彼らの恋

325号室の住人

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たとえば、こんな出会い 10 吉川視点 (終)

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「終わった、な。」
「終わりましたね。」

オレとルイは、通勤ラッシュとは反対方向の電車のシートに並んで座りながら、しみじみと語り合う。

「あの子のアレ、すごかったな。」
「そうですね。ヒジリも長くて大きいと思ってましたが、更に太さも増してましたね。」
「にしても、顎が外れるサイズって何なんだよ。」
「ですよね。ふふふ…」

この車両には、今はオレとルイしか乗っていなかった。

電車内が事件現場になってしまった関係で、普段はこの路線の街側では使われない、扉の開閉ボタンが各扉に配置された、山側の車両が使われることになった。

だから今オレ達が居るのは、電車のシートが固定で向かい合わせになっている。
半個室っぽい感じもあるから、オレ達は今、手を繋いでいるんだ。



それにしても、驚いた。

電車内では色のついた丸眼鏡だったあの中年男だったのだが、外に出るとフッと普通の眼鏡に変わったのだ。

その顔を見たオレは呟いた。
「コンビニのオーナーだ。」
と。

そう。あの中年男は、コンビニのオーナーでありオレのアパートの大家でもある、初老の男だったのだ。

「だからか! 僕、あの人がコンビニの事務所で話してるところを昨日聞いた時、何かモヤッとしたんです。
あの人、『ん』の発音する時、ちょっと口が開いてません? だから、前後の文字の発音がちょっと鼻声みたいに聞こえるんですよ。」

確かに、オレが話しかけられた時もそうだったと思った。
でも、コンビニのオーナーや大家とは何度かやり取りしていたはずなのにと、自分の鈍感さに呆れた。

「そういえばヒジリ、昨日コンビニで買い物したあと、買ったものが家につくまでに減ってませんでしたか?」
ルイに訊ねられる。

オレは、帰宅した時に持っていたビニール袋が破れて、殆ど中身がなくなっていたことを思い出す。

「あぁ。袋にデカい穴が空いてたんだよ。だからたぶん、買ったもの殆ど落として歩いてたんだと思う。」
「やっぱり。あの、込角さん。あの人、自分の店の商品が道に落ちていたって言って拾って帰って、その商品をまた店に並べていたんです。」
「いいネタ持ってますね、ルイさん。早速、拡散しちゃいましょうか。」

込角さんはカバンからノートPCを取り出すと、カタカタカタ…
「ありました。防犯カメラの映像です。
あ、確かにカップ麺を店の外から持って入ってますね。いい画がみつかりました。」

込角さんの行動力に少し退いたのを、今思い出す。

「なぁ、ルイ。あの込角さんっていう子、何なんだ?」
「ウチ部署の新入社員ですけど? ふふふ…」

ルイがそう言うなら、対外的にはそういうことになっているのだろう。

「ただ、敵に回したくはない人ですね。はは…」

そこで、電車はターミナル駅に到着した。
ワッと人が乗ってくる。

オレ達は、急行に乗り換えることにした。






急行も、時間的にラッシュを過ぎればガラガラで、オレ達はまた横並びでシートに座る。
でも、乗るのはたったの1駅だ。

あっという間に到着する。
この駅は、ルイの最寄り駅。
オレはターミナル駅側へ各停で1駅進む。

オレは自分のアパートに戻ろうとして、ルイに腕を引かれた。

「ヒジリ、こっちですよ。」
「どこへ?」
「僕の家です。だって、大家さんが犯人だったんですよ? あんな家に帰りたいですか?」
と。

オレはその返答に納得して、ルイについて行くことにした。



「僕の家、このマンションの8階なんです。今日、僕がヒジリを連れて行くことは、父も母も承知してますから。だから…」

ルイはそこまで言うと、エントランスの手前で立ち止まる。

「だからヒジリ、一緒に暮らしませんか?」

そう言ったルイは、緊張したのか真っ赤な顔で、体にも力が入りまくっている。

「オレで良ければ。」
「ヤッター!」

ルイはオレに抱き着いて、頬に熱烈なキスをくれた。
オレもルイを抱き締めて、唇に軽くキスをした。



エントランスからオートロックを抜け、カギを差し込んでエレベータに乗る。

「このエレベータは、僕の家にしか行けない仕様になってるんですよ。」

ルイの説明にへぇと思っていたのだが、ふと疑問が頭をよぎる。

「あ…ルイのご両親に、オレ達の出会いは何て伝えたらいいんだろ…」
「あ…」

エレベータは、直通でぐんぐん上って行く。

オレ達は、その残り僅かな時間で、辻褄の合う言い訳を考えるのだった。




     おしまい
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