こちら冒険者支援ギルド ダンジョン課

瀧音静

文字の大きさ
66 / 75

開戦

しおりを挟む
魔王城への道中はおよそ平和であった。

そもそも龍族を恐れてほとんどのモンスターは襲って来ず、

しかも龍族を打ち負かしたものが居るのだから襲われても問題など無かった。

差し当たって一番の問題となったのは……

食料だった。



「お、来た来た」
「あんたねー、んな呑気に見るもんでも無いでしょう」
「いいだろ別に、どうせこれでやられるんならその程度だったってだけさ」

 口々に眼下に広がる光景を見て言う神獣達は、雲と同じほどの高さを保っていた。
視線の先には立派な城と、その城へと向かっているであろう土煙を上げながら進む大軍があった。

*

 火災の後始末を終え、そろそろ帰るか。と思っていた時に魔王様からの文が届く。
魔王城へ急いで来てくれとの旨が書かれたその手紙を懐にしまい、ミヤさんに帰宅する事を伝えてなるだけ早く人目の付かぬ所へ。

 すぐに羽を出して出せる限りのスピードで魔王城へ。
一体、何があったというのか。焦るあまりに私は自分を追うものが居た事に気が付くことが出来なかった。

*

 魔王城の城壁の上から見ていた魔王は、自分の予想とは違うこちらへ向かって来る客に思わず動揺した。
なんと、モンスターと人間が手を取り合ってこちらへ飛んでくるではないか。

「魔王様、ご機嫌麗しゅう。此度は魔王様に、宣戦布告をしに参りましたわ」

 空中で優雅に頭を下げて、そう言い放ったリリスは、続けてこうも言った。

「今までのモンスターを無下に扱い続けた事、後悔させてあげましてよ!」
「と言うわけで、僕たち本気だから。覚悟しといてね」

 リリスと一緒にきた吟遊詩人もリリスの後に続いて、言うだけ言って魔王から距離を取る。

 すぐに見えてきたのはモンスターの大軍であった。
A~Eランク、様々な種族のモンスター達が、皆一様に魔王城へ向けて進軍していた。

「すぐに片付けます」

そういう側近に、

「まぁ待て。わざわざこちらが出て行く必要も無いだろう。籠城の方が楽だ。……しかし城を壊されるとなるとやっかいだな。文を飛ばすとしよう」

と返してカラスを5羽ほど出して空へと放す。

「久しぶりというか、魔王になってから初めてだな。攻められる、というのは。あぁ、楽しそうだ」

武者震いをしてそう呟く傀儡の中の魔王を見ながら、側近は一人戦闘態勢へと入った。

*

 リリスと背中を合わせて、大軍の中央で浮き続ける吟遊詩人は、持っている楽器を鳴らしながら、モンスターへと歌う。鼓舞こぶの歌を。能力値上昇の音を奏で、士気を上げる。

 モンスターを魅了出来なかったリリスは、吟遊詩人の魅了を盗み。吟遊詩人はリリスの魅了を受け続け、共に一つの能力に特化した固有転醒を遂げ、さらに能力を尖らせた。
人間もモンスターも問わずに魅了出来る様になったリリスが軍として進撃させ、魅了状態のモンスターへ今の様にバフをかけまくり、実力を底上げした物量で魔王を押しつぶそうと、リリスは試みる。

 そんなリリスへ、魔王の声が届く。

「モンスターの扱いに対する不満を、他のモンスターを魅了しているお前が言うか」
「今まで扱いが不遇だったモンスターとして言わせていただきますわ! 今、あなたさえ倒せば、今後ずっと不憫な扱いをしないと約束し、彼らを従えていますもの!」

 何も知らぬくせに、と魔王は内心で呟く。
側近が地上に降りて大軍を迎え撃とうとしているようだが、どう考えても多勢に無勢。
いかに側近がSランクのマスター達程の実力であろうとである。
そしてその大群の先鋒を務めているのは、魔王は知らなかったが、あのマデラさえ手を焼いた超回復するトロール達であった。話だけ聞いていたリリスが魅了魔法によって強制させ、数十体を転醒させていた。

 手を伸ばし、魔王の象徴である闇を放てば、リリスから飛んできた魔法により闇が打ち消される。

「……ほう。そこまで魔法は強くなかったと記憶していたが? ……そうか。バフか」
「お互いがお互いにかけていますもの。これで、少しは楽しめますでしょう?」

 全てを飲み込む闇であったが、打ち消しなどされるのは初体験であるし、何より今にも側近が大軍に飲み込まれそうであった為に仕方なく側近の傍へと降りる。

「魔王様?」
「伏せろ」

 何か聞きたかったらしいが有無を言わさず伏せさせて、手を伸ばして体を一回転。
手からただの衝撃波を放って進軍を止めて、側近の襟首をつかんで城壁の上へと戻る。

「数が多すぎるな、援軍待ちか」
「魔王様、私は大丈夫ですので降りて戦闘を……」
「アホか。戦いは数。これだけは覆らぬ。しかもこちらは我と貴様のみだぞ。城内のモンスターなど皆向こうへ魅了された。これ以上こちらの戦力は減らせぬ」

 門を開け、リリスたちの元へと移動するガーゴイルやリッチ達。少なくともAランクのモンスター達ですらリリス達の味方となっている。

「万事休す、まではいかぬが、なかなかに厳しい状況よな。心が躍る」

心底楽しそうに言う魔王の視界に、赤い影が入ってくる。

「まずは援軍その一か。その姿は懐かしいな。マデラ、……いや紅宝龍よ」

 大軍の中心へ紅蓮のブレスを放ち、魔王の近くへと来た龍は、

(お待たせいたしました。何か緊急のご用事で?)

 と念話でとぼけて見せた。

「そんな会話も懐かしい。見ての通り、我を退治しようと謀反を起こしたらしい。……側近と力でも合わせて追い払え」
「嫌です」「拒否します」
「うむ、であろうな。ま、やられることが無い程度に力を振るえ。どうせまだまだ向こうも手を隠しているだろう。全部手札を切らせて来い」
「かしこまりました」「御意に」

 2人だからと止めた魔王は、マデラが来た途端に2人で行ってこいと送り出す。
どれほどまでにマデラを信頼し、評価しているのか。
側近は唇を噛みながらも、隣を飛ぶ最強デタラメと並んで、暴れまわるのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...