こちら冒険者支援ギルド ダンジョン課

瀧音静

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女神の話

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ドタドタと慌ただしい足音でギルドを出て行く姿に、皆が皆、気を付けて、と声を掛ける。

全く、急にこんな仕事を任せて、……俺はほんのちょっと前までただのしがない冒険者だったんだぞ……

つーか忙しすぎだろ、スケジュールどうなってんのよ、全く。

誰にも届かぬ愚痴をこぼしながら、就任したてのその人物は目的地へ向けてただひたすら走り続けた。



「女神が? 一体何のためにですか?」
「それも決まってます~。モンスターに統制を求めたからですよ~」

 くつろぐ様に手を後ろについて、ナハトは続ける。

「どうも女神様的には秩序のある世界を作りたかったらしく~、好き勝手しているモンスターをどうにかしようと考えたわけです~。その結果~、実力主義で支配するのが手っ取り速いと考えたようで~、なら魔王を作ればいい、となったらしいですよ~」
「まるで実際に聞いたような口調やな? その女神様とやらから直接言われたとでも言うん?」

まるで馬鹿馬鹿しい、と意地悪そうな顔でそう吸血鬼に問う神楽だったが、

「はい~。その通りです~」

返ってきたのは予想外の言葉。

「というか~、皆さんお会いした事ありますよ~? ね、ミヤジ。あなたはご存知ですよね~?」

と、急に話を振られたミヤさんは一瞬きょとんとしたが、

「まぁ、……側近だろ? あそこで魔王と一緒にナハトと戦ってる、さ」

そう頭上を指差して答えた。

「はい~。今でこそ側近なんてやってますが~、僕が魔王だった頃は居なかったんですよね~。というか~、僕が魔王として色々無茶したせいで~、次の魔王であるミヤジから側近が付くようになったんですよ~」
「えっ? ……父様は元魔王様なのです!?」
「かなり前、な。今は普通の人間だぞ?」

馬鹿言いや、とそれを聞いて神楽が横から

「普通の人間はうちらの攻撃を完全に防いで無傷とかやれへんから、普通じゃあらへんな」

そう言えば、

「勇者として女神から転生させられて~、魔王であった僕を倒した事で魔王として転醒し~、今の魔王様にやられたことで再度人間に戻ったあなたが普通~? 一度普通の意味を調べてきてください~」

と神楽に続いてナハトも追い打ち。

「それで? その話を私達にする理由がまるで見えて来ませんが?」

 話が脱線していくようですし、あまり私達に関係があるとは思えないのですが。

「少し脱線しましたかね~。まずは、何故女神が他の、いわゆる異世界からわざわざ転生させていると思いますか~?」

 ごめんなさ~い。と自らの頭を小突き、舌を出しててへぺろ、なんてしてますけど、それでいいんですかね元魔王として。
しかし、転生者をわざわざ勇者にする理由ですか……。ふむ。

「外部からの刺激として、現状を変えたいから。とかでしょうか」
「うちもそう思うで。後は、ゲスな発想すれば、この世界の人間を使いたないとかな。万一やられたら人口減るんやし」
「ま~、あたらずといえども遠からず、ですかね~。正解は、この世界の人間に期待なんてしていないからです~」

 考えていたよりも残念な答えが示されましたね。

「想像力も発想もたかが知れてるこの世界の人間を使うよりは~、幻想を妄想し続け、多彩な発想を見せる異世界の人間の方が能力の使い方も、この世界の在り方についてもよっぽどマシだと考えたそうですよ~」

実際に、とミヤジを指差し、

「こいつは女神が送り出した5人目の勇者でありながら~、早々に女神の望んでいたであろう暴走した魔王……まぁ僕なんですが~、その魔王を倒す事に成功しています~」
「そんな少ない人数で成果出しとるん? ならめでたしめでたしでええやん」

 いや、姉御。異世界の人間4人は少なくとも犠牲になっていませんか? この言い方ですと。
それに……

「そうもいかなかったんですよ~。女神すら把握していなかった事が起きたんです~。すなわち、魔王を倒した者が魔王になる、魔王という概念が移動してしまったんです~」

 そうだ、魔王という存在は消えない。誰かが新しい魔王になるだけだ。

「そして~、魔王という概念を巡って~、モンスター達は争い始める事となります~」
「だけど俺は軒並み返り討ちにしてたぞ。そしたら誰も挑んでこなくなった」
「はい~。ミヤジの傍には正体を隠した女神が側近という形で付いてましたし~、僕みたいに暴走する事は無かったのですが~、ここにきてまた問題が出てきました~」

 難しい話と感じたのか、それとも寝ている途中に起きて来たからなのか、ツヅラオが静かに寝息を立て始める。
そんな姿を見るミヤさんは父親の顔をしておりまして、……何よりツヅラオの寝顔が可愛らしいです。

「なんや問題て、あ、寝てもうたか。夜も更け取るししゃーないな」
「少し小声にしましょうか~。簡単ですよ~、それまで魔王に挑んでいたモンスターが敵わないと分かった時、どんな反応をすると思いますか~?」
「強くなろうとするか、今まで通り……っ!?」
「はい~、そうです~。んですよ~。これには側近、もとい女神様も大慌て~、ミヤジにどうにかして貰いたく、様々な提案をしますが~」

 チラリとミヤさんを横目で見るナハト。

「あー、言われた気もする……けどあの時の俺ってすっげえ慢心してたし周りに興味無かったしなぁ。絶対放置してたわ」
「とまぁこういう事があり~、女神は再度勇者を転生し始めます~。そして~」
「今の魔王様が転生した。ということですか」

 ここまでの話は理解出来ました。が、それを私達に言う必要性は?

「その通りです~。ではでは、ここで本題です~。何故僕がこの話をわざわざここでしてると思いますか~?」

 それが見えてこないんですよね。

「いやあんた、うちらに協力して欲しい事がある言うてたやんか」
「その協力して欲しい内容の事を言ってます~。何だと思いますか~?」

 ……まさか、これだったら絶対に手伝いませんよ?

「魔王様を、倒す手伝いをしろなんて言いませんよね?」
「ピンポンピンポ~ン。大・正・解です~」

 今までのどんな時よりも笑顔で、ナハトはそうご機嫌に答えた。
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