悪役令嬢の育て方 本編終わり

325号室の住人

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元悪役令嬢と、夢の中?

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「そういえば、月齢はどのくらいなのかしら。」
ルイーズ様を観察する。

腕や足の太さで言えば、日本では新生児と呼ばれていた頃だろうか。
でも首は据わりつつあるような感じがある…というのは、前世の記憶なのかなぜかわかった。

ただ、自分がどんな人間だったのか、死因や名前、年齢や立場などは何も憶えていない。
もしかしたら、ローズマリアンナとして生まれてから記憶が戻るのに時間がかかったから、記憶が曖昧になってしまったのかもしれないけど。



そんなことを考えていたら、どこからともなく声が聞こえた。

「ちょっと! アナタ転生者なんでしょ?」

子供役の声優のような可愛らしい声だ。
内容は子供らしくないけれど。

「ちょっと! こっちよこっち。」

周囲を確認するけれど、この部屋には私と眠るルイーズ様しか?

「アタシよ。喋ってるのはアタシ。ルイーズよ! ただし、ルイーズが眠ってる時じゃないとアタシの精神は出てこられないから、アナタの頭に直接話し掛けてるわ。」

──わぁ、異世界っぽい。

「ねぇ、そこのアナタ、この声聞こえてるんでしょ?ねぇ!」

きっと夢の中なのだろう。
私は聞こえていること、記憶の曖昧な転生者であることを伝えた。

「やっぱりね。じゃあさ、ルイーズを苦しめてるヤツを、アナタ追い出してくれない?」
「ルイーズ様を?」
「ほら、アナタがぐるぐる巻きからルイーズを助けてくれたんでしょ?」
「あれって、スワドリングじゃなかったの?」
「違うんじゃないかな。アタシはそのスワ?は、知らないんだけどさ、乳母のお婆ちゃんから専用の布を受け取ったのに、別の布でギチギチにしてルイーズを泣かせてさ。
それを理由にジンを呼び付けて色目使ってさ。
アタシ、あの女、大っっっ嫌い!」
「あの女?」
「そうよ! でも、名前はわからないの。ルイーズが起きてる時はアタシ、音しか一緒に聞けないからさ。
でも、また明日もココでルイーズを寝かせてくれたら報告するわ。」
「わかったわ。よろしくね。」



物音が聞こえた気がして、ベッドから体を起こす。
やっぱり眠っていたみたいだった。目を擦る。

物音はジン様が入浴して戻って来た音だったみたい。
ジン様はいつものガウンを着て、窓際で立ったまま月を見上げていた。

「ジン様…」

囁くような声で話し掛けると、ジン様はすぐに振り返る。

「マリア…」

笑顔を見せてくれたものの、お疲れ顔だ。

「眠った方が、良いのでは?」

隣に立つと、自然と指が絡まった。

私も月を見上げたものの、何だか隣からの視線を感じる。
気付かないふりをしていたら、視線が少し逸れる。

「ルイーズ、ぐっすりだね。」

私もチラリとルイーズ様を見てから、
「そうですね。」
答えれば、
「寝かし付けてくれたんだね。ありがとう、マリア。」

ジン様は私の肩を抱いて、
チュッ
私は耳の上にキスを受ける。

照れてジン様の腕から抜け出そうとすれば、
「ごめん。寝ようか。」
ジン様は自ら私を解放し、先にベッドへ向かう。

私も手前側からベッドへ向かって掛布の中へ入るけれど、ジン様はルイーズ様の近くまでは来ずにベッドの端っこでこちらに背中を向けて横になっていた。

「ジン様、おやすみなさい。」
私は、ジン様の背中に声を掛ける。

「おやすみ。」
返事には私の名前はない。

「ジン様…」
私が声を掛けると…

「ごめん。つい、触れたくなってしまって…」
ジン様は私に背を向けたまま。

何て返したら良いのか、言葉に詰まる。

「今日はもう遅いから明日話そうか。」
「そうですね。おやすみなさい。」
「うん、おやすみ。」

もしかしたら、ジン様には嫌われてしまったかもしれない。

もう婚姻関係にあるのだし、肩を抱かれたりキスしたりは、きっと普通の夫婦ならとっくの昔に済ませていると思うもの。

でも今は、そんな恋人同士みたいなことをするよりも、ジン様には早く眠ってもらいたい。
あんなにお疲れなら、そのうちジン様が体調を崩されてしまうのではと心配だし…

そんなことを考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。






ジン視点

背中の向こうから2人分の寝息が聞こえるようになったので、僕は普段と同じようにルイーズのすぐ隣まで移動した。

マリアはルイーズのすぐ向こうで眠っている。
僕は少し腕を伸ばし、マリアの髪を一房手に取ると、口付けた。

「おやすみ、マリア。」

瞼を閉じる直前に、愛しい人の寝顔を目に焼き付ける。

──どうか、夢の中では仲睦まじい恋人同士のような関係になれますように…

そう願いながら、僕は眠りについた。


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