こちら冒険者支援ギルド ダンジョン課

瀧音静

文字の大きさ
62 / 75

騒乱の始まり

しおりを挟む
はぁ、頭痛なるわ。

人間達が山に住むようになり、それまで十分賄えていた木の実などの自然の恵みが足りなくなり、
仕方なく仙狐が山全体に魔力を巡らせて、生産量及び収穫量を上げるという事態に陥っていた。

彼女の許可を経て、山の中に集落を作り、さらには開墾までして生活をし始めた人間達は、自分たちの手に入れた物は必ず仙狐へと奉納し、仙狐がいらぬと拒否してから自らの物としていた。

いつしか彼女は神様などと呼ばれ始め、人間達が過去のどんなときよりも多い収穫量を記録し続けた為に、豊穣の神と認識されていった。



 普段通りの気怠けだるい午後。
同じく普段通りに防炎室にてタバコを吸い、炎を吹かしていた時である。

 ――――ケケケケケケケケケケケ

 とかすかに耳に届いたのは不気味な笑い声。
この笑い声は……流石に冒険者という事はありませんね。

 タバコを消し炭にし防炎室を出てみれば、視界に広がったのは、夕焼けに染まりオレンジ色に染まりながら、黒煙を上げ夕焼けより赤い炎を上げて燃え盛るギルドだった。

 すでに避難は始まっているようで、ミヤジさんを筆頭に男性陣が率先して冒険者や職員達を誘導している様子が見て取れる。
シルエットでしか分からないが、恐らくツヅラオであろう姿も避難済みの集団の中に確認し、ひとまずホッと胸を撫で下ろす。

「ミヤさん、何事ですか?」
「マデラ、無事だったか。……急に火の手が上がってな、……お前じゃないよな?」
「違いますよ。防炎室でしっかり吐いてました。……そう言えば防炎室にいる時に変な笑い声を聞きましたよ」

 職員から避難者の点呼を受けながらミヤジさんは少し考えて、

「モンスターの仕業ってのが可能性としては一番高いはずなんだよ。出火元は見た感じ防炎室辺りだが、マデラの炎が原因で無いとすると、あの辺に燃えるものも燃やすものも無いはずだし」

 そう見解を述べる。

「私が建物内を見てきますか? 火には耐性ありますし煙を吸い込んでも問題ありませんし」
「あー、……お願いしたい。職員に結構負傷者いてな。離れられそうにない」
「分かりました。では、行ってまいります」
「待った。……嫌な予感がする。少しでもマズい、無理だと感じたら引き返してこい。そん時は職員とこの場の冒険者にも協力して貰って人数増やしていく。後は消火活動で水魔法が飛んでくるのも想定しといてくれ」

 そう言われて背中をポンと叩かれて、私は今一度燃え盛るギルド内へと出火の原因を突き止めるべく、駆け出した。

*

 普段仕事をしている場所が炎に包まれているという惨状を横目で見つつ、僅かに感じるモンスターの気配を頼りに進むと、そこにいたのは空中を漂うランタンを持ったかぼちゃ頭のモンスターだった。

 ジャック・ランタン
手に持つランタンから炎をまき散らし攻撃する低級のモンスターであり、
魔法を扱えるが故にCランク以上に配属されるが、その実力ははっきり言ってギリギリDランク程度。
少なくとも、ギルドのような大きな建物を短時間で燃やす、等と言う芸当は無理と思っていたモンスターである。

 何故にここまで被害を大きく出来たかは知りませんし、気持ちよさそうに漂っている所申し訳ありませんが、排除させていただきましょう。と手を翳し、暴風を叩きつけようとすると。

ケケケケケケケケケ

先程防炎室で聞いたあの笑い声をあげて、ランタンから暴炎を私に向けて発する。

「なっ!?」

 暴風と暴炎、その二つがぶつかって相殺されたのを見て思わず声を上げてしまった。
精霊に無理矢理出させた風属性の魔法が、あの程度のモンスターの魔法と相殺された?

 どういう事か正直理解に苦しみますが、考えるよりは先に排除に動きましょう。
魔法がダメなら物理です。燃えている故に不安定な足場を、崩すほどに踏み込んで、この火事の元凶へ拳をぶつけるべく跳んで。

 勢いをつけ、本気で打ち込んだ拳を片手で受け止められて、地面へと叩きつけられた。
そこへ襲い掛かってくる暴炎に、しかし毛ほどもダメージを受けずに立ち上がって。

「捕まえました」

笑顔で胸倉むなぐらを掴んで逃がさないようにし一言。

「さようなら」

その言葉を聞き、ジャック・ランタンの浮かべた表情は、恐怖でも、怯えでも、後悔でもなく、
何故か満面の笑みで、眼にはハートマークすら浮かべていた。

*

 ギルドに入ってわずかしか時間が経っておらず、ようやく水魔法を使って消火活動を始めた頃に、未だに燃えるギルドからゆっくりと帰ると、

「マデ姉ー! お怪我とかしてないのです!? お体の具合とか大丈夫なのです!?」

ツヅラオが走って来て私に抱きつき、そんな言葉を飛ばしてくる。

「大丈夫ですよ。少し倒すのに手間取りましたが、元凶であると思われるモンスターは討伐しました。ツヅラオも無事のようで何よりです」

 ツヅラオの頭を撫でながらミヤさんを探す。

「わりぃ、指示やらなんやらで外れてた。で、どうだった?」

すぐに私を見つけ駆けて来たミヤさんに先ほどの件を説明。

「普段では考えられない強さのジャック・ランタンが原因ね。……んー、妙だよなぁ」
「ええ、あんな下級のモンスターに魔法を相殺され、一度は物理攻撃すら防がれました。妙です」
「あぁいや、そっちじゃなくてね? ギルドを直接襲撃してきたってのが妙なのよ」
「あ、……確かに」

 モンスターの考えの中に、自分らが強くなるために人間は殺してはならない、と理解しているにも関わらず、何故、ギルドを直接襲うなどと言う事をしたのか。
そもそも、何故ダンジョンから抜け出してそんな事をしたのか。
今までには無かった、ある種奇行とさえ思えるその行動は、一体、どんなことを意味しているのだろうか。

 そんな考えを私とミヤさん二人で巡らせている時に、消火を終えたギルドが音を立てて崩れ落ちて、

「あ~あ、どうすっかねー、……あれ」

とそれまでの思考を脇にどけて、ミヤさんはとりあえず深くため息をついた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...