こちら冒険者支援ギルド ダンジョン課

瀧音静

文字の大きさ
65 / 75

最終確認

しおりを挟む
突然の訪問に驚くのは人も蝙蝠も同じで、ましてや人間が妖狐と龍族なんて従えていればさらに当然で。

な、な、な、何事ですかね~?

単刀直入に、魔王を倒しに付いて来てくれ。

ぼ、僕がですか~?

他に誰が居る? 人間に魔法を教えているんだろう? そんな抵抗する手段じゃなくて諸悪の根源を廃絶しに行こうよ。

ちょ、ちょっと考えさせてください~。

屋敷の地下へと籠った蝙蝠は、思考を巡らせる。

口元を歪め、尖った歯を覗かせて怪しく笑う彼は一体どんな思考をしたのか。

かくして童話にある「だいじななかま」は揃い、魔王城へと進んでいくのであった。



「なんや雰囲気変わったなぁ。それに、そないに気ぃ張っとったら疲れへんか?」
「あなたみたいに気ままに生きる、なんてもう無理だと悟りましたわ」
「んな大袈裟な。天下のSランクのマスター様やろ、お互い」
「Sランクより上が無いだけですわ。同じSランクのマスターと言えど、あなたと同じ位の強さ等と自惚うぬぼれてはいませんわ」
「卑屈やねぇ、……ほんで? 今日は何の用や?」

 この間の魔王に対する問い以来か、リリスが神楽を尋ねて来た。
尋ねて来た目的など一つしかありはしないだろうが。

「分かってて聞いていますわね? 魔王様の記憶を見せていただきに来ましたわ」
「やろなぁ。はいはい、ちぃと待っとってくれるか?」

 そう言って部屋を後にする神楽を目で追って、視界から居なくなれば彼女の出してきた紅茶に視線を落とす。
いつも通り優雅に、ゆっくりとカップを傾けて、香りを味を楽しみながら、心ではどんな内容であろうと全てを受け止める覚悟を決める。

 神楽が持ってきたのは一振りの刀。
さやつかつばも、漆黒に塗りつぶされたその刀をゆっくりと引き抜けば、

「――っ」

思わず息を飲むほどに美しい刀身が晒された。
神楽のこまめな手入れの賜物たまものか、汚れどころかくもり一つないそれに心を奪われたリリスは、ゆっくりと意識を落としていった。

*

 のどかな町で目を覚ましたまだ誰からも勇者と呼ばれていない存在は、自らのすべき事を理解して旅へと出た。
最初は順風満帆じゅんぷうまんぱんで、襲い来るモンスターを倒し、時折野宿し、町へとよれば人々の願いを聞き入れてありとあらゆることを手伝った。

 旅を開始して3年ほど経った頃、世界が一変した。
今まで出会った事の無い強大で、恐ろしいモンスター達が突如として争いを始めたのだ。
人間の事など意に介さず、まるで己を高めるために、モンスター同士が戦い始めた。

 勇者と呼ばれ始めてていた存在は、初めは多少の抵抗を見せた。
が、人間一人の力などまるで無意味で、いつしか抵抗を止め、様々な町や村の人々を避難させるようになった。

 自分の力じゃ無理だった、どうしようも出来なかった、と。
それでも弱い事を受け入れて、自分に出来る事をしていた勇者は、目の前で避難させていた幾つもの命が、たった一発のブレスの流れ弾により、一瞬で消える様を目の当たりにした。

 涙は、不思議と出なかった。
襲ったのは虚無感と拒絶感。自分は今まで何をして来たんだ、と。こんなのが現実なんて辞めてくれ。
そう考えた一瞬後に、絶望した。これが、この程度が、自身の限界だったのだと。
夢の中で女神を名乗るものに出会い、力を授けられたはずなのに、自分は、勇者などでは無かった、と。

 視界の端で何やら自分に向けて叫んでいる村人達を無視し、目の前で命を奪ったブレスを吐いた存在を睨みつける。当然こちら等気にもしていないようだが、せめて一矢報いたいと得物を握りしめた時に、視界が純白に染まった。

 のちに転醒と呼ばれるその現象を当時知る者はおらず、勇者自身にさえ理解は出来なかったが、力がみなぎるのを感じた。
手に持っていた得物はいつのまにか深黒の刀へと変わり、睨みつけていたかたきが勇者を気にするぐらいには強くなっていた。

 ここから、勇者へと転醒した存在の進撃が始まる。
手始めに多くの命を目の前で奪った龍族を打ち倒し、説教を垂れて今の状況を聞き出して、今度こそ目的をもって旅を始める。
魔王が弱っている今がチャンスとどのモンスターも野心を剥き出しに、我こそがと思うモンスターどうしでぶつかり合うこんな無秩序な世界を、自分が魔王を討伐して終わらせる。という野望を持った勇者が目指すのは、龍族以外の仲間。災厄に分類され、紅宝龍と呼ばれていた、今は従えているこの存在以外にも頼れる仲間。

 その仲間を探して東奔西走し、見つけた仙狐と呼ばれる存在と、神と呼ばれていた蝙蝠少年を従えて、勇者は魔王城へと乗り込む。
激しい戦闘の末、魔王を討伐した一行は、転醒の光りに包まれて、リリスが良く知る姿へと変貌した。

*

 意識が覚醒し、ゆっくりと目を開けたリリスは、視界の端が僅かに濡れている事に気が付いた。
泣きながら、あの記憶を見ていたのか、と理解した時に、

「どやった? 思っとった内容とちごうたか?」

そう声を掛けられて、涙を拭い、思わず素直な感想を漏らす。

「人間も、大変だったのですわね」
「そやで? ま、今でこそ生意気なチビッ子どもやけど、当時なんざなーんも出来へんチビッ子やったからな」

 煙を吐いて、質問あるか?と神楽が尋ねれば、リリスは僅かに考えて、

「急にモンスターが争い出した理由は、当時の魔王様が弱っていた事が知れたって事でいいんですわよね?」
「その通りやで。ま、ただし、で、どこぞの蝙蝠がモンスター共に吹きまわったせいであんな事になったんやけどな」

 語尾に怒気を孕ませた物言いに思わず神楽を見るリリスは、初めて神楽の、怒り、という感情を見た気がした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...