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しおりを挟むその後、すぐに現場の監督者の男性から作業再開の合図があり、ティルは行ってしまった。
僕は、トイレを借りるため家主の女性のところへ行った。
女性は僕を見るなり、
「あら、お坊ちゃんがどうしたの?」と。
「お手洗いを拝借したいのですが……」
すると、女性は何故か僕の股間の辺りを見て、
「あら? あらあらあら…どなたかご友人が参加されていらっしゃるの?」
と言うので、
「はい。あの黒髪の彼です。」
答えれば、
「まあまあまあ…平民なのね。」
女性は言う。
また身分のことを言われるのかと、
「平民ですが彼は学園生で、とても成績優秀なのですよ。」
と言えば、
「うんうんうん、わかるわぁ。自分のものアピールよね。
大丈夫、もうこんなお婆ちゃんですもの。あなたの《つがい》は奪わないわ。」
女性は言った。
「つがい…?」
「あら、知らないの? この国の婚姻は《つがい至上主義》なのよ?
ただ、貴族の場合はたまに、番を見つけられない同士で婚姻することもあるけれどね。」
「そうなんですか?」
「まぁ、その場合はどんなに相性が良くても、子どもはどう頑張っても1人しか生まれないわ。」
僕が目を見開けば、女性は頷く。
「それに《つがい》が後から現れた時、再婚したとしても誰も咎めないのよ。」
父母のことが頭を過ぎった。
「あなた、そこがそんななら、あの彼はあなたの《つがい》ね。
良かったわね、そんな若さで《つがい》が見つかるなんて、ラッキーよ!!」
「ラッキー?」
「そうね…こっちの言葉で《幸運》という意味よ。」
「幸運…ティルと出会えたことが、幸運…………」
僕は、ティルを見た。
ティルは歳上からの指示を受け、どんどん荷物を運んで行く。
炎天下、眩しい程にティルが光って見える。
他の人を見る。
目に眩しくはない。
ティルを見る。
重そうな、鞘に入った剣の束を肩に担ぎ、両手はその剣のグリップ部分を握っている。
《癒やしの風》と心の中で念じる。
ティルの元に風が吹いたようで、またシャツが捲れて臍が見えた。
他の人にも同様にやってみるけれど、何も起こらなかった。
「ほらね。貴方の魔力も、彼を《つがい》だと言っているわよ?」
僕はまたティルを見る。
すると股間が急に熱くなって……
「うっ」
僕は慌てて股間をおさえる。
「あらあら。あなた、そのままじゃ居られないでしょう? 一度帰った方がいいわ。あの彼には伝えておくから。」
「はい。」
幸いここは僕の屋敷まですぐだったので、女性にティルへの伝言を頼んでそのまま歩いて帰ることにした。
ただ、やっぱり僕は、何も知らないお坊ちゃんだった。
1つは、《つがい》に対して反応した体は、《つがい》に対して発散しない限りはなかなか消えてくれず、微熱として体に残ってしまうということ。
もう1つは、伝言は、頭のはっきりした人に頼むべき……ということだ。
帰宅した僕は、爺やに軟禁状態にされてしまったのだから。
結局僕は、ほとぼりが冷めるまでティルに会えなくなったせいで、ティルに伝言が伝わって居なかったことに気付けないまま過ごしてしまったのだった。
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