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気持ちいいナー。歌いたいナー。
優雅に風を切り、草原に影を落とす主は目下そんなことを考えていた。
前に歌った時ハ、ドラちゃんに怒られタからナー。
ハーピィは無意識に、自分の歌声に乗せて睡眠魔法を使用する。
音速越えのスピードで飛びながら歌ったら、通過した場所の全ての生物を眠りに落としてしまい、ダンジョンや人間の町が、その日1日機能停止になった何て事があり、飛行中に歌うことをマデラに禁止されていた。
と、そんなハーピィの目にとあるパーティが映る。
どうやら彼女のダンジョンに挑戦しようとしているらしい。
珍しいナー、私のとこまデ来れるかナー。
と久々の挑戦者に心を躍らせながら、塔の最上階に戻る。
こんな大空を音速越えで飛び回るモンスターを相手に、塔の屋上で戦わなくていいのは幸運だが果たして。
ハーピィの鉤爪が、太陽に反射し、キラリと光る。
▽
家のドアを開けるとそこは、天国だった。
いや冗談ですが、少なくとも天使のような存在はいました。
「遅くまでお疲れ様なのです!ご飯出来てますのです!」
尻尾フリフリ耳ピョコピョコ合わせてモフモフ3モフモフ
本来ならすぐにでも抱きしめたい所なのですがね……
「って、えぇっ!?マデ姉腕とか足とかどうしたのです!?」
(どうしたって……少し変な方向向いているだけです問題ありません)
「普通に大怪我なのです!って……あれ?今喋ったのです?」
(喋るのも億劫なので念話させて貰ってます)
「なるほど……念話なのです……て口動かすのすらつらいのです!?」
(えぇ、ちょっとそこの棚にある瓶取っていただけますか)
「これなのです?」
と棚に置いてあるサファイアブルーの瓶をこちらに持って来てくれる。
(ありがとうございますね)
瓶の口を指で圧し折り一息に呷る。
これ嫌いなんですけどねー。
と念話を切り、この後に来る現象に備える。
ゴフッ!っと手で押さえても到底止まらない量の血が口へ上ってくる。
「ゲホッ!ガハッ!ゴホッ!ゴホッ!」
咳き込みボトボトと床に血が滲む。
「ちょ!さっきの大丈夫なのです!?」
慌てて駆け寄って来るツヅラオを手で制止し、
自身に回復魔法をかける。
(其は生命の輝き、力の源、慈悲なる姿。其は聖なるもの、留めるもの、我に救いを)
{夢と見紛う神々の癒し}
純白の光りが私を包み、ものの数秒で全身の怪我、傷、骨折などが全て修復される。
本当にあのトロールには苦戦させられました。少しトロールが嫌いになりそうです。
「だ、……大丈夫なのです?」
「ご心配おかけしました。おかげさまで無事です」
口の端の血を拭い、不安そうに覗き込んでくるツヅラオにニッコリ笑顔で返す。
「さっきの瓶……何だったのです?」
「魔王の悪夢と呼ばれているポーションですね。瀕死になる代わりにMPを全回復するという……」
「それ全然危ないのです!死んだらどうするのです!?」
「いえどうすると言われても……今まで何度もやってますし……」
ツヅラオが絶句し、顔から血の気が引いていく。
結構便利ですよ?すぐに死ぬわけではありませんし、回復魔法を使えばこの通りピンピンしてます。
トロール戦で魔力が枯渇したため、手っ取り早くMP回復するのはあれが一番なので……
「とりあえずもう大丈夫なので、ご飯をいただきます」
「あ、はい!頑張って作ったのです!」
ツヅラオの作ってくれたご飯は滅茶苦茶美味しかった。
姉御の所ではほとんどの家事をツヅラオがしていたらしい。
そんな子を急に私の手伝いに寄越して大丈夫なんでしょうか。
とかなり遅いご飯に、ゆっくり舌鼓をうちつつそう思った。
*
翌日、出勤して真っ先にしたのはミヤさんへの報告である。
どのモンスターがどのような転醒をしていたか、周りの被害は、ダンジョンの再開の目処等。
報告が終わると昨日のダンジョンにて周辺の調査からダンジョンマスターへ最近変わったことが無かったかの聞き込み。
結果は収穫無し。何か些細な物でも、と血眼になって探したが有力な手掛かりは得られなかった。
ギルドに戻って全ダンジョンのマスター宛に今回の件の報告書を送り、仕事も終了。
報告書を作成中、何件かのダンジョン紹介もし、ふと気付いた事があった。
冒険者への紹介履歴をチェックする。
やっぱり、最近Bランク以上のダンジョンを紹介していませんね……。
少なくとももう少し前はBランクのダンジョンも結構紹介していたはずである。
昨日行ったダンジョンも麓には町があり、魔法を使用するモンスターもボスのみと割と人気のあるダンジョンである。
何か冒険者の中で変わったのでしょうか……
冒険者達にはもちろんルールがあるし、暗黙とされているルールも少なからず存在する。
しかしBランク以上に挑戦する際のルールなど無いはずですし……もしかして最近?
冒険者の流行と違い、こちらはコロコロ変わることが無いのですが……
ミヤさんに確認してみますか。
冒険者が全く来ないとなれば野心家のモンスターからのクレームになりかねません。
どこか上の空のミヤさんの所へ。
「ん?マデラ?どうした?」
「冒険者の事についてお話があります」
「ちょっと嫌な予感がするな。……防炎室で話そう。あそこなら人来ないし」
誰にも聞かれたくない内容になりかねない……という事ですか。
ツヅラオに仕事の話をしてきます。
と窓口を任せ防炎室へ。
*
「それで、話って?」
「最近のダンジョンの案内具合についてなんですが、Cランク以下にばかり偏っていて……」
「ほぅら嫌な予感が的中だ。実はその辺りの事が今問題になっているらしくてな……」
とミヤさんの元に届いたらしい抗議文を渡される。
失礼します。と目を通す。
要約すれば
最近の冒険者はたるんでいる。
魔王を倒すという目的を忘れ、少し気が緩んでいるのではないか。
そもそも教育機関の育て方が悪いからいつまでたっても魔王を討伐出来ないのではないか。
素行も目に見えて悪くなっている。
そんな奴らの為に金を出しているのではない。
どうにかしろ。
である。
すっごい上から目線で腹立ちますねこいつら。燃やしてきますか?
「まぁ彼らの言いたいことは分かるんだけどさ、いつ魔王の気が変わるかも分からないから早くしてくれって事なんだろうけど……俺にどうしろとって感じなんだよな」
正直ミヤさんはかなり働いていると思う。
というか指導者として東奔西走しまくってますし。
各地にある冒険者の学校なんかで講義やら実技実習やら引っ張りだこである。
それでこのギルドの課長なんかしてるし、これ以上彼に負担をかけたらぶっ倒れかねない。
最近私はツヅラオのおかげで余裕が出てきましたし、
「何かお手伝い出来る事があれば言ってください」
私がダンジョン課に来た時にはそれはもう迷惑をかけまくった。
今こそ恩返しの時である。と思い、そう口にした。
「ん~……そうだな」
ミヤさんはしばし考えて……
「公開戦闘とか言ったら……怒る?」
と、申し訳なさそうに言う。
「?私が?誰と?どこで?誰に見られるんです?」
「まだ考えてる段階なんだけどさ、今ある学校の全生徒たちに、君らの戦闘を見せて色々と教えたいなー、と。それで冒険者スゲーとか、モンスター怖ーとか思って気を引き締めてくれないかなーと」
「私と冒険者だと一瞬ですけど……手加減……難しいですよ?」
どんな冒険者相手でも片手で勝てる自信がある。手加減して見ている冒険者見習いにバレでもしたらそれはそれで問題だと思うが……
「いや、君はモンスターとばらす事前提で話してるけど一応人間側だからね?あんた冒険者役」
あ、……すっかり忘れていた。そうか、私は今の所人間側か。
「ではモンスター役は?」
「そっちについては当てがあるのよ。というか学校側からこのモンスターとの公開戦闘を見させてくれって言われてさ」
はて?そんなに人間に熱心なモンスターなど居ましたっけ……
「このモンスターなんだが……大丈夫か?」
と手渡された資料に載っていたのは…………
「姉御ぉっ!?」
優雅に風を切り、草原に影を落とす主は目下そんなことを考えていた。
前に歌った時ハ、ドラちゃんに怒られタからナー。
ハーピィは無意識に、自分の歌声に乗せて睡眠魔法を使用する。
音速越えのスピードで飛びながら歌ったら、通過した場所の全ての生物を眠りに落としてしまい、ダンジョンや人間の町が、その日1日機能停止になった何て事があり、飛行中に歌うことをマデラに禁止されていた。
と、そんなハーピィの目にとあるパーティが映る。
どうやら彼女のダンジョンに挑戦しようとしているらしい。
珍しいナー、私のとこまデ来れるかナー。
と久々の挑戦者に心を躍らせながら、塔の最上階に戻る。
こんな大空を音速越えで飛び回るモンスターを相手に、塔の屋上で戦わなくていいのは幸運だが果たして。
ハーピィの鉤爪が、太陽に反射し、キラリと光る。
▽
家のドアを開けるとそこは、天国だった。
いや冗談ですが、少なくとも天使のような存在はいました。
「遅くまでお疲れ様なのです!ご飯出来てますのです!」
尻尾フリフリ耳ピョコピョコ合わせてモフモフ3モフモフ
本来ならすぐにでも抱きしめたい所なのですがね……
「って、えぇっ!?マデ姉腕とか足とかどうしたのです!?」
(どうしたって……少し変な方向向いているだけです問題ありません)
「普通に大怪我なのです!って……あれ?今喋ったのです?」
(喋るのも億劫なので念話させて貰ってます)
「なるほど……念話なのです……て口動かすのすらつらいのです!?」
(えぇ、ちょっとそこの棚にある瓶取っていただけますか)
「これなのです?」
と棚に置いてあるサファイアブルーの瓶をこちらに持って来てくれる。
(ありがとうございますね)
瓶の口を指で圧し折り一息に呷る。
これ嫌いなんですけどねー。
と念話を切り、この後に来る現象に備える。
ゴフッ!っと手で押さえても到底止まらない量の血が口へ上ってくる。
「ゲホッ!ガハッ!ゴホッ!ゴホッ!」
咳き込みボトボトと床に血が滲む。
「ちょ!さっきの大丈夫なのです!?」
慌てて駆け寄って来るツヅラオを手で制止し、
自身に回復魔法をかける。
(其は生命の輝き、力の源、慈悲なる姿。其は聖なるもの、留めるもの、我に救いを)
{夢と見紛う神々の癒し}
純白の光りが私を包み、ものの数秒で全身の怪我、傷、骨折などが全て修復される。
本当にあのトロールには苦戦させられました。少しトロールが嫌いになりそうです。
「だ、……大丈夫なのです?」
「ご心配おかけしました。おかげさまで無事です」
口の端の血を拭い、不安そうに覗き込んでくるツヅラオにニッコリ笑顔で返す。
「さっきの瓶……何だったのです?」
「魔王の悪夢と呼ばれているポーションですね。瀕死になる代わりにMPを全回復するという……」
「それ全然危ないのです!死んだらどうするのです!?」
「いえどうすると言われても……今まで何度もやってますし……」
ツヅラオが絶句し、顔から血の気が引いていく。
結構便利ですよ?すぐに死ぬわけではありませんし、回復魔法を使えばこの通りピンピンしてます。
トロール戦で魔力が枯渇したため、手っ取り早くMP回復するのはあれが一番なので……
「とりあえずもう大丈夫なので、ご飯をいただきます」
「あ、はい!頑張って作ったのです!」
ツヅラオの作ってくれたご飯は滅茶苦茶美味しかった。
姉御の所ではほとんどの家事をツヅラオがしていたらしい。
そんな子を急に私の手伝いに寄越して大丈夫なんでしょうか。
とかなり遅いご飯に、ゆっくり舌鼓をうちつつそう思った。
*
翌日、出勤して真っ先にしたのはミヤさんへの報告である。
どのモンスターがどのような転醒をしていたか、周りの被害は、ダンジョンの再開の目処等。
報告が終わると昨日のダンジョンにて周辺の調査からダンジョンマスターへ最近変わったことが無かったかの聞き込み。
結果は収穫無し。何か些細な物でも、と血眼になって探したが有力な手掛かりは得られなかった。
ギルドに戻って全ダンジョンのマスター宛に今回の件の報告書を送り、仕事も終了。
報告書を作成中、何件かのダンジョン紹介もし、ふと気付いた事があった。
冒険者への紹介履歴をチェックする。
やっぱり、最近Bランク以上のダンジョンを紹介していませんね……。
少なくとももう少し前はBランクのダンジョンも結構紹介していたはずである。
昨日行ったダンジョンも麓には町があり、魔法を使用するモンスターもボスのみと割と人気のあるダンジョンである。
何か冒険者の中で変わったのでしょうか……
冒険者達にはもちろんルールがあるし、暗黙とされているルールも少なからず存在する。
しかしBランク以上に挑戦する際のルールなど無いはずですし……もしかして最近?
冒険者の流行と違い、こちらはコロコロ変わることが無いのですが……
ミヤさんに確認してみますか。
冒険者が全く来ないとなれば野心家のモンスターからのクレームになりかねません。
どこか上の空のミヤさんの所へ。
「ん?マデラ?どうした?」
「冒険者の事についてお話があります」
「ちょっと嫌な予感がするな。……防炎室で話そう。あそこなら人来ないし」
誰にも聞かれたくない内容になりかねない……という事ですか。
ツヅラオに仕事の話をしてきます。
と窓口を任せ防炎室へ。
*
「それで、話って?」
「最近のダンジョンの案内具合についてなんですが、Cランク以下にばかり偏っていて……」
「ほぅら嫌な予感が的中だ。実はその辺りの事が今問題になっているらしくてな……」
とミヤさんの元に届いたらしい抗議文を渡される。
失礼します。と目を通す。
要約すれば
最近の冒険者はたるんでいる。
魔王を倒すという目的を忘れ、少し気が緩んでいるのではないか。
そもそも教育機関の育て方が悪いからいつまでたっても魔王を討伐出来ないのではないか。
素行も目に見えて悪くなっている。
そんな奴らの為に金を出しているのではない。
どうにかしろ。
である。
すっごい上から目線で腹立ちますねこいつら。燃やしてきますか?
「まぁ彼らの言いたいことは分かるんだけどさ、いつ魔王の気が変わるかも分からないから早くしてくれって事なんだろうけど……俺にどうしろとって感じなんだよな」
正直ミヤさんはかなり働いていると思う。
というか指導者として東奔西走しまくってますし。
各地にある冒険者の学校なんかで講義やら実技実習やら引っ張りだこである。
それでこのギルドの課長なんかしてるし、これ以上彼に負担をかけたらぶっ倒れかねない。
最近私はツヅラオのおかげで余裕が出てきましたし、
「何かお手伝い出来る事があれば言ってください」
私がダンジョン課に来た時にはそれはもう迷惑をかけまくった。
今こそ恩返しの時である。と思い、そう口にした。
「ん~……そうだな」
ミヤさんはしばし考えて……
「公開戦闘とか言ったら……怒る?」
と、申し訳なさそうに言う。
「?私が?誰と?どこで?誰に見られるんです?」
「まだ考えてる段階なんだけどさ、今ある学校の全生徒たちに、君らの戦闘を見せて色々と教えたいなー、と。それで冒険者スゲーとか、モンスター怖ーとか思って気を引き締めてくれないかなーと」
「私と冒険者だと一瞬ですけど……手加減……難しいですよ?」
どんな冒険者相手でも片手で勝てる自信がある。手加減して見ている冒険者見習いにバレでもしたらそれはそれで問題だと思うが……
「いや、君はモンスターとばらす事前提で話してるけど一応人間側だからね?あんた冒険者役」
あ、……すっかり忘れていた。そうか、私は今の所人間側か。
「ではモンスター役は?」
「そっちについては当てがあるのよ。というか学校側からこのモンスターとの公開戦闘を見させてくれって言われてさ」
はて?そんなに人間に熱心なモンスターなど居ましたっけ……
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と手渡された資料に載っていたのは…………
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