、京介が遠慮がちにそう言う。

「どうぞ」

明かりがつく。


京介はネクタイを緩めながら戸惑ったように私を見る。

「なんだよ……やけに不機嫌じゃないか……」

私は机の上に、印刷した写真を並べる。

絶句する京介。

「バレてないとでも思った?」


「なんだこれは」

写真を前に京介は呆然とした顔で呟く。

「私のセリフなんだけど……?」

「盗み撮りしたのか」

静かな怒りをたぎらせて京介は私を睨む。

沈黙が続き、それから、京介は息を吸うと、


「……ただの同級生だ」

と言って顔を逸らした。

正直に告白する最後のチャンスを手放した京介を冷たく見たながら、

「じゃあこれは?」

私は写真をもう一枚見せる。

京介と明るい髪の女が腕を組んでいる写真だ。


京介がさらに絶句する。

「ずいぶん仲良いのね」


ガタガタ震える京介。

それから、
「違う……!」

と声を張り上げる。

ダサいやつ……

ため息をつく。


「今日は疲れてるだろうから、明日ゆっくり話しましょう。その方がいいでしょう?」

笑顔で京介にそう言う。

京介は顔を真っ青にしている。

「じゃ、おやすみ」




次の日、朝起きると京介がいなくなっていた。


畳まれたパジャマ、私室(もともとは書斎だったが、最近は私室になっていた)
にそのままになっているスーツ。

玄関からは靴がなくなっている。


スマホを見ると、LINEが一通来ていた。京介からだ。

文面、

「これからのことを考えるために一旦心の整理をしたい」

プチン、と頭の中で何かがキレる。


今更挽回の余地なんてない。

話の通じないクソみたいな旦那……

全てこれでお別れだと思っていた。

そのはずなのに……




「お待たせ」

カフェにつくと智子がすでに席に座っていた。

「ううん」

智子は私を見るとニコッと笑った。


「私も今来たところだから」

「そっか……ついに旦那さんに話したんだね」
「うん。もう我慢の限界で……」
智子が心配するような顔で私を見る。
「あのさ」



「辛いことあったら私になんでも話してよね」


「え?」
私は、それは智子の心からの心配の気持ちからの言葉だと思った。
「ありがと……」
「話ならいつでも聞くから」



思わず笑ってしまう。
「どうしたの? 妙に優しいけど……」

私がそう言うと智子は慌てて、

「ううん、私は真琴の味方だからね」

と笑った。


「はあ?何? 大袈裟なんだから……」

つられて私も笑う。

その時は、知りもしなかった……

本当に大変なことが迫っているとは……




驚くべきことに、本当に京介はへらへらしながら帰ってきた。


深夜、寝室で寝ていると物音が聞こえた。

ゆっくりと身体を起こし、静かにリビングのドアを開ける。

「あ……」

京介はしまった、という顔で私を見る。


「何してるの?」

「いや、別に……」

私は何かを探した後のように散らかったローテーブルを見る。

「ふうん」

ま、どうせ証拠写真を探してたんだろうけど。

証拠写真なら、とっくに別の場所に隠してある。
というか、スマホに元データ持っているから私から取ったところで無意味なんだけど……

「まあいいや、帰ってきたんなら。離婚の話進めよ」

私がそう言うと、京介は慌てて、
「ちょ、ちょっと待てよ、なんだ、離婚って」
と聞き返す。
それから、

「そりゃ俺も悪いところあったけど、お前も悪いじゃないか」

と言った。

「は?」

私が悪い?

呆然として京介を見る。

「俺に黙って盗撮するようなことをして……」

何を言ってるのか理解できずに固まってしまう。

「あの、あなたが浮気してるから探偵に依頼したんだけど」


あまりの話の通じなさに頭がいたい。こめかみを揉む。

「あのさあ、夫婦の問題なんだから、その時点で俺に話すべきだろう?」

「はあ?」

「とにかく、離婚は同意しないからな」


私はため息をつく。

「わかった。じゃあ、裁判するってことね」

「なあ、話し合おう」


これ以上、一分一秒もこの男と話したくない。



「あなたが出て行かないなら私が出ていくから」

そう言って立ち上がる。

京介はじっと私を見ていた。

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