【完結】匂いフェチと言うには不自由すぎる

325号室の住人

文字の大きさ
10 / 35

   9

しおりを挟む

その後、すぐに現場の監督者の男性から作業再開の合図があり、ティルは行ってしまった。

僕は、トイレを借りるため家主の女性のところへ行った。

女性は僕を見るなり、

「あら、お坊ちゃんがどうしたの?」と。

「お手洗いを拝借したいのですが……」
すると、女性は何故か僕の股間の辺りを見て、

「あら? あらあらあら…どなたかご友人が参加されていらっしゃるの?」
と言うので、

「はい。あの黒髪の彼です。」
答えれば、

「まあまあまあ…平民なのね。」
女性は言う。

また身分のことを言われるのかと、
「平民ですが彼は学園生で、とても成績優秀なのですよ。」
と言えば、

「うんうんうん、わかるわぁ。自分のものアピールよね。
大丈夫、もうこんなお婆ちゃんですもの。あなたの《つがい》は奪わないわ。」
女性は言った。

「つがい…?」

「あら、知らないの? この国の婚姻は《つがい至上主義》なのよ?
ただ、貴族の場合はたまに、番を見つけられない同士で婚姻することもあるけれどね。」

「そうなんですか?」

「まぁ、その場合はどんなに相性が良くても、子どもはどう頑張っても1人しか生まれないわ。」

僕が目を見開けば、女性は頷く。

「それに《つがい》が後から現れた時、再婚したとしても誰も咎めないのよ。」

父母のことが頭を過ぎった。

「あなた、そこがそんななら、あの彼はあなたの《つがい》ね。
良かったわね、そんな若さで《つがい》が見つかるなんて、ラッキーよ!!」

「ラッキー?」

「そうね…こっちの言葉で《幸運》という意味よ。」

「幸運…ティルと出会えたことが、幸運…………」

僕は、ティルを見た。
ティルは歳上からの指示を受け、どんどん荷物を運んで行く。
炎天下、眩しい程にティルが光って見える。

他の人を見る。
目に眩しくはない。

ティルを見る。
重そうな、鞘に入った剣の束を肩に担ぎ、両手はその剣のグリップ部分を握っている。
《癒やしの風》と心の中で念じる。
ティルの元に風が吹いたようで、またシャツが捲れて臍が見えた。

他の人にも同様にやってみるけれど、何も起こらなかった。

「ほらね。貴方の魔力も、彼を《つがい》だと言っているわよ?」

僕はまたティルを見る。
すると股間が急に熱くなって……
「うっ」
僕は慌てて股間をおさえる。

「あらあら。あなた、そのままじゃ居られないでしょう? 一度帰った方がいいわ。あの彼には伝えておくから。」
「はい。」

幸いここは僕の屋敷まですぐだったので、女性にティルへの伝言を頼んでそのまま歩いて帰ることにした。



ただ、やっぱり僕は、何も知らないだった。

1つは、《つがい》に対して反応した体は、《つがい》に対して発散しない限りはなかなか消えてくれず、微熱として体に残ってしまうということ。

もう1つは、伝言は、頭のはっきりした人に頼むべき……ということだ。

帰宅した僕は、爺やに軟禁状態にされてしまったのだから。

結局僕は、ほとぼりが冷めるまでティルに会えなくなったせいで、ティルに伝言が伝わって居なかったことに気付けないまま過ごしてしまったのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

王太子殿下に触れた夜、月影のように想いは沈む

木風
BL
王太子殿下と共に過ごした、学園の日々。 その笑顔が眩しくて、遠くて、手を伸ばせば届くようで届かなかった。 燃えるような恋ではない。ただ、触れずに見つめ続けた冬の夜。 眠りに沈む殿下の唇が、誰かの名を呼ぶ。 それが妹の名だと知っても、離れられなかった。 「殿下が幸せなら、それでいい」 そう言い聞かせながらも、胸の奥で何かが静かに壊れていく。 赦されぬ恋を抱いたまま、彼は月影のように想いを沈めた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎月影 / 木風 雪乃

溺愛王子様の3つの恋物語~第2王子編~

結衣可
BL
第二王子ライナルト・フォン・グランツ(ライナ)は、奔放で自由人。 彼は密かに市井へ足を運び、民の声を聞き、王国の姿を自分の目で確かめることを日課にしていた。 そんな彼の存在に気づいたのは――冷徹と評される若き宰相、カール・ヴァイスベルクだった。 カールは王子の軽率な行動を厳しく諫める。 しかし、奔放に見えても人々に向けるライナの「本物の笑顔」に、彼の心は揺さぶられていく。 「逃げるな」と迫るカールと、「心配してくれるの?」と赤面するライナ。 危うくも甘いやり取りが続く中で、二人の距離は少しずつ縮まっていく。

処理中です...