こちら冒険者支援ギルド ダンジョン課

瀧音静

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とりあえず温泉とかカジノとかがある町の噂を聞いたんだけどよ? 行ってみねぇか?

急にどうしたのよ。

お前ら毎日動きっぱなしで疲れてるだろうと思ってさ、それにカジノがあるんだ。たまには息抜きもいいだろ。

うーん。寄り道してる場合でも無いと思うんだけど。

でも確かに、お風呂にはゆっくり浸かりたいかも。

どうでしょう。あくまで噂ですし、本当に実在していたとしたら寄ってみるという事で。

うーん、……そうだね。そうしようか。



 あの後、しぶしぶとパパラもポーションを飲み、麒麟にじっとりと嘗め回すように見られて、全員でおねだりをしたところで、ようやくいつもの姿へと戻る。

 鼻を手で押さえ、満面の笑みを浮かべて消えた麒麟の顔はしばらく頭から離れてくれそうにない。

 よくよく考えればこの温泉に来てから休みと思えるほどゆっくり出来てませんし、もう、残りはゆっくりさせて欲しいものです。
そう考えていた事が神とやらに通じたのかは定かではないが、特に大きなイベントも無く、連休はあっという間に過ぎていく。
残すは1日、最後の予定は……魔王様への定期報告である。

*

 いつも通りに魔王様の居る玉座の間の前へ来てみれば、側近の姿が見当たりませんね。
別に許可が必要というわけではありませんが、どうしたのでしょうか。
気にしながらも玉座の間へ扉を開けて入ると、
見た事も無い女の子……いや、人形だろうか。
関節や他の部分に違和感があります。

 水色のロングヘアーに真っ白のドレス。表現するなら雪のような、とでも言いましょうか。
背丈は私とあまり変わらない程度、どこか虚空を見ており瞳には光がありません。
さて、魔王様の姿が見えないのと何故こんな人形がここにあるのでしょうか。

「マデラか」

 急に、私の目の前の人形が口を開く。

「魔王様……なのですか?」
「うむ。この間の装飾品を媒体に魔操傀儡マジックドールを作ってみてな。今動かすのを練習している所だ」
「理由をお聞かせ願えますか?」
「決まっている。暇だからだ。この間の人間を観察に行った時に、やはり人間を見ているのは面白いと考えた。しかし、我の本来の姿では見つかると大事であろう」

 確かに、闇が動いていたとあればまずは警戒されますね。そしてどれだけ攻撃しても払えないとなれば問題として段々と事が大きくなるでしょう。負けるとは思いません。が、魔王様自身の暇つぶし、いわゆる冒険者が強くなる事への妨げに繋がるでしょう。
勇者達が特殊というべきか、人間はどうしようもない程の力の差を感じればあっさり諦めるもの達が多いものです。

「だから魔操傀儡に入り込んで人間達の観察に行く、という事ですか」
「そうだ。しかし存外操作が難しい」

 ゆっくりと片足を前に出すも、そこですぐにバランスを崩しそのまま倒れる人形。
極めて不自然に、手を地面にすら付けずにまるで引っ張り上げられるように人形が倒れる前の体勢に戻る。

「不自由というのはここまで退屈を紛らわすものか。久しぶりだな。楽しいと感じるのは」

 極めて満足そうに、その見た目には似つかない声で笑いながら言う魔王様。

「とりあえず定期報告を。勇者に関しての事なのですが、極めて順調に成長しているものと思われます。多少伸び悩んでいる事を気にしていたようですが、私と九尾からのアドバイスでそれも晴れた事かと」
「ほう、伸び悩みか。そうかそうか」

 今度は自然に、口元に手を寄せ小さく笑う人形。

「他には?」
「他の冒険者達も、平和の祭典直前辺りから活発的にダンジョンを利用するようになってきています。あまり遠くない日に、ここに冒険者が辿り着くかもしれません」
「そうなる事を望んでいる」

「モンスターの補充についても、祭典後もダンジョン利用者が減るとは思えませんのでこれまでよりも多くのモンスターの補充を依頼する事になるかと」
「いい事だ」

 両腕を伸ばし回転して見せたり、何やらステップを踏んだり、倒れては吊り上げられ、また別の動きをする人形は、おおよそ魔王様がご機嫌であるという事か。

「主な報告は以上です。勇者へは九尾も私も含め、他の冒険者よりは情報を与えております。そちらの方は今後も続けてもよろしいのでしょうか?」
「本人で悩み、考え、仲間の連中と相談しても答えを出せぬようであればヒントでも与えてやれ。それ以上は許さぬ」
「かしこまりました。……そういえば魔王様、側近はどちらへ?」
「ん、一つ頼み事をしている」

 姿が見えない側近の事を聞けば、なるほど、頼み事ですか。

「では、本日は以上で失礼します」
「うむ、明日からも頼むぞ。我の為に」

 魔王様に深々とお辞儀し、投げかけられた言葉を胸にしまい私は魔王城を後にする。

 その後ろ姿に手を伸ばし、何度か掴む素振りを見せた魔王は、また魔操傀儡の操作の練習に励意識を戻す。
部屋に残るのは、人形が床に倒れる音と動く時の音だけだった。

*

「なるほど。中々に手ごわい相手でございます」
「お主も中々の手練れ」

 空間に響く鋭い音は何かがぶつかり合う音か。
魔王の側近は敵対する相手の、見た事が無い得物を観察しながら、次の戦略を立てていく。

 大きめの、僅かに弧を描いた片刃の剣、といったところですか。
剣であれば叩き切るのが役割のはずです。硬化し受け止めて反撃に転じますか。

 そう考えて相手の振り下ろす武器を止めるために、これ以上ない程硬化させた腕で防ぎ……
否、防げなかった。側近は知らなかった。その武器が、とある世界線では刀と呼ばれるその武器が、叩き切る目的で使用されるのでは無く、全てを断つ事を目的として作られていたことを。

 不覚、でございますね。
斬られて宙を舞う自分の片腕を見ながら、そう反省する。
ですが、だからどうしましたか。

 一瞬の怯みも、一切の躊躇いも無く、側近は相対する者へ全力で突進する。
それを受け、かかってこいと言わんばかりに刀を構える存在は、僅かに口元を緩め笑う。
今この瞬間が、全身全霊をもってお互いにぶつかり合う瞬間が、心の底から楽しいと感じて。
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