【完結】匂いフェチと言うには不自由すぎる

325号室の住人

文字の大きさ
22 / 35

   21

しおりを挟む

落下しながら反転したジャンの顔が見えるようになった。

ジャンはぎこちなくも笑顔になると、何か喋っているようで口をパクパクと開閉している。

最初は魔法の詠唱でもしているのかと思った。
けれど、一向に魔法は発動しない。
しかも、なんて言ってるのかわからない。

「はぁ? 聞こえない。ジャン、喋ってないで魔法使え!!」

「……………………」

「だから、聞こえないって言ってンだろ! クソ!!もっと早く飛ぶんだ、俺!!」

その時、雲もない快晴の中に稲妻が走った。

そのうちの1つがジャンに当たり、ジャンは瞬間的に気を失う。

「ジャーーーーーンンッ」

咄嗟に手を伸ばした俺にも雷は襲い掛かり、俺も意識を失った。






「ちょっと、祖母ばーちゃん!! あたしの大事な息子に、何してくれとんじゃーーーー!!」

声が響き、私は動きを留めた。

咄嗟に振り向けば、そこにはかわいいかわいい私の孫!!

「ジュリちゃん!! 本物??」

その時、孫から稲妻が走り来るのが見えて、私は不甲斐なくも意識を飛ばした。






目が覚めた。

上体を持ち上げ首を巡らせれば、右にはジャン、左には魔法の剣で戦ったジジィがいる。

2人はまだ眠っている。

ジジィはともかく、ジャンは本当に生きているのか、顎の下辺りで脈が触れるか確認した。

指先に鼓動を感じるのを待つ間、呼吸を確認したくて口元へ耳を寄せた。

音は……隣のジジィのいびきで聞こえねぇ…

俺は更にジャンに顔を近付けた。

ジャンからの甘い花の匂いに誘われるように、俺はジャンの薄く開いた唇を間近に見……

「わああぁぁぁぁーーーーー!!!」

ガチッ
んちゅっ

突然飛び起きたジャンの起き上がる勢いで後ろに倒れた俺は、事故チュウしてしまった。

それだけじゃなく、歯も当たって、鉄の味がする。

「てぃるぅ、血が……」

まだ寝惚けたような表情のジャンが、出血しているであろう俺の唇を、舐めた……

「すごぉい、てぃるの血、花の蜜の味がするねぇ…おいし……」

ペロペロと舐めるジャンの舌は柔らかく、そのうち唇で甘噛みするようになってきた。

俺はジャンの動きを止めないように緩く抱きしめる。

こんなことされて、徐々にこちらも起き上がる。
起き上がったこちらは、俺に覆い被さるジャンのあちらと、洋服越しに触れ合う。

──ジャン、欲情して……?

「ん…ふ、…あっ……」

思わず声を出してしまえば、目の前のジャンの瞳の焦点が合って行くのを感じた。

それから、

「ぅわあぁぁぁぁぁーーー!!」

ジャンは叫ぶと、俺から跳び上がりながら距離を取った。

数分、真っ赤な顔に瞳を潤ませて口をパクパクさせた後、

「ごめんティル! 僕、夢だと思って思う存分シちゃった。ごめん!!」

慌てて詫びるジャンの姿に、少し残念だと思った俺は、きっと健全な17歳だと思う。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...