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元辺境伯令嬢、現公爵夫人の帰宅 3
しおりを挟む「まずは、先日のロンパスと布オムツをお返しするわね。」
シャンテ様は、ルイーズ様曰く《アタシの一張羅》という、フリル多めのロンパースと布オムツをテーブルに置いた。
「もう、ウチの工場で製品化することができたの。だから是非マリアンナちゃんにはデザイン料を支払いたくて…
それは、ウチの店がこのゲイルが出資してる店だから、この人との取引契約になるんですって。」
シャンテ様は、今度は書類ケースから1枚の書類を出して説明した。
「ここにマリアンナちゃんの署名と、ここにアタシの署名が入るわ。」
私は契約書を一通り読むことにする。
隣に座るジン様も、横から顔を出して書類を読んでくれる。
《デザイン料として、初年度は製品化したロンパス一千枚分の料金で買い取らせていただく。》
とある。
布オムツも同様に一千枚分の料金で買い取り、翌年からはまた契約更新時に相談となっている。
「このロンパスはとりあえず貴族の女性たちをターゲットにするつもり。赤ちゃんがぐずることも減るし、いちいち布を巻き直す手間もなくなる。何より連れててかわいらしいもの。絶対に売れるわよ。」
シャンテ様は鼻息も荒く、熱弁を振るう。
私はちょっとお金の価値がわからないので、ジン様にお任せすることにした。
ジン様は部下らと検討するとして書類を預かり、その話は終わった。
「それから、ルイーズのことなのだけれど…」
シャンテ様が切り出す。
やっぱり、隣領である公爵領へ連れて帰られるのかしら。
「このままここで、マリアンナちゃんが立派な《悪役令嬢》に育ててくれないかしら。」
そこまで続く言葉に、私はポカンとしてしまった。
「ルイーズには、王家へ婚約者としての契約を取り付けるつもりなの。
それも隣国の、ね。あの子はそこで《悪役令嬢》としての本領発揮となるわ。
そうしないと、ストーリーが回らないもの。」
シャンテ様は、みんながみんな転生者であるように話す。
現にジン様の表情を見るに、ストーリーについては何も分かっていないように感じる。
まぁ私も、ストーリーの中身についてはわかっていないのだけれど。
「ストーリー…とは?」
ジン様がシャンテ様に質問した。
「あぁ。ジンは登場人物だものね。いいわ。教えてあげる。」
そうしてシャンテ様が話したのは、こんな内容だった。
ある国とその隣国は、互いの国のために王子と王女とを婚約者として立てることで、和平の条約を結ぼうとした。
けれど、国の王女はどうしても隣国にやりたくないとゴネて、代わりに、我儘な辺境伯令嬢のルイーズとの婚約を結ぶこととなった。
ただ、親睦をはかるために通う学園で王子が《真実の愛》に目覚め、ルイーズはその女に嫌がらせをするが、その女が国の聖女だとわかり、嫌がらせが罪として罰せられ、国外追放という名で捨てられてしまって……云々…………というストーリー。
「最初はアタシも、ジンとマリアンナちゃんの間に生まれた娘がルイーズになればいいと思ってたんだけど…
隣国で既に同級生になるはずの王子が生まれてしまったのよ。
なのに2人はまだ出会ってもいなかった。
だからルイーズという娘が、この辺境伯家に必要だったのよ。
まぁ、間に合って良かったわ。アタシ、グッジョブ!!」
私とジン様は、シャンテ様の話に納得しようとした。
でも、全然納得なんてできない。
もうすぐ出会って一月となるルイーズ様との生活を振り返る。
大変なこともあったけれど、楽しい日々だった。
なのに、婚約して婚約者に裏切られて捨てられるなんて、どこかで聞いたことのあるようなストーリーのために、ルイーズ様を育てなければいけないなんて、ルイーズ様が不憫である。
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