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現代日本

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校庭の梅の蕾がほころび、3月初めの卒業式が近付いて来たなぁという今日このごろ。

主任先生の呼び出しですっかり暗くなった校舎内の廊下を歩いている時、少し先にある僕の教室からすすり泣きのような声が聞こえてきた。

僕の教室は廊下のどん詰まりで、この先に教室はない。

すすり泣きはいつしか甘い喘ぎに聞こえてくる。


『いや…あん……ぁあっ……もぅ、あんっぁああああーーーー!!!』


僕は慌てる。
今、薄暗い僕の教室で、教室という場所で起こってはいけないことが行われている。

僕は速歩きを走りに変えて……

ガラリッ

扉を開く。

僕は手探りで電灯のスイッチを探し当てると、教室内を明るくした。

けれどそこは無人で……

ただ、開いた窓から風が吹き込み、カーテンがバサバサと揺れているだけ。

それから、その風に乗って感じるオスの匂い。

匂いの元は、僕の教室の教卓の…僕がいつも座る椅子に、ぶっ掛けられた白濁だった。


僕は、某私立高校の3年の某クラスの担任。

これは、僕が担任する3年の教室で起こった、怪奇事件の始まりだった。






申し遅れました。僕は、シノダです。
担当は技術家庭……の、家庭科。

女子校だったらウハウハだっただろうけど、ここは残念ながら男子校。そして僕の母校だ。

しかも3年となれば選択科目になるから、僕の担任する大学進学コースに家庭科を選択してる生徒は居ない。

僕の教卓の椅子を狙っているから、僕個人に何らかの嫌がらせをしたいんだと思う。
けれど、受験失敗の腹いせみたいな理由で僕個人に嫌がらせをしたい奴は、居ないハズだ。

家庭科を選択してる生徒は、隣の専門学校・就職コースに2人。
ちなみに各学年2クラスずつなので、3年で教えているのは2人だけとなる。

2人は2人とも料理人とパティシエの専門学校への進学をそれぞれ決めており…だから進路で僕が恨まれることはないはずだった。


他に僕が恨まれてるとしたら、僕が在学中に担任だったリンジ先生の、奥さん…か?

僕の在学中はただの美術の産休代行の臨時教師だった凛士りんじ先生は、学年主任などを経て、僕が赴任してくる頃には、この学校の全ての教員を束ねる立場の主任先生になっていた。

一番ペーペーの僕は、生徒指導や保護者対応で主任のリンジ先生のお世話になることが多く、リンジ先生の帰宅が遅くなる理由の第1位は、たぶん僕関係の対応だろうなぁという程だった。

リンジ先生は僕の代の入学とほぼ同時に授かり婚したと聞いていたけれど、僕が大学を出て採用試験に合格して戻ってきてもまだ《子1人》だった。


一度、定時以降の奥さんとの電話内容を聞いてしまったことがある。

リンジ先生はスピーカーにして美術準備室の作業台にスマホを放って絵を描いていた。

僕は家庭科部の部活指導後にリンジ先生に呼ばれており、美術準備室の引き戸を10cm程度開いたところだった。

『今日は出来やすい日だから早く帰ってきてくれるって言ってたわよね!!』
「あぁ、20時には出られる。21時には帰宅できるから、食事は先に……」
『は? 夕飯は家でって言ったじゃない。ハルの夕食は18時なのよ?』
「だからゴメンって。」
『そんなんだから2人目がなかなか私のところへ来てくれないのよ!!』
「そういうストレスもダメなんじゃないのか?」
『はぁ? 貴方と喋るのがストレスなら、2人目なんて絶対に無理じゃないの!!』

そこで、ふと時計を見て…
立ち上がるとスマホに近付いた。

「あぁ時間だ。とにかく21時だ。頼むから待っててくれ。」

そして、奥さんの返答も聞かずに終話ボタンを押し、再び作業台にスマホを放ると、大きなため息を吐いた。

その時は、僕は踵を返して1回トイレに行ってから再び美術準備室を目指すことにした。

再び美術準備室に来た時にはリンジ先生は既に絵は描いておらず、準備室内からはコーヒーの香りがした。


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