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本編
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昨日のお嬢様とシドは、結局夕餉直前まで戻って来なかった。
お嬢様が疲れたからとそのまま部屋に食事を運ぶことになったので、僕の仕事はそのまま翌朝まで続行となった。
こうなってみると、皆がまだ働いている時間に使用人用のシャワーを使って、自分の部屋でちゃんと着替えて来られたことは良かったと思った。
まぁ、何故シャワーやら着替えることになったのか思い出すのは脳が完全に拒否しているようで、今は朧気なものしかない。
ただ、夢か現かと言われれば、現であると強く主張してくるものがある。
右の耳たぶ…
触れれば痣になったようにドクリと痛む。
シャワーを浴びている時に気付いて触れたら、何故か下半身が別の水分でベショベショになった。
震えが止まるまで、脳天から熱いシャワーを浴び続けた。
そんなこんなで、何の違和感もなく2人を出迎えられたようであった僕は、夜はまた寝室の前で座ったまま仮眠を取って今日を迎えた訳だ。
連日の仮眠続きで正直体はバキバキだけれど、頭はスッキリとしていた。
それからまた、数日が過ぎた。
ハイド様には、実はアレ以来お会いするどころか顔も見ていない。
だから、されたことへの驚きや恐怖はもう残っていないし、右の耳たぶも何事もなかったかのように何の痕も残してはいなかった。
お嬢様はお嬢様で、婚約者ができても絶好調だ。
「今日はマナーのレッスンがあるの。婚約者が婚約者でしょう? 本当に面倒なことこの上ないわ。」
「今日はダンスのレッスンですって。ねぇシド、背格好はあの人と同じだもの。今日は相手役をしてもらうんだから!」
「今日はちょっと体がだるいの。昨日から毒を体に慣らす訓練が始まったから…
でも、軽いものなら私は既に慣らしてるもの。今日は久し振りにシドと出掛けたいわ。行ってきまぁす。」
婚約者が居ても居なくても、お嬢様がシドを愛でるのは変わりない。
ただし、昼間のお出掛けが増えた分だけ夜のお出掛けは減ったので夜は使用人棟にある自分の部屋の自分のベッドで眠れるようになり、寝不足は解消できたのは良かった。
そんなのが数日続いた、ある日のことだった。
「あらお前、顔色が悪いわね。今日はアタクシのベッドを使いなさいな。」
何故かお嬢様に心配された。
「ただ、ここに寝るんだもの。アタクシの夜着を着て。」
着せられたのは、夜着と言うより寝間着だった。
女物なので、長袖に丈の長いシンプルなワンピース。それと、シャワーキャップみたいな、顔周りにフリルのついたナイトキャップだ。
それらを見せられた僕は、直後に侍女ーズに囲まれてあっという間に着替えを終えるとお嬢様のベッドに寝かされた。
そこから記憶がなくなるのは早かった。
本っ当に寝心地の良いベッドだったんだ。
ふと、人の気配に目が覚めた。
「アリス…可哀想に。」
優しげな声ののち、頬を撫でられた。
僕は薄くゆっくりと瞼を上げる。
そこに見えたのは、心の底から心配しているハイド様だった。
「王家に嫁ぐのが公爵令嬢として生まれた者の宿命と言えばそうだが…それにしたってこんなに、寝付いてしまうまでだなんて…やはりお前を王家にやるのは、兄として手放しで賛成することはできないよ。」
一瞬にしてすっかり覚醒した僕は、不自然にならないように掛け布を持ち上げて鼻まで覆う。
ここに、この場所に寝ているのが僕だと、気付かれてはいけない。
「そうか、まだ眠りたいのだな。ゆっくり休みなさい。」
ハイド様はそう言うと、特に何もせずにお嬢様の寝室を後にした。
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