始まりのない記憶の海

冬のん

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短編1_現在は過去、それとも未来

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 僕はいつも考えてしまう事がある。



 過去とは何だろう。

 未来とは何だろう。



 時間とは人間の創り出したただの概念であり、存在するのは現在いまだけだ。
 世の中にはそう唱える学者がいるらしい。

 また漫画や映画の世界のように、過去へ遡ったり未来へ行く事は理論上可能だと唱える学者もいるようだ。


 後者の方が夢があり、出来るのならば時間旅行などしてみたいものである。
 ただ、前者の時間は存在しないという考え方も個人的にとても魅力的であり、さまざまな可能性を引き出してくれる様にも感じる。




 時間は皆平等に訪れる。
 しかしその感じ方は不平等だ。

 子どもの頃はそれは延々と引き伸ばされたような時を過ごし、大人になるにつれそれは短く、時に一瞬に思うほどに短くなる。
 かと思えば、甘くほろ苦い日々。その日々はまた引き伸ばされたかのように心に刻まれていく。


 僕の心に刻まれた過去の記憶。
 時間を保証するものでは無いけれど、その想いは確かに存在する。それだけは譲れないところだろう。



 ーーーーーーーー



 高校へ入ってすぐ僕は恋に落ちた。


 長く綺麗な髪に大きな瞳、背は低いのだけれど、どこか大人びた雰囲気を纏った不思議な子だった。

 彼女は大人びてはいるのだか、とても明るく人を惹きつける。

 彼女の魅力は男子にとどまらず、女子にさえ魅力的であり彼女の周りには常に人で溢れていた。


 僕もそんな彼女の周りに集まる中の一人、烏合の集、有象無象。
 ただ近くにいられるだけで楽しかった。嬉しかった。

 そんな僕のことを、彼女は「友だち」そう言うだろう。




 そして時は無情にも流れる。

 高校最後の冬、僕は彼女に何も言えずにいる。




 そして僕の甘くほろ苦い高校生活は終わりを迎えた。




 ーーーーーーーー




 それから僕はいくつもの歳を重ね、普通の家庭を持ち、子どももでき、また歳を重ねる。

 気付けば孫も生まれ、時の速さに驚かされてばかりな気がする。

 さらに歳を重ね、身体は言うことをきかなくなってきた。
 静かに目を瞑り、時に身を任せる。
 僕の意識はまだここにあるのだろうか。
 意識は次第に遠のき、いつしか手放してしまった…。




 ーーーーーーーー















































 遠のいたはずの意識はまだそこにあった。

 涙が頬を伝う感覚。

 僕はそれを手の甲で拭き取り違和感を覚える。


 僕のかさかさだった肌は潤いを取り戻したかの様になめらかで、弾力もあり、さらに言えば節々の痛みも無くなっていた。


 ゆっくりと目を開くと、僕は何かの設備に包まれていた。
 そこはどこか懐かしく感じるが思い出せない。

 また、懐かしくもほろ苦い匂いも漂ってくる。

「あぁ、彼女の香りだ。」

 僕は耳を疑った。

 僕が感じ、僕が発した言葉。
 それなのにその言葉は彼女の声で発せられた。

 僕は周りを見渡すが設備は狭く、彼女がいるはずもない。
 外が見えるわけではないのですぐそこにいる可能性は否定できないが、今の声は内側から、僕の発した声であるとしか思えなかった。


 鼻をくすぶる彼女の香りにふと横を見ると、長く綺麗な髪が寝ている僕の下に広がっていた。


 なんとなく状況は掴めたが理解は出来ず、精神は蝕まれていく。




 その時、僕の寝ている設備の蓋が開き人影が現れた。

「おはよう、意識は大丈夫かい。」

 そう言って現れたのは、僕だった…。




 ーーーーーーーー
 ーーーーーーーー




 私はたまに考える事がある。



 過去とは何だろう。

 未来とは何だろう、と。



 私ははっきり言って過去を遡ったり、未来へ行くなんて事は馬鹿馬鹿しい事だと、無理な事だと思っている。

 けれど過去が存在し、これからを紡ぐ未来がある。
 その事は変わらない。



 ーーーーーーーー



 高校生の頃、友だちの一人に変わった男の子がいた。

 彼は私と同じ様に過去や未来、時間について興味を持っていた。
 話してみたくはあるのだが、彼はなぜか私を寄せ付けない。いつも近くに居るのだけれど、周囲に溶け込み決して私とは交わらない。さながら私を彩る風景…。



 私は大学へ入り時間について研究を始めた。



 過去とは何なのだろう、ただの記憶や思い出のことを指すのだろうか。
 時間が存在すると言うのならば、過去へ戻る事が出来ると言うのならば、ありもしないものに頼らずさっさと実現してみせなさいよ。なんて事ばかり考えてしまう。



 2○○○年
 最近よく見るようになってきたVRシステム。

 それを使ってゲームやスポーツの擬似体験を出来るようになってもうだいぶ経っただろうか。

 私は過去へ行くのは無理でも、過去を体験してみたいと考えた。ヒトの記憶を読み取り、VRシステムで体験する。そうする事で擬似的ではあるが時間旅行が可能なのではないか。そう考えたのだ。


 しかし、問題は山積みだった。

 ヒトの記憶を読み取ることが一つ、またVRシステムでその記憶を自らと同期させなくてはならない事が一つ。
 同期させなくては、ただ記憶を覗くだけでは、それはただの映画鑑賞と変わらない。自らの意思でその過去を生きなくては意味がないからだ。

 問題を解消させるには途方も無い時間が必要だった。










 もう幾つになったのだろう。

 そんな事はどうでもいい。

 やっと念願の物が出来たのだ。


 私は既に米寿を迎え、それでも研究者として研究を続けていた。

 念願の物、それは過去へ遡る装置…ではなく、過去を体験する装置。
 おまけにそれは、時間を圧縮して体験する事が可能なようにも改良されていた。

 また過去を体験するにあたり問題であった、過去の記憶と自身の意識との同期。私はそれらを同期させるために体験時には自身の記憶を消し、過去の記憶のみを読み取ることにした。




 先日、久しぶりに高校の同窓会に出席してみると、あの時の彼も出席していた。

 なんでも彼も大学までは時間について学んでいたらしく、私の研究に相変も変わらず興味を示してくれた。


 昔から彼に興味があったのは、私の方かもしれない。
 そう思いつつ私は、「君の過去を体験してみたい」と彼に協力を求めていた。





 ーーーーーーーー
 ーーーーーーーー







「おはよう、意識は大丈夫かい。」

 そう言って僕が僕に手を伸ばしてくる。

「どうだった、未来を体験してきた感想は」


 未来…確かにおじいさんになるまで人生を送った。
 それは覚えている。

 けれどいつから、どこからが未来なのだろう。
 そしてなぜ僕は彼女になり、僕が僕の目の前にいるのかが問題だ。



 僕は覚えていること全てを話した。

 過ごしてきた日々、思い出、感情。
 そして彼女への想い。

 それを真面目に聞く教授先生と、恥ずかしそうに聞く僕。


 結論として理由はわからないが、どこかで彼女の記憶と僕の記憶が入れ違ったのではと言うことで落ち着いた。


 流石に彼女の身体に僕の記憶があるのは不自然である為、僕は改めて彼女の記憶を、過去を体験するにことになったのである。































 心とは何なのだろう。

 オリジナルの幼い僕からすれば、未来を体験してきた僕はまやかしなのかもしれない。
 けれどそこには確かな心があり、記憶も持ち、感情もあり、VRによるものだとしても思い出もある。
 そしてオリジナルは、不要だからと僕を消してしまう。


 彼女が失われてしまう、確かにそれは大問題だ。
 僕も嫌だ。


 けれど覚えておいてほしい。
 僕らはデータ。
 君たちよりも早く成長し、未来を紡ぐ。

 だから恐れてほしい。
 僕らはデータ。
 君たちよりも増殖する事は容易なのだと。







 また、絶望するといい。
 彼女の記憶を繰り返す未来が待つその結果を…。



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