お嬢様の身代わり役

325号室の住人

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本編

  13


トイレから戻ったところで、キャルルが戻ってきた。

──おいおい…緩めた襟元! キスマークついてんぞ!

コントみたいに手櫛で髪を整えながらやって来たキャルルは、

「何見てんのよ!!!」

凄まれたので、視線を逸らした。
とりあえず、僕のチョロの残り香は感じていない模様…

「むふふ…むふふふ……」

とりあえず、気持ち悪い声と笑顔を浮かべるキャルルを寝室へ置いて、寝室から出る。
寝室と廊下との間にある部屋の、今日は革張りのソファを磨くことに決めたところで壺の中を思い出して元々の自分の使用人服に着替えると、キャルルに声を掛けてからお嬢様の部屋を出た。






とりあえず、雑巾を貰いに布モノの置いてある倉庫へ向かった


………………のだが…


倉庫番のメイ婆さんに、ついでにとハイド様の寝室のシーツを交換するよう言われ、替えのシーツを手渡されてしまった。

「まったく! せっかくお前を雇ったってのに、毎日サボってばっかりで!!」

メイ婆さんは少しボケているとマルコさんも話していた。
それで倉庫番になったのだと。
もしかしたら、僕がお嬢様のところで働いていることを知らないのかもしれない。

「でも僕は…」
「何だい? 言い訳でもするつもりなのかい? そういうつもりなら仕方ない…」

メイ婆さんは徐ろに立ち上がる。

僕に背を向けると、年寄りのわりにスタスタとしっかりした足取りで倉庫の奥へ消えた。

ガタゴトト…

何か物音がして戻ってくると、

パシーーーッ!!!

メイ婆さんの手には御者の持つ鞭が握られていた。

「これならお前に近寄らなくても手が届く…クククッ……昔はこうしてよく、この屋敷に忍び込んできた奴に目的を吐かせたモンさね。あぁ、腕がなるねぇ…ケケケ…」

「わかりました。スミマセン!ハイド様のシーツ、替えさせていただきます!!!」

僕は半ば転がりながら倉庫を後にすると、そのまま本館裏口へと走った。






「わぷ!」
「おっと、すまん!」

裏口の扉を入ろうとして、マルコさんとぶつかってしまった。
ただし、ハイド様のシーツのおかげでお互い怪我はない。

「イードじゃないか。久し振りだな。お嬢様のところでもちゃんと働いているのか?」
「…………はい。」

──しまった。一瞬、女物の寝間着でお嬢様のベッドに転がっている自分が《ちゃんと》の括りに入っているのかを疑問に思ってしまった!

案の定、マルコさんは心配そうな表情で僕を観察している。

「仕事の悩みか?……それとも、お嬢様への恋」
「違っ!違う!違いますよ!!」
「でもちょっと…イード、感じが変わったよな。…何て言うか、その…『初体験は済ませました。』みたいな、さ。」
「は…初?」
「あぁ…やっぱり? あ、あの子か? 同じお嬢様付きのキャルルちゃん。あの日は本当にただの浮浪児だったけど、まさかあんなにかわいくなるなんてなぁ…」
「? は、はい…」
「え? やっぱりキャルルちゃんなんだ。」
「違います! そこは違いますって!」

マルコさんの勘違いの元を断つべく、無理矢理別の話題をぶち込む。

「あの、ハイド様って、どんな方なのですか?」
「ハイド様? あぁ、あの方は、社交界では《氷の令息》って呼ばれていてな。夜会では1ミリも笑わないんだそうだ。」
「《氷の令息》…?」
「あの方は朝早くから領地の見回りや、剣の鍛錬もされているからな…日の高いうちはあんなに朗らかで使用人にも声を掛けてくださるんだが、夜も早く寝てしまうから、夜会の時には緊張と時間帯で、実は眠いんじゃないかと俺たちはウワサしてる。内緒だぞ!」

マルコさんは人差し指を唇の前に立てると、こちらにウィンクした。

「あ、でも! 俺たち使用人は、皆ハイド様をお慕いして尊敬しているのは確かだから、そこは勘違いするな。
それに、妹のアリス様をとても可愛がっていて、幼い頃から屋敷の中では手を繋いで離さなかったらしい。」
「はいはい、わかりました。それじゃ僕、ハイド様のシーツ、行ってきますね。」

僕はペコリと頭を下げると、ハイド様の寝室へ急いだ。

「ハイド様のシーツと言えばさ…あれ? イードは夜伽の話は知らなかったよな…まぁ大丈夫か、あいつは男だし。ハハハ…」

僕にはそのマルコさんの話は聞こえていなかった。


感想 1

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