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本編
12 プライベートと仕事
しおりを挟むStar NovaとL-Nova、今日は同じミュージック番組の撮影だ。その移動車に、マネージャーである本郷も乗り込む。視線は資料に落としたまま、櫻井とは一切目を合わせない。ほんの一瞬でも視線が重なれば、昨夜の温度が脳裏に蘇ってしまうからだ。
そんな本郷の隣へ、櫻井はわざと距離を詰めて腰を下ろす。本郷は反射的に、ほんの少し身体を引いた。
その様子を、Novaのメンバーがニヤニヤと眺めていた。
Nova一行が収録に向かったあと、本郷は楽屋でパソコンを開き、次の現場のスケジュール調整やメールの返信に追われていた。同時に、壁際のモニターに映るスタジオの様子からも、目を離さない。
晃弥が余計なことを言っていないか。
春陽が、変なところで滑っていないか。
そして──恋人の姿も。
カメラ越しでも分かる、オーラを纏った佇まい。長い亜麻色の髪から覗く視線。指先のしなやかな動き。ステージに立った時の、余裕ながらも妖艶な笑み。
あのマイクを持つ手で、昨晩も自分に触れて……。そうおもうと、胸の奥がじんわりと熱を帯びた。
「今日も、かっこいいな……」
誰もいない楽屋で、ぽつりと零す。仕事中には決して口にできない独占欲を、胸の内に押し込めるようにして。
早く二人きりになりたい。恋人になってから、毎日が満たされている。
「……仕事、頑張らないと」
収録が終わると、真っ先に楽屋へ戻ってきたのは櫻井だった。後ろ手で扉を閉め、そのまま鍵をかける。
「おい、鍵閉めたら怪しまれるだろ」
「みんなが戻ってくる前に、早くご褒美ください」
悪戯っぽく笑う櫻井に、仕方ないと小さく息を吐きながらも、本郷の胸は弾んでいた。
一歩近づき、唇に触れる。ほんの数秒の口づけ。それでも足りなくて、離れがたくて。櫻井は本郷を引き寄せ、強く抱きしめる。互いを確かめるような、熱のこもった抱擁だった。
見つめ合う視線。緩やかに上がる、口角──。
そのとき、不意に扉を開けようとする音が響いた。
「櫻井くーん? そこに居るのは分かってまーす。開けてくださーい」
水島の声と、それに重なるNovaメンバーの笑い声。本郷の頬が、一気に熱を持つ。慌ててパソコンの前に戻ると、櫻井は名残惜しそうに息をついてから、ようやく鍵を開けた。
その後、雑誌のインタビューが続き、一部のメンバーは別の撮影へと向かった。残ったメンバーと本郷は、帰りの車に乗り込む。
寮に到着すると、櫻井は「おつかれさま」とだけ言い残して、先に自分の部屋へ戻っていった。本郷はその背中を見送ってから、事務スペースへ向かい、書類に目を通す。
ようやく全てを片付け、椅子から立ち上がった。そして、仕事の顔を脱ぎ捨てるように深く息を吐く。
周囲に誰もいないことを確かめてから、本郷は静かに櫻井の部屋の扉を開けた。
「本郷さん」
両手を広げて待っていた櫻井に、本郷は思わず飛びついた。さっきまで必死に抑えていた分、勢いがついてしまう。
ぎゅっと抱きしめると、胸の奥から幸福が溢れ出した。
「本郷さん、今日の俺、どうでした?」
「……よくやってた。誇らしかった」
頭を撫でると、櫻井が嬉しそうに目を細める。
そのまま唇が触れ、壁に背中を預ける形で、二人は熱のこもった口づけを交わした。
シャワーを浴び終え、スウェット姿で並んで座る二人。
部屋には、穏やかな空気が満ちている。
「コンサートツアーの映像、少し見せてもらったけど、かっこよかった」
「誰が一番かっこよかったですか?」
「……そりゃあ……お前が、特別輝いて見えた」
仕事中だったら、きっと「みんな」と答えるんだろう。しかし今は、櫻井の恋人だ。
「これからも、本郷さんに好きで居てもらえるように……世界で一番、かっこいい男になります」
「期待してる」
ソファで肩を寄せ合い、櫻井の手が自然と本郷の背に回る。本郷は一瞬、期待が先走って、身体を強ばらせた。
打ち上げのあの日、身体を重ねるところまでは叶わなかった。それから今まで、進展はない。ハグとキスはあるが、それ以上はない。
(でも、今日は……)
時間はまだ早い。恋人になったのだから、勿論、抱かれる覚悟はできている。今日こそは、きっと──。
そんな本郷の期待をよそに、ベッドに入っても何も起こらなかった。背中に感じる櫻井の熱が、心臓をうるさくさせる。胸元にある手に、自らの指を絡めた。櫻井もそれに答えてくれる。
だが、櫻井はそれ以上、踏み込んでこなかった。
それでも、本郷の胸は満たされた。
そのまま安心したように目を閉じ、いつの間にか眠りに落ちていた。
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