Nova | 大人気アイドル×男前マネージャー

むぎしま

文字の大きさ
15 / 24
本編

13 我慢(櫻井視点)

しおりを挟む

 話は遡り。
 コンサートツアー最終日、打ち上げ後──。

 夜は深く、カーテン越しの街灯が、部屋に薄い影を落としていた。打ち上げを抜け出してきた二人は、気持ちを伝え合い、今ひとつのベッドで抱き合っている。

 櫻井の腕の中、本郷は向かい合って眠っていた。規則正しい呼吸が、櫻井の胸に柔らかく当たる。
 ──近い。近すぎる。
 櫻井は、喉の奥で小さく息を飲んだ。
 指先が、無意識に背中の布をなぞってしまう。指に伝わる体温。筋肉のゆるやかな起伏。
(……本郷さんが起きてしまう)
 そう思った瞬間、欲は反対方向に強まった。
 腕に力が入る。本郷の身体が引き寄せられ、胸にぴたりと収まった。 呼吸が重なり、櫻井の熱が、逃げ場なく本郷の身体に伝わる。櫻井は顔を埋めるように、本郷の首元に口を寄せた。
 吸うように息を落とし、肌に唇が触れる寸前で、わざと止める。それだけで、本郷の肩が小さく跳ねた。
(……ッ!)
 その反応が、致命的だった。
 櫻井の手が、本郷の腰骨を掴む。逃げられない位置を確かめるように、指が食い込み、身体を引き寄せる。
 布越しでも分かるほど近い距離。下腹部が熱を持っているのを、本郷に否応なく伝わってしまう。
(まずい)
 頭では分かっているのに、止まらない。
 男として、恋人として、本郷を抱く準備が、身体の方ではとっくに整ってしまっていた。
 櫻井は歯を食いしばり、ぐっと唇を噛む。
(抱きたい、なんて生温い言葉じゃ足りない)
 この腕で囲って、逃げ道を塞いで、息が乱れるまで触れたい。その声が、喉の奥で掠れるまで、何度も名前を呼ばせたい。触れてないとこなどないほど、隅々まで──。
 優しくするつもりなんて、最初からなかった。全部欲しい。理性も、余裕も、選択肢も奪って、もう自分しか見えなくさせてやりたい。
「……さくら、い?」
 本郷の指が、櫻井の腕を無意識に掴む。櫻井は、はっとして腕を緩めた。名残惜しさが、皮膚に残る。
「……すみません」
 距離ができた途端、空気が冷えた気がした。
 本郷は目を覚まし、少し驚いた顔で櫻井を見上げる。
「……大丈夫か?」
 その声が、柔らかくて。拒絶色はなかった。それでも櫻井は、視線を逸らした。
(このまましたら……壊してしまう)
 櫻井は、額にだけ、そっと口付ける。本郷は、何か言いかけて、言葉を飲み込んだ。代わりに、櫻井の胸元に顔を寄せる。
 櫻井は、もう一度だけ、その背中に腕を伸ばしかけ──結局、何もせずに引っ込めた。
 胸で眠る本郷が、ほんの少しだけ、名残を惜しむように身を寄せている。そのことに櫻井は、最後まで気づかないままだった。

 ◾︎

 本郷ルカの背中に、憧れた。
 遠くて、眩しくて、触れてはいけない人だと思っていた。その素顔を知って、惚れて、欲しくなって。俺のものにしたいと願う気持ちを、ずっと抑えきれずにいた。
 そして今、その本郷ルカは、俺の腕の中にいる。
 胸元に顔を埋め、安心しきった顔ですやすやと眠っている。呼吸のたびに、体温が伝わってきた。

 愛しているからこそ、自分の欲を、そのまま向けるのが怖い。
 指先が、背中に伸びる。抱き寄せて、もっと触れて、確かめたくて──それでも、途中で止めた。
 嫌だったらどうしよう。
 怖がらせたらどうしよう。
 この人が、俺を信じて預けてくれているものを、俺自身が壊したらどうしよう。
 あれほど欲しくて堪らなかったはずなのに。いざ手に入れてしまうと、欲望よりも先に、失うことへの恐怖が立ち上がる。
 必死に追いかけて、ようやく掴んだ光だ。
 だからこそ、自分の荒々しい衝動で、この人を汚したくない。傷つけたくない。嫌われる可能性を、一ミリだって増やしたくない。

 ためらっていた腕を、今度は静かに回す。腕の中の温もりを、そっと抱き締めた。
 それが今の俺の、精一杯の愛し方だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸Twitterもぜひ遊びに来てください🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

隣に住む先輩の愛が重いです。

陽七 葵
BL
 主人公である桐原 智(きりはら さとし)十八歳は、平凡でありながらも大学生活を謳歌しようと意気込んでいた。  しかし、入学して間もなく、智が住んでいるアパートの部屋が雨漏りで水浸しに……。修繕工事に約一ヶ月。その間は、部屋を使えないときた。  途方に暮れていた智に声をかけてきたのは、隣に住む大学の先輩。三笠 琥太郎(みかさ こたろう)二十歳だ。容姿端麗な琥太郎は、大学ではアイドル的存在。特技は料理。それはもう抜群に美味い。しかし、そんな琥太郎には欠点が!  まさかの片付け苦手男子だった。誘われた部屋の中はゴミ屋敷。部屋を提供する代わりに片付けを頼まれる。智は嫌々ながらも、貧乏大学生には他に選択肢はない。致し方なく了承することになった。  しかし、琥太郎の真の目的は“片付け”ではなかった。  そんなことも知らない智は、琥太郎の言動や行動に翻弄される日々を過ごすことに——。  隣人から始まる恋物語。どうぞ宜しくお願いします!!

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

過保護な義兄ふたりのお嫁さん

ユーリ
BL
念願だった三人での暮らしをスタートさせた板垣三兄弟。双子の義兄×義弟の歳の差ラブの日常は甘いのです。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

処理中です...