1 / 57
現代日本
1
しおりを挟む校庭の梅の蕾がほころび、3月初めの卒業式が近付いて来たなぁという今日このごろ。
主任先生の呼び出しですっかり暗くなった校舎内の廊下を歩いている時、少し先にある僕の教室からすすり泣きのような声が聞こえてきた。
僕の教室は廊下のどん詰まりで、この先に教室はない。
すすり泣きはいつしか甘い喘ぎに聞こえてくる。
『いや…あん……ぁあっ……もぅ、あんっぁああああーーーー!!!』
僕は慌てる。
今、薄暗い僕の教室で、教室という場所で起こってはいけないことが行われている。
僕は速歩きを走りに変えて……
ガラリッ
扉を開く。
僕は手探りで電灯のスイッチを探し当てると、教室内を明るくした。
けれどそこは無人で……
ただ、開いた窓から風が吹き込み、カーテンがバサバサと揺れているだけ。
それから、その風に乗って感じる雄の匂い。
匂いの元は、僕の教室の教卓の…僕がいつも座る椅子に、ぶっ掛けられた白濁だった。
僕は、某私立高校の3年の某クラスの担任。
これは、僕が担任する3年の教室で起こった、怪奇事件の始まりだった。
申し遅れました。僕は、シノダです。
担当は技術家庭……の、家庭科。
女子校だったらウハウハだっただろうけど、ここは残念ながら男子校。そして僕の母校だ。
しかも3年となれば選択科目になるから、僕の担任する大学進学コースに家庭科を選択してる生徒は居ない。
僕の教卓の椅子を狙っているから、僕個人に何らかの嫌がらせをしたいんだと思う。
けれど、受験失敗の腹いせみたいな理由で僕個人に嫌がらせをしたい奴は、居ないハズだ。
家庭科を選択してる生徒は、隣の専門学校・就職コースに2人。
ちなみに各学年2クラスずつなので、3年で教えているのは2人だけとなる。
2人は2人とも料理人とパティシエの専門学校への進学をそれぞれ決めており…だから進路で僕が恨まれることはないはずだった。
他に僕が恨まれてるとしたら、僕が在学中に担任だったリンジ先生の、奥さん…か?
僕の在学中はただの美術の産休代行の臨時教師だった凛士先生は、学年主任などを経て、僕が赴任してくる頃には、この学校の全ての教員を束ねる立場の主任先生になっていた。
一番ペーペーの僕は、生徒指導や保護者対応で主任のリンジ先生のお世話になることが多く、リンジ先生の帰宅が遅くなる理由の第1位は、たぶん僕関係の対応だろうなぁという程だった。
リンジ先生は僕の代の入学とほぼ同時に授かり婚したと聞いていたけれど、僕が大学を出て採用試験に合格して戻ってきてもまだ《子1人》だった。
一度、定時以降の奥さんとの電話内容を聞いてしまったことがある。
リンジ先生はスピーカーにして美術準備室の作業台にスマホを放って絵を描いていた。
僕は家庭科部の部活指導後にリンジ先生に呼ばれており、美術準備室の引き戸を10cm程度開いたところだった。
『今日は出来やすい日だから早く帰ってきてくれるって言ってたわよね!!』
「あぁ、20時には出られる。21時には帰宅できるから、食事は先に……」
『は? 夕飯は家でって言ったじゃない。ハルの夕食は18時なのよ?』
「だからゴメンって。」
『そんなんだから2人目がなかなか私のところへ来てくれないのよ!!』
「そういうストレスもダメなんじゃないのか?」
『はぁ? 貴方と喋るのがストレスなら、2人目なんて絶対に無理じゃないの!!』
そこで、ふと時計を見て…
立ち上がるとスマホに近付いた。
「あぁ時間だ。とにかく21時だ。頼むから待っててくれ。」
そして、奥さんの返答も聞かずに終話ボタンを押し、再び作業台にスマホを放ると、大きなため息を吐いた。
その時は、僕は踵を返して1回トイレに行ってから再び美術準備室を目指すことにした。
再び美術準備室に来た時にはリンジ先生は既に絵は描いておらず、準備室内からはコーヒーの香りがした。
1
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた
木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。
自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。
しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。
ユエ×フォラン
(ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)
弟と妹より劣る僕が自信家を演じてたら、部下にバレた件
ゆきりんご
BL
【重い感情を隠している年下敬語攻め×自己肯定感低い年上受け】
イリアスは職場で「優秀で顔もそこそこ良くて頼りになる上司」を演じているが、本当は自信がない。付き合っていた相手に振られることが続いてさらに自信をなくした。自棄になろうとしていたところを、気になっていた部下に止められて、成り行きで体の関係を持つことになり……?
【完結】俺の顔が良いのが悪い
香澄京耶
BL
顔が良すぎて祖国を追い出されたルシエル。
人目を避けて学院で研究に没頭する日々だったが、なぜか“王子様”と呼ばれる後輩ラウェルに懐かれて――。
「僕は、あなたそのものに惚れたんです。」
重くて甘い溺愛攻め × こじらせ美形受
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる