30 / 49
元悪役令嬢、初夜?
しおりを挟む「ほら、お料理が冷めちゃう。急いでください!」
後ろにいるジンからは呼吸音すら聞こえない。
「ジン、早くぅ~…」
チラッと振り返れば、ジンの目は爛々としており…
こんな御馳走を前にフリーズしている暇があるのかと全く理解できず、無意識に首を傾げてしまう。
すると、前を向き直した時に背中に何かが近付く気配がした。
首筋には熱い息が当たる。
背中の真ん中辺りに冷たい指先が触れる。
「ジン?」
「ん…」
外は暖かだったし、あれだけの飾りをぶら下げていてもびくともしない分厚い礼服を着ているのだもの。寒いということはないはず……となると、もしかして緊張してる?
でも、背中は細かいカギホックが続いているもの。
緊張に震える指先には難しいんじゃ…?
でもそんな心配は不要だったようで、胸元は少しずつ解放されている感じがして、腰骨までの圧迫が解けると、ドレスがストンッと床に落ちた。
「ふぅ…」
今日は、背中で紐を結ぶタイプのコルセットに、ペティコートではなくドロワーズを着ている。
「さ、食べましょう。」
テーブルに向かおうと一歩踏み出せば、
──あぁ…脱いでも純白…!
仕方なく、コルセットの最初の紐を解くのもジンにお願いすることにした。
だって、ここにはジンしか居ないんだもの。
「ジン、ごめん。この紐も…」
すると…
「マリア。これ以上は僕も我慢が…」
「あ、そうよね? 貴方の礼服も白だもの。ジンも脱いで。早く食べたいものね。」
「………………あぁ。」
ジンは少し恥ずかしそうに頬を染めながら、上着とブーツを脱いで室内靴に履き替える。
それから私の手を引いてとある扉の中へ入ると、私の背中の紐を解き、自分はスラックスを脱いで、あっという間に普段邸内で穿いているものに着替え、私には後ろ手にジンの長袖のシャツを手渡して先にその部屋を出てしまう。
コルセットを外してジンのシャツを着てからその部屋を出ると、ジンはベッドの足側の縁に腰掛けていた。
「ジン?」
そちらへ近付こうとすれば、ジンは私と目も合わせずに少し慌てた様子でテーブルに着く。
何だか様子がおかしいような気がしたけれど、私もテーブルに向かった。
「いっただきまーす!」
「……………ます。」
今日はどう探してもスツールはなかったので、ソファに並んで座る。
今回もまた、フォークは1本しかない。
「まぁ、仕方ないわよね。婚姻式の後というのは、こういうものだもの。それじゃ、ジン。あ~ん!」
「え…」
ジンは、目の前に差し出された肉を目が寄りそうになりながら見ている。
「ほら。私も食べたいけど、慣習に則るなら、先に花嫁が花婿に食べさせるのよね?」
「あぁ。」
パクッ
するとジンは大きな口を開けて意外と簡単にペロッと食べてしまった。
「それじゃ次は、マリアが。あ~ん。」
──…ちょっと大きいんじゃ? でもお腹空いてるし、トライするわ。
はむっ
けれど、口にはあとちょっとのところで入り切らず、でも諦めずに咀嚼して、飲み込んでからはちょっとお行儀悪いけれど口の周りをペロッとした…ところで……
何故かジンは顔も首も真っ赤になっていた。
「本当は、湯を浴びたりしたいと思っていた。それにまだ明るいし。でも、僕はもう…」
何やらブツブツと喋ったと思ったら、ジンに唇を喰まれた。
最初から深いキスだから、どんどん頭はクラクラして真っ白になってしまう。
気付いたら、抱き上げられてベッドに移動していた。
「こんなにがっついてしまって、僕自身戸惑ってる。でも、マリアが欲しくてたまらないんだ。」
「え…と、はい。こんな体勢でアレですが、不束者ですが、どうぞ末永く、宜しくお願い致しま…きゃっ!」
そうして私達の初夜は過ぎて行った。
次回、ルイーズ5歳から始まります。
21
あなたにおすすめの小説
甘そうな話は甘くない
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」
言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。
「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」
「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」
先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。
彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。
だけど顔は普通。
10人に1人くらいは見かける顔である。
そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。
前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。
そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。
「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」
彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。
(漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう)
この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。
カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。
自国から去りたかったので、怪しい求婚だけど受けました。
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アミディアは婚約者と別れるように言われていたところを隣国から来た客人オルビスに助けられた。
アミディアが自国に嫌気がさしているのを察したオルビスは、自分と結婚すればこの国から出られると求婚する。
隣国には何度も訪れたことはあるし親戚もいる。
学園を卒業した今が逃げる時だと思い、アミディアはオルビスの怪しい求婚を受けることにした。
訳アリの結婚になるのだろうと思い込んで隣国で暮らすことになったけど溺愛されるというお話です。
心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。
理由は他の女性を好きになってしまったから。
10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。
意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。
ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。
セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。
婚約破棄された令嬢、気づけば宰相副官の最愛でした
藤原遊
恋愛
新興貴族の令嬢セラフィーナは、国外の王子との政略婚を陰謀によって破談にされ、宮廷で居場所を失う。
結婚に頼らず生きることを選んだ彼女は、文官として働き始め、やがて語学と教養を買われて外交補佐官に抜擢された。
そこで出会ったのは、宰相直属の副官クリストファー。
誰にでも優しい笑顔を向ける彼は、宮廷で「仮面の副官」と呼ばれていた。
その裏には冷徹な判断力と、過去の喪失に由来する孤独が隠されている。
国内の派閥抗争、国外の駆け引き。
婚約を切った王子との再会、婚姻に縛られるライバル令嬢。
陰謀と策略が錯綜する宮廷の只中で、セラフィーナは「結婚ではなく自分の力で立つ道」を選び取る。
そして彼女にだけ仮面を外した副官から、「最愛」と呼ばれる存在となっていく。
婚約破棄から始まる、宮廷陰謀と溺愛ラブロマンス。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる