Nova A │ 拾った恋の育て方

むぎしま

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【本編】

プロローグ

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 日本都内の、とあるホテルにて。
 それは、別れを告げるための、短い集まりだった。

「俺を迎えに来たんだって? 悪いけど、俺は行けないよ。……もう、大切なものが、できたからさ」
 本郷ルカは、ふっと柔らかい笑みを浮かべた。最近できた、愛しい恋人の姿を思い浮かべるように。
 そして、向かい合う三人の表情を確かめるように、視線を巡らせた。
「ルイ。お前は本気で、俺を愛してくれた?」
「愛してたよ。ルカのこと、好きだった」
 ルイの迷いのない答えに、ルカは目を細める。ルイは昔から、そうやって、真っ直ぐな愛をくれた。
 ──それでも、四年前、自分の前から去っていった。
 最初こそ哀しかった。でも、アメリカへ行けと言ったのは、紛れもない自分だった。だから責められない。責めない代わりに、自分だけの道を歩んで、そして大切なものを見つけたのだ。
「そう。俺は愛を返せないけど、それでもこの先、愛してくれる? 俺だけを、ずっと」
 ルイは言葉を失う。問いの意味が分からないのか。いや、分かろうとすることを拒んでいるのだ。
 今のルカになら分かる。本当に〝人を愛する〟ということを、知らない人間の表情だ。
「マサはどう? 俺の事、愛してくれる?」
「俺は、お前を愛してたことなんて、一度もねェよ」
「そうだよな」
 ルカは、納得したように小さく頷いた。
「レイは?」
「俺は、ルカが幸せであることを、いつも祈ってたよ。……だから、素敵な相手ができて、嬉しく思う」
 わずかに震える声を絞り出すように、レイが続ける。生まれながらにルイと共にいたレイは、いつしか、自分を犠牲にすることに慣れすぎていた。
 ──この二人の傷を癒す役目は、きっと、自分じゃない。ルカは、チリチリと痛む心を包み隠すように、口元に笑みを浮かべた。

 その場に、短い沈黙が落ちた。
 ルカは、隣に置かれた熊のぬいぐるみを、そっとひと撫でした。随分と懐かしいものを引っ張ってきたものだ、と思う。
 でも──思い出に触れるのは、これが最後だった。過去はここに置いていく。そう意志を込めて、ぬいぐるみから手を離した。

「今までありがとう、みんな。さようなら」
 三人に背を向け、ルカは、愛しい恋人の方へ歩き出した。広く綺麗なホテルの部屋に、扉が閉まる音が静かに響く。
 ルカの姿が扉の向こうに消えたその瞬間、マサは顔を上げ、叫んだ。
「……結婚式は呼べよ!」
 それが、最後の強がりだった。



 Ignis Nova──
 プロデューサーの本郷ルカ。リーダーのマサ。そして、ルイとレイ。
 四人は、一番脆いときに出会ってしまった。
 互いの傷を埋め合うことが、いつしか当然になっていた。

「……ルカ……」
 レイの頬を、静かに涙が伝った。それを拭うこともできず、ルイはただ抱き寄せ、髪に口付ける。

 マサは、そんなルイとレイを一瞥した。
(……ひでぇ顔)
 見ていられず、短くため息をつく。
 昔から依存し合ってるとは思ったが、ルカが居なくなった今、どうなるか分からない。
(知ったこっちゃねェか)
 視線を、ソファ上に移動させる。そこにあった熊のぬいぐるみを抱き上げ、じっと見つめた。
 不思議と、ぬいぐるみの表情が哀しげに見えた気がした。そんな自分が可笑しくて、ふっと笑う。
(俺達も、前に進まねェとな)
 ぬいぐるみを、そっと元の場所に戻す。過去と決別する時が来たのだ。
「……行くとこがある。じゃあな」
 マサはふたりを残し、部屋から出た。

 まだ少しだけ暑さの残る、九月のことだった。
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