こちら冒険者支援ギルド ダンジョン課

瀧音静

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”嘘”

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ねぇ?

何?

これで良かったの? あんたは?

なるようになっちゃったから良かったんじゃない?

そう、で質問なんだけど

何?

何でまだ半分も進んでないの?

いや、だってさ。モンスター作り出すとか感覚全然分かんないんだもん。

最初だからって多めに見てたけど、もう半年くらい経ったわよ? 何やってたのよ。

あー、ゴメン。

素直に謝らないの。あんたはもう、魔王様なんだから。


「女神、確認だ。本当にこいつの言っている事を理解して了承したんだな?」
「はい。相違ない事を誓いましょう」
「魔王、お前もいいんだな?」
「構わぬよ。ようやく、とはまだ言えぬが、思い描いていたシナリオ通りに進んでいてホッとしたわ」

 恐らく最後の確認を終えたミヤさんは、ゆっくりと腰の剣を抜いて魔王様へと構える。

「概念の移動は、お前を倒してからでいいか」
「でなければ横からあいつに掠め取られるであろう」

交わされる確認に、お互いに何を思うのか。自分には決して分からぬその心の内を思い、唇を噛み締めながら、マデラはただただ見守るしかない。
それが、魔王様の、意思なのだから。

「ナハト、魔王討伐前にひとつだけ、……いいか?」
「はぁい、何でしょうか~」
「お前の名前呼ぶ前にさ、俺、こう言ったんだよ。’トンデモねー隠し技ならある’ってよ」
「僕の”嘘”の事ですよね~? それであの大軍から人間達の参加を無かった事にしましたし~」
「確かにそれは隠し技だわ。でもトンデモねーってわざわざ付けたんだぜ? その先、考えて無いよな?」

 不敵に笑うミヤさんの考えがまるで読めませんが。……一体何を?

「この期に及んで何か出来る事があるとでも~?」
「そうだなぁ、んじゃあ、こういうのはどう、だっ!?」

 体を捻り、瞬きすら終える前にナハトの首を落とそうと横薙ぎに斬撃を放って。
放ったような格好のままで止まって、いや、そもそも動いてなどいないと、行動が否定されて。

 ナハトの首が、胴体から離れた。

「はい? ……いやいやいやいや、何事です~?」

 慌てて嘘にした結果は、立て続けに襲ってくる。
あの、どうなっているのか分かりませんがその、少年の見た目の首が血飛沫吹きながら飛ぶのを何度も見せられるとですね……。

「ぐっ、……こっの、何者です~!? あなた方にはもう味方と呼べる存在は居なかったはずですが~?」
「そうだぞ? だから作って来たんだよ。ここに来る前にたまたま町に居たこいつらを、さ」

 そうミヤさんが言うのと、何もない空間から見覚えのある二人が出てきたのが同時。

「あなた方が……?」

 そこに見えたのは、勇者御一行の戦士と僧侶で、戦士の剣にはべっとりと、ナハトの血が付いていて。

「魔王! 覚悟!」

 まだ少し、成人男性よりも高い声を上げて、全ての力を叩き込むように、魔王様へと剣を振り下ろしたのはもちろんあの、幼さが残っていた勇者で。

 勇者の剣は、戦士の剣は、それぞれに相対する人間の敵へ突き立てられて。
その空間の闇と、夜が、同時に震えた。

*

「へぇ、面白いと言っていいのかねぇ。興味が尽きない結果になったみたいだけど?」
「そうね。本当に人間って、不思議な生き物よね。どう動くのか、何を考えているのか、まるで分からないんだもの」
「こんな結果になったんだ。ま、俺らのやる事は変わりゃしねぇが、新しい魔王様の誕生でも祝福してやろうぜ」

 傍観に勤めていた3つの存在は、今回の大戦の結果を見届けて、ゆっくりと明るくなり始めた空へと溶けていく。

*

 胸に深々と突き刺さった剣、吐き出す血、抜けていく力。
様々な展開を自分有利へと動かす為に、元魔王としての力の封印を解かれてもなお魔力の枯渇に陥ったナハトは、黒に塗られていく視界の中で、何を思うのか。

 興奮して魔力を使いすぎた自分への叱責? 自分の想像を超えた手を打ったミヤジへの驚嘆?
自分と同じく打ち取られた魔王への同情? 否、そのどれでも無かった。

(勇者にすら転醒してない異世界人ですか~。なるほど~、こちらの方がまだ幾分かミヤジより人間ですね~。……とするならば~――っ!?)

 背中に焼けるような痛み。どうやら聖属性の魔法でもぶつけられたか。

(もうどうしようもありませんのに追い打ちですか~。……ミヤジの教育の賜物ですかね~)

もう抵抗もしない、と服のポケットに手を突っ込んで、その手に何かが当たる。

(ん~? ……そうですねぇ。最後に、いいかもしれませんね~)

 彼の大好物の、龍族の血が入った小瓶をポケットから出したナハトは、瓶ごと口に放り込み、バリバリとかみ砕いて魔力を摂取。

(最後にでも~、嘘をついて終わらせていただきましょうか~)

 視界が黒に塗りつぶされ、中央から白が広がる中で、彼は両手を大きく広げ、世界自体に言い聞かせるように、

!!」

まだ生きていたと目を見開き驚愕する周りを、しかし見えない故に特に気にすることも無く。

!!」

何やら暖かいものに包まれる感覚に多少の違和感を覚えつつ、心の中でこの場の全員に別れをいいつつ。

!!」

そう叫んだのだった。
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