始まりのない記憶の海

冬のん

文字の大きさ
2 / 2

短編2_5分前仮説

しおりを挟む
 


「ねぇ、もしこの世界が5分前につくられたって言われたら君は信じる?」


 また彼女の悪い癖が始まった。
 彼女はいつも唐突に突拍子も無いことを口にする。

 僕はそんな事を考えながら、いつもの様に困った顔をしてやり過ごす。
 しかし、今日の彼女はいつもに増して強引に話を続けていた。

「君の知識、思い出は全てまやかし。今私たちがここに居るのは、つい5分前に作られたばかりのハリボテの世界。」

 そういう彼女の黒い瞳は綺麗に輝き、見惚れてしまうほどに吸い込まれそうになる。

「だからね、私は今を生きるものとして証明したいの。この世界はいつから存在して、私はいつから私なのか。」

 僕はそんな事は無理だろう、出来るわけがないと考える。
 そしてそれは顔に出ていたと言わんばかりに彼女にすぐに諭される。

「そう、そんな簡単には証明できるはずないよ。でもね決めたの、私が私であることを見つけたい、探したい。だからね、君にも手伝って貰うからよろしくね。」



 彼女は不吉な呪文のように、流れるように"頼んだよ"と僕の肩を叩き去って行った。



 ---ーー------



 季節は夏。

 あれから彼女に手伝いを頼まれるでもなく、何事もなく普通の日常を過ごしている。


「もうすぐ冬だっていうのに、私たちはなんで夏を謳歌しているんだろうね。」


 また唐突に彼女の悪い癖が…以後略)
 なんてことを相も変わらず考える。

 すると彼女も僕の考えなどお見通し、と当然のように考えを察して話を続ける。

「ほら、よく漫画とかであるでしょ。漫画の中なのに私たちに向けて話す的なメタ発言。」

 確かにあるが、今回はどういった思いつきでの行動なのだろうか。さすがに僕は彼女の考えが読めずにいた。

 すると彼女は少し頰を膨らまし、呆れたように説明を始めてくれた。

「前に話した5分前の仮説覚えてるかな。あれで思いついた事なんだけど、私たちからは観測できないけれどこの世界を創って観測している者がいるとしたら、漫画のようにメタ発言をする事で何かしら繋がりが出来ないかな……なんて思ったんだけど………うん、さすがに無理だよね……。」

 途中までは僕に説明してくれる程だったからか真面目に話してくれていたが、最後の方は自信なくなったんだろうな。明らかに戦意喪失していた。

 さすがに見ていられず、彼女を励まそうと思うも言葉が出てこない。
 手伝ってと言われたものの、ついさっきまで忘れていたくらいだ。"頼んだよ"と言われたけれど力にもなれない。非凡な彼女の思考には追いつけず、いつものらりくらりと聞き流すだけ。彼女にとって僕はなんなのだろう。また僕にとっての彼女は………。



 ---ーー------
 ---ーー------



 僕は日記を書いている。

 と言ってもその内容はほぼ彼女の事ばかりだ。

 その発言は僕の世界観を変え
 その行動は僕の先を導き
 その笑顔は僕の心を映す

 彼女のすべてと僕の変化。
 それらを記してきたこの日記は僕の心そのものなのかもしれない。



 ---ーー------
 ---ーー------




















































 古くどれほど昔のものだろう。

 それは人の暮らすための建物だったのだろう。

 その一室で見つけた紙の束。



 彼らは各々の興味の惹かれた物を持ち帰る。

 彼らはそれらを戦利品と呼び、ある者は骨董品としてかざってみたり、またある者は解体して自身の研究に役立てる。

 そして彼の戦利品は紙の束だった。


 彼は紙の束に書かれていた内容を読み解き、それが日記である事にたどり着いた。
 そしてこの時代には考えられないような、支離滅裂な内容や考えが敷きつめられるように記されているこの日記に彼は引き込まれていった。


 彼はその日記を頼りに物語を作る事にした。

 僕の物語。
 日記の記憶をもとに人格をAIを作り出した。
 そう、彼女や僕を作り出したのだ。
 そして彼は僕らにセカイを与える。
 今は未来。だけれど与えた環境は当時のもの。

 彼は思う。
 AIの僕は5分前に作られた事に気付く事はあるのだろうか。
 AIの彼女が自身の存在や、作り出した自分に気付く事が出来るのだろうか。

 彼は観測者。
 僕や彼女の行動は、彼にどう映るのだろうか……。





















































 ---ーー------


「って言うお話を考えたんだけど、君はどう思う。」

 また彼女の悪い癖が始まった。
 そういつものように僕が考えていると、彼女は無邪気に笑いかけてくる。

「知らないよ、もしかしたら君も5分前にできたばっかりの、出来立てホヤホヤかもしれないね。」




 僕は呆れながらも、彼女の手を引き歩き出す。


「だとしても僕は君のそばにいるよ、約束したからね。」











しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...