悪役令嬢の育て方 本編終わり

325号室の住人

文字の大きさ
22 / 49

元辺境伯令嬢、現公爵夫人の帰宅 3

しおりを挟む

「まずは、先日のロンパスと布オムツをお返しするわね。」

シャンテ様は、ルイーズ様曰く《アタシの一張羅》という、フリル多めのロンパースと布オムツをテーブルに置いた。

「もう、ウチの工場で製品化することができたの。だから是非マリアンナちゃんにはデザイン料を支払いたくて…
それは、ウチの店がこのゲイルが出資してる店だから、この人との取引契約になるんですって。」

シャンテ様は、今度は書類ケースから1枚の書類を出して説明した。

「ここにマリアンナちゃんの署名と、ここにアタシの署名が入るわ。」

私は契約書を一通り読むことにする。
隣に座るジン様も、横から顔を出して書類を読んでくれる。

《デザイン料として、初年度は製品化したロンパス一千枚分の料金で買い取らせていただく。》
とある。
布オムツも同様に一千枚分の料金で買い取り、翌年からはまた契約更新時に相談となっている。

「このロンパスはとりあえず貴族の女性たちをターゲットにするつもり。赤ちゃんがぐずることも減るし、いちいち布を巻き直す手間もなくなる。何より連れててかわいらしいもの。絶対に売れるわよ。」

シャンテ様は鼻息も荒く、熱弁を振るう。

私はちょっとお金の価値がわからないので、ジン様にお任せすることにした。
ジン様は部下らと検討するとして書類を預かり、その話は終わった。

「それから、ルイーズのことなのだけれど…」

シャンテ様が切り出す。
やっぱり、隣領である公爵領へ連れて帰られるのかしら。

「このままここで、マリアンナちゃんが立派な《悪役令嬢》に育ててくれないかしら。」

そこまで続く言葉に、私はポカンとしてしまった。

「ルイーズには、王家へ婚約者としての契約を取り付けるつもりなの。
それも隣国の、ね。あの子はそこで《悪役令嬢》としての本領発揮となるわ。
そうしないと、ストーリーが回らないもの。」

シャンテ様は、みんながみんな転生者であるように話す。

現にジン様の表情を見るに、ストーリーについては何も分かっていないように感じる。
まぁ私も、ストーリーの中身についてはわかっていないのだけれど。

「ストーリー…とは?」

ジン様がシャンテ様に質問した。

「あぁ。ジンは登場人物だものね。いいわ。教えてあげる。」

そうしてシャンテ様が話したのは、こんな内容だった。

ある国とその隣国は、互いの国のために王子と王女とを婚約者として立てることで、和平の条約を結ぼうとした。
けれど、国の王女はどうしても隣国にやりたくないとゴネて、代わりに、我儘な辺境伯令嬢のルイーズとの婚約を結ぶこととなった。
ただ、親睦をはかるために通う学園で王子が《真実の愛》に目覚め、ルイーズはその女に嫌がらせをするが、その女が国の聖女だとわかり、嫌がらせが罪として罰せられ、国外追放という名で捨てられてしまって……云々…………というストーリー。

「最初はアタシも、ジンとマリアンナちゃんの間に生まれた娘がルイーズになればいいと思ってたんだけど…
隣国で既に同級生になるはずの王子が生まれてしまったのよ。
なのに2人はまだ出会ってもいなかった。
だからルイーズという娘が、この辺境伯家に必要だったのよ。
まぁ、間に合って良かったわ。アタシ、グッジョブ!!」

私とジン様は、シャンテ様の話に納得しようとした。
でも、全然納得なんてできない。

もうすぐ出会ってひと月となるルイーズ様との生活を振り返る。
大変なこともあったけれど、楽しい日々だった。

なのに、婚約して婚約者に裏切られて捨てられるなんて、どこかで聞いたことのあるようなストーリーのために、ルイーズ様を育てなければいけないなんて、ルイーズ様が不憫である。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

甘そうな話は甘くない

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」 言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。 「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」 「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」 先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。 彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。 だけど顔は普通。 10人に1人くらいは見かける顔である。 そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。 前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。 そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。 「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」 彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。 (漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう) この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。  カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。

自国から去りたかったので、怪しい求婚だけど受けました。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アミディアは婚約者と別れるように言われていたところを隣国から来た客人オルビスに助けられた。 アミディアが自国に嫌気がさしているのを察したオルビスは、自分と結婚すればこの国から出られると求婚する。 隣国には何度も訪れたことはあるし親戚もいる。 学園を卒業した今が逃げる時だと思い、アミディアはオルビスの怪しい求婚を受けることにした。 訳アリの結婚になるのだろうと思い込んで隣国で暮らすことになったけど溺愛されるというお話です。

心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。 理由は他の女性を好きになってしまったから。 10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。 意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。 ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。 セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。

すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~

水川サキ
恋愛
家族にも婚約者にも捨てられた。 心のよりどころは絵だけ。 それなのに、利き手を壊され描けなくなった。 すべてを失った私は―― ※他サイトに掲載

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

婚約破棄された令嬢、気づけば宰相副官の最愛でした

藤原遊
恋愛
新興貴族の令嬢セラフィーナは、国外の王子との政略婚を陰謀によって破談にされ、宮廷で居場所を失う。 結婚に頼らず生きることを選んだ彼女は、文官として働き始め、やがて語学と教養を買われて外交補佐官に抜擢された。 そこで出会ったのは、宰相直属の副官クリストファー。 誰にでも優しい笑顔を向ける彼は、宮廷で「仮面の副官」と呼ばれていた。 その裏には冷徹な判断力と、過去の喪失に由来する孤独が隠されている。 国内の派閥抗争、国外の駆け引き。 婚約を切った王子との再会、婚姻に縛られるライバル令嬢。 陰謀と策略が錯綜する宮廷の只中で、セラフィーナは「結婚ではなく自分の力で立つ道」を選び取る。 そして彼女にだけ仮面を外した副官から、「最愛」と呼ばれる存在となっていく。 婚約破棄から始まる、宮廷陰謀と溺愛ラブロマンス。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

処理中です...