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「鼻血止まったかな?」

言って瞼を上げて驚く。
なんと、もう辺りは夕焼け空だった。

ジャンはどうしたろうかと枕を探るけれど反応がなく、俺は横向きから仰向けになった……のだが……

チュッ

あ、いやいや、音はしてない。ただ、頭の中で効果音が鳴っただけだ。
今度は前に向かってうつらうつらしていたジャンの唇と俺の唇が触れた。

しかも、ジャンは起きないし……
ジャンの奴、軟体過ぎるだろ!!

それに……

「う…ううう! うう!!」

口からの呼吸が全くできなくて、苦しい。
俺は、バタバタと手足を動かし、何とか脱することができた。

手の甲で口元を拭って、ジャンを振り返ると、完全にベンチの上で眠っていて……
俺はジャンを横抱きにすると、飛んで帰った。






帰ったら、早速風呂へ案内された。
ジャンのことは脱衣所の長椅子に寝かせる。

この領には昔から日本の記憶を持った人間が生まれやすいらしく、そこはまさしく昭和の銭湯だった。

俺はジャンをそこへ寝かせたまま、早速ひとっ風呂浴びることにして浴室へ続く木枠のガラスの引き戸を開けると、

フワッ

頭の上に何か降ってくる。

手に取れば、スーパー銭湯で100円で売ってるペラい白タオルだった。

俺はそれを手早く腰に巻きつけると、早速洗い場へ向かった。

さすがにプラスチックはなかったらしく、桶屋椅子は木でできていた。
それを、蛇口に赤と青の○が付いた壁の前にセットして、そこへ掛ける。

それがスイッチになっていたようで、桶へ向かってと頭上から、お湯が噴き出した。

予想より水量や勢いが強いので、これをこの後脳天から浴びることになるのを想像すると恐ろしい。

いつもより念入りに、シャンプー3回しているうちに体を垢すりされ、コンディショナーしている間に石鹸で体を洗われ……
直後、コントみたいに上から大量のお湯がザバザバと掛けられれば、あっという間に清潔な俺になった。

……にしても。

首、やられなくて良かった。


風呂から上がれば、ジャンがぼんやりとした表情で上半身を起こしていた。

「風呂入れるか? ちょっと特殊だから、使い方教えてやるよ。」

「……うん。」

ジャンは、うっすらと頬を赤らめて、するすると脱衣して行く。

「あ、いつも洗ってもらってたりするのか?」

訊ねると、コクリと頷く。

「爺やに。」

とりあえず、に抵抗がないみたいなんで、できるだけ振り返らないようにジャンの手を引き、俺がさっき使っていた風呂椅子に座らせると、

「ギャ…………………………」

ジャンは、オートで洗われて行った。

あとは辺境伯邸の使用人にやってもらうことにして、俺は風呂場を後にした。

約1時間後、夕食会場の宴会場のようなところに現れた、浴衣に半纏姿のジャンは、思わず襲いたくなるほどに色っぽかった。


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