こちら冒険者支援ギルド ダンジョン課

瀧音静

文字の大きさ
14 / 75

非常事態

しおりを挟む
月を見ながら今日も一献いっこん
トクトクトクと幸せの音が耳に届く。

と、そこにちょこんと現れたのは2人の妖狐。
「神楽様神楽様、僕もツヅラオみたいな名前がいい」
「神楽様神楽様、私もツヅラオみたいな名前がいい」
息ぴったりの二人は、動きも言葉もやや早口なところもぴったりシンクロして神楽に言う。

みずのえつちのえもええ名前ちゃうか。どこが不満なん?」
「「もっとかっこいいのがいい!!」」

「あんな、名前には特別な意味があるんやで?壬も戊もかっこいい名前よ」
はぁ、と少しため息をつき神楽が二人をなだめる。

「じゃあツヅラオってどんな意味ー?」
「どんな意味ー?」

チビッ子の相手は疲れるな、と煙管に手を伸ばし、煙をプカリ。
そらもう特別な意味込められてんで。

な、九尾ツヅラオ

今宵は少しやかましいか?
と二人を尻目にお酒をちびり。
神楽の思いを、ツヅラオは未だ知らず。



 素直に驚いた。

 人間の言葉には猫の手も借りたいなんてものもあるらしい。

 だが私は断言する。
 絶対狐の手を借りた方がいい。

 ツヅラオが手伝いに来るようになり2週間程経った頃、
 それまでのいつもの職場、いつもの仕事が激変した。

 彼はとても真面目で、誰よりも早くギルドに出勤し、床の掃除ギルド内のテーブルの掃除をしてくれる。

 皆に尻尾を触られる事にも慣れてしまったらしく、休憩に行く前に声を掛けられ、休憩中はずっとモフられていたという事がほぼ毎回である。

 ダンジョン課の仕事も覚えるのが早いし、何より数字に強い事が助かった。

 これまでウンウンうなりながら私がこなしていた計算は、彼は暗算で資料を見ただけで終わらせてしまう。

 冒険者受けもよく、初めこそ声が小さく俯いてしまっていたりはしたが、最近ではしっかり対応出来ていると言える。

 尻尾や耳もうまく隠しているし、休憩中に一息つけばよほどのことが無い限り人前で見せてしまうこともない。

 おかげさまで私は、彼に窓口を任せ、自らダンジョンを訪問し、現場の声を聞く、なんて事も出来るようになっていた。

 姉御には感謝せねば……何か頼まれごとをされたら快く引き受けよう。

 特に最近冒険者の出入りが多いと報告の上がっていたダンジョンへの訪問も終わり、
 やや日差しが高くなった頃、お昼の為にギルドへの帰路に着いた次第である。

「流石に冒険者の流行り、なんて把握できませんよね……」

 誰にも聞かれないだろうし、と一人で愚痴をこぼす。

 何でも、ダンジョン内のタケノコウサギの角が最近人気のアイテムらしく、
 タケノコウサギの生息するダンジョンに冒険者達が多数詰め掛けているらしい。

 額にぴょこりと角の生えたモンスター
 足が非常に早く、角には微小ながら風属性を宿す。

 ランクはE上位からDの中位位まで、幅広く生息し、ある程度の環境には適応するため、今の所絶滅した、なんて報告はないが、今のうちに少し警戒しておいた方がいいかもしれない。

 魔王様に伝えておきますか。

 険しい山の獣道をスーツで移動したため、ところどころ傷ついては居るが、

 まぁ、魔法で何とでもなりますし。と特に気にせずガッサガッサと草をかき分け進む。

 こう道が悪いと飛んで行きたいものだが、辺りは生憎あいにく木々の生い茂る山の麓。

 羽ばたいた瞬間に枝に頭を打ちつけること請け合い。たんこぶで済むとは到底思えない。

 何より、初速が初速であるし……

 故に、人間ならば跳ぶ……というよりはぶという表現になりそうなほどの速度で、山を駆け抜けていく。

 *

「ただいま戻りました。何もありませんでしたか?」
 無事ギルドにたどり着き、ツヅラオへと尋ねる。

「おかえりなさいなのですマデ姉。特に……あ、タケノコウサギの補充依頼が結構な数来てましたのです」
「でしょうね、本日聞いて回ったダンジョンでもそう問題になってました」

 事の経緯をツヅラオにも説明し、

「その流行って感覚が分からないのです、……何か意味があるのです?」
 ともっともな疑問を口にするツヅラオ。

 その気持ちわかりますよ。私も人間の流行なんて感覚、初めて聞いた時は目が点になりましたし今でも理解していませんから。

 ですが、……

「聞いたところによると、脱初心者のあかしの様に冒険者で扱われているそうですよ。ダンジョンのランク的にもタケノコウサギの強さ的にも」

 困った事にこういう、いわゆる見得を張りたい冒険者は結構数存在しているし、彼らの流行廃はやりすたりは本当に早い。

 最初は躍起やっきになって対策を講じようと努力をしましたが全て無駄でした。予測出来ないんですよね本当に。

「ちょっと一服に行って来ますね」
とツヅラオに告げ、防炎室へ。……と

「あの、……僕もついていっていいのです?」
「何か用でもありますか?」
「いえ……その……炎吐いているのを見たい……のです」


*

「おぉ~……かっこいいのです~」
目をキラキラと輝かせ、私の吐く炎を前にはしゃぐツヅラオ。

「そんなに見て楽しいものですかね?」
「はい!あ、……その……僕、狐火がまだ扱えないので……火とか見るのが……好きなのです」
と俯きながらそう零す。

狐火……文字通り妖狐種の操る火、扱う個体により色や大きさ形が変わるという。
てっきり生まれつき使えるものだと思っていたが、ツヅラオの反応を見るにそうではないらしい。

戦闘はからっきし、と姉御が言っていたが、こういう事を言ったのだろうか。

最後に盛大に吐いてやろうと大きく息を吸い込んだタイミングで……大地が大きく揺れた。

それは、私やツヅラオ、つまりモンスターですらバランスを崩すような揺れ。

落ちてくるものは無いはずだが、とりあえずツヅラオを腕でかばって揺れが収まるのを待つ。

しばらく続いた揺れも次第に収まっていき、やがて完全に止まる。

「びっくりしましたのです。大きな地震でしたのです」
地震……

ーーッ!

その言葉を聞き、私は無言で、建物に配慮し、ギリギリ壊さないだろう程度の力を込めて全力で駆ける。

目的は……建物の外ッ!

「マデラ!外ッ!」
ミヤさんが私を見かけるなり叫ぶ。

分かってますよ!だから急いでるんですってば!

ようやく外に出て辺りを見渡す。

見つけた!いや……見つけてしまった。が正解だろう。

地震というのは、大きな揺れの前に小さな揺れが来るものだ。
私は何度となく地震を経験し知っている。
そして、どんな小さな揺れでも察知できるし、大きな揺れの発生源も揺れによって大体わかる。

下手すればモンスターの仕業の可能性さえある地震は、ダンジョン課に勤める私にとって立派な情報だ。

しかし、先ほどの地震は事前の小さな揺れを感じていない。つまり……

ツヅラオに言われるまで違和感を覚えずに地震と思った自分がうかつですね。
とほんの僅か前の自分に歯噛みし、

今日は……残業になりそうですね。と心の中で今度は苦虫を噛み潰す。

視線の先には大きな山。
その中腹辺りから天へと向かって光の柱が立っている。
中心に、ドス黒い柱を囲うように、覆うように、おそらくダンジョンがあるであろうそこに降り注いでいた。

「はぁ……調査……頼めるかい?」
いつの間に後ろにいたのかミヤさんがため息交じりに聞いてくる。

「頼めるも何も、私以外には出来ない仕事ですので。仕方ありません」
と本当に仕方がない事だと理解しているため、そこに葛藤は無い。

過去に4度、同じような状況に出くわしたことがある。
ある時は海、ある時は建物、ある時は廃村、そしてある時は……姉御のダンジョン。

あの光の柱と大きな揺れの示す出来事はたった一つ。

転醒……である。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...