6 / 35
5
しおりを挟む夕食後、ティルが僕を送ってくれると言って、背負ってくれた。
ティルの広い背中に父の匂い…
まだ父も母も王都に住んでいた幼い頃、父に背負ってもらったことを思い出した。
そのうち、どうやら眠ってしまったようだ。
僕は眠りが浅い方で、あまり他人に起こされた経験がないので、地面に立つティルの背中から落とされた時は本当に驚いたんだ。
父にも母にも裏切られたような状態な僕は、あまり他人を信用できなかったハズなのに…
僕はまた明日も、ティルに会いたい。
ティルを浮気相手に選んだ父に文句を言うためではなく…
ティルに会いたいと思ったんだ。
だから、僕に対して過保護気味な爺やが平民ティルに向けた嫌悪感に慌てて、だいぶ辻褄の合わないことを言ってしまった。
僕は普段から父母とは住んでないし、明日からは夏休みで学園は閉鎖されるのに……
すっかり寝る準備を整えると、ティルが変な誤解していないといいなぁと思いながら、お祖父様の魔法陣を使ってティルに手紙を書いた。
『先程は爺やがすまなかった。明日は何時から仕事なんだ?迎えに行きたい。 ジャン』
お祖父様の魔法陣は、今や《一家に一枚は持っている》と言われている。
けれど、返事は来ず……
僕は、返事を待っていたハズがいつの間にか眠ってしまい、気付いたら朝だった。
俺の朝は、たぶんジャンより早い。
家の玄関扉の外側に乱雑に置かれたゴシップ新聞を、魔法で契約している家へ送るのが最初の仕事だ。
主に貴族家のメイド部屋や侍女の詰所、商人の家の執務机、それから主要な井戸端へ貼り出す。
ちなみに、毎晩貴族や王族の醜聞データを印刷所を借りて印刷しているのは俺自身で……印刷が終わったら俺の家へ集まるように魔法で設定しているのだ。
気配探知の魔法に、嘲笑を条件に加えると、前後30分を録画して、俺のポケットの中の魔石に保存している。
結構売れているけれど…紙代や印刷所を借りる費用が意外と高いので、3日分の米代にしかならない。
つっても、小麦に比べりゃだいぶ安価だから、購入は1ヶ月分ドンと買って魔法の収納庫に置いてある。
利益重視じゃなくて、魔力操作能力や精密な魔法の調整をメインにしてるので、まぁ良っかと思っている。
新聞が終わったら、母ちゃんが帰ってくる前に風呂代わりのたらいの準備と、弟妹の朝ごはんの支度をし終えたら、次の仕事のため市場へ向かう。
じーさんとばーさんで細々と経営している鮮魚店では意外なことに三枚おろし程度でもとても重宝されているのだ。
手紙に気付いたのはその時だ。
ジャンへ、じーさんとばーさんの鮮魚店の場所の地図を書いたものを返事として送っておいた。
家にとは書いてないし、構わないだろ。
けれど、店に現れたジャンはブリブリ怒っていて…
どうして怒ってるのか聞いたら、
「どうして昨夜のうちに返事をくれないんだ!」
って。
お貴族様のお怒りポイントが平和すぎて、思わず笑ってしまったのは許して欲しい。
0
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる