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再会
しおりを挟むそして、その日はやって来た。
母上と彼女がお茶会をしているサロンの窓に向かって立ち、彼女の到着を待つ。
幼い頃の彼女は、王子様が出てくるお話が大好きだった。
だからテディで会っていた時も、できるだけ《王子》感を出して会っていた。
そんな訳で、背後に彼女の気配を感じた時、少し緊張したけれど僕はできるだけ絵本の王子様みたいに振る舞った。
彼女の目の前に跪き、手の甲にキスをすると、彼女を見上げた。
彼女は驚いて僕を見下ろしていたけれど、次の瞬間には頬を朱に染めて、とてもかわいらしい。
目玉が飛び出しそうに目を見開いて……
初めて会った時を思い出した。
それから、ソファへ移動して隣り合って座る。
また会えたら、こんなことを話そう、あんなことを話そう、いろいろと考えていたものの、頭は真っ白になってしまって何も口から出て来ない。
彼女を見ていれば思い出せるかと、彼女のことを見つめる。
けれど、彼女の表情の一つ一つがかわいらしくて、ますます彼女が欲しくなる。
その時、彼女の顔がずっと赤いことに気付いた。
自分が魔力過多だった時代を思い出して、熱があるのかと思い至る。
「顔が赤いね。体調がすぐれない?」
心配になって訊ねるも、頭を振るばかりで声は聞けない。
喉が痛かったりするんじゃなかろうか。
「本当に?」
彼女の表情の変化を見逃すまいと正面から彼女を見るけれど、彼女の顔は赤いままだった。
とにかく心配で、彼女のおでこと自分のおでこに掌を当てて、熱がないか確認すると、僕の体温と同じくらいだった。
これならお茶会は続行できそうだ。
「熱はなさそうだね。安心した。」
僕は言うと、嬉しくなった。
……のだが……
彼女は依然として僕と視線を合わせず、しかも今度は口元に手を当てた。
「熱でも頭痛でもなく、吐き気があるの? お花摘みに行く? それとも…侍女を呼んでコルセットを緩めようか?」
頭の中で思いつく限りの体調不良の原因を言うけれど、彼女の反応は微妙だった。
でも、その首を傾げるの……!
「かわいい……」
けれど、心配は心配だ。
彼女の顔がずっと赤いのも気になる。
僕は彼女を休ませたくて、以前お茶会に潜入した時のように彼女を横抱きにすると、彼女が使う客室のベッドを目指した。
到着すると、掛布団を捲って彼女をおろす。
とにかく早く休ませなければと、靴を脱がすと、彼女は貧血を起こして後ろに倒れてしまう。
間一髪彼女を支えると、思いの外彼女に密着してしまう。
抱きしめてるみたいだし、彼女の体の柔らかさや彼女の匂いに頭がクラクラする。
途端に、足の付け根に、魔力や熱が集まるような気がして、必死に気を逸らす。
ぜぇ、はぁ……
呼吸も荒いし心拍数も上がるけれど、こんなところで滾ってはダメだ。
また、天井裏から気配を感じる。
こうして彼女に触れてしまっては、再び彼女と離れるなんて無理だ。
だから、母上には絶対にバレてはいけない。
勃ちそう……なんて。
僕は必死に魔力を散らすと、彼女が急にモゾモゾと動き始めた。
その時!
「キャーーーーーッ!!」
一瞬、この部屋付きの侍女の顔が見えると、その侍女による悲鳴が聞こえた。
途端に人が集まってくる。
──バレた。
これでまた、彼女とは会えなくなってしまう。
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