【完結】匂いフェチと言うには不自由すぎる

325号室の住人

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初めてティルの匂いに気付いた時には、本当に驚いた。

忙しさを理由に王都の屋敷に帰宅しなくなった、下位貴族家当主である父の匂いと同じだったから。

「帰ってきていたのか。これまで僕を放って置いて、何なんだ!!」

一言文句を言ってやりたくて、匂いを追ったんだ。



僕はもう何年も、王都の屋敷に1人で過ごしていた。

なのに未だに領地が傾いたままだなんて、どうして……
どうして迎えに来てくれないんだと。
僕は、ずっと寂しかったんだと…言ってやりたかったから。


けれど、匂いの元へ辿り着けば、そこに居たのは背の高い若い男─ティル─だった。






僕には、特殊な能力─たぶん魔法?─が使える。
それに最初に気付いたのは、8歳の時だ。
ある日、僕専属の侍女と僕専属の侍従の匂いが同じだと気付いた。
翌日、侍女と侍従は僕のところへやって来て、結婚が決まったと言った。

それから数年後、僕が自分にそんな能力があることを忘れていた頃…
母と同じ匂いがする商人が屋敷に出入りするようになって数ヶ月、母は僕を置いてその男と逃げてしまった。

それから、僕は恋人同士の匂いがわかるようになったのだ。



だから、父の匂いがしたのがティルだとわかった時、ティルが父と付き合っていると思った。

──こんな若い男に入れ込んで!

そう思ったら、もう許せなくてティルに八つ当たりしたんだと思う。

けれど、まさか同じ学園生でしかも隣のクラスだったなんて…

ショックだったけれど、父と同じ匂いなのだ。

絶対に父を捕まえて文句を言ってやろう。
そう思ってティルの家までついて行った。






驚いた。
まさか、あんな小屋に9人で住んでいるなんて。

中に入っても驚いた。
我が家のエントランスと、たぶん同じ広さだ。

3代前まで、我が家は世間から《崖っぷち貴族》と呼ばれる程に貧しかった。
しかし2代前、僕のお祖父様は魔法陣の作成が得意で手紙の魔法を開発し、販売した。
それが当たって家は上向き、その時に建てた家なので、それなりに大きく、あちこちの装飾にも金がかかっているのだ。

残念ながら父にその魔法の才能と商才は遺伝しなかったようで、現在、祖父の興した店はあっという間に人手に渡り、父はもう14年は領地に引きこもっている。

僕しか住んでないのに…
もったいない限りだ。



話が飛んだけれど、ティルとその弟妹たちは小綺麗で、室内もそれなりに整っていた。

学園の慈善活動で教会の孤児院で見た子どもたちのような、ボロを纏って足元は裸足で汚れている…というようなことはなく、ティルの弟妹たちは皆賢そうだった。

それに、頭の匂いを嗅いだ時にも変な匂いはしなかったし、シラミもいない。とても清潔だった。

それから、食事が美味しかった。

食べたことのない味だったし、素材の正体もわからなかった。

それに、皿を手で持って食事するなんて!!

でも美味しかったから、許してやることにした。


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