ヒートありきの恋愛ですが

甘夏みゆき

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やっぱりαな男とΩな男

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 きっと自分は今、とてつもなく変な顔をしているのだろう。バカみたいに惚けた顔をしているのが自分でもわかる。恥ずかしくて顔を隠したい。けれど全身から力が抜けて、浅い息を吐くことしかできない。

 テオはまぶしそうに眼を眇めると、優人の腹のあたりをさすって、その手をオレンジのひかりにかざした。テオの指先はねばりをけを帯びたもので濡れている。テオはそれを口に含むと、ぞくりとするほど艶のある顔で優人に笑いかけた。

「ゆーとくんも気持ちよくなってくれておれ、うれしい」

 テオに言われて、優人は自分も達していたことに初めて気づいた。目を瞠った優人は一気に顔に血が上ったが、力は入らないし、テオもあんまり嬉しそうな顔をするものだから、怒るに怒れない。

 テオは感激したように優人の顔にスタンプを押すようなキスを沢山してきた。やがて満足したのか、テオがベッドをきしませ優人から離れると、晒された優人の肌は急激に寒くなる。暖房の人工的な温かさは優人の気持ちを心許なくさせ、優人はテオに対して恨めしい気持ちになった。

 さっきは確かに驚くほど気持ちがよかったけれど、まだ身体は十分に満たされたわけじゃない。それどころかさっき以上に焦燥感に近い官能が体中にうごめいていて、後孔をせつなくさせている。
 それなのに今この男は行こうとしているのだ。優人を置いてゴムを買いに行くために。

「ごめんね、ゆーとくん。行ってくるから、まってて」

 再び頭をなでられ頬にキスされると、今度は気持ちまでせつなくなった。行かないでほしい。置いていかないでほしい。今すぐこの身体をどうにかしてほしいのに、どうしてそれが分からない。

 優人が力の入らぬ手をどうにか伸ばすと、ベッドを離れようとしていた男が気づいて、当たり前のようにその手を取って掌にキスを落とす。
 なんてひどい男なのだろう。従順なふりをして優人を翻弄し、自分だけ涼しい顔で今からこの部屋から出ていこうとしている。
 優人はなんだが自分だけがこの行為に夢中になっているようで腹が立った。自分は今、もう一分だって待てそうもないのに。それくらいこの男が欲しいと思うのに。

「も、いじわるするな……!はやくいれろよ……っ!」

 怒鳴ってやろうとキッと男を見据えたのに、口から出たのは泣き言だった。意識もあるし普段だったらこんなこと絶対言わない。だかその分優人の切実さや恥ずかしさは伝わったはずたろう。それなのに男は困ったように眉を下げると、まるで子どものわがままを諭すように、優人の髪を優しく梳いた。

「ゆーとくんにそんなことまで言わせてごめん。でもおれ、ゆーとくんのこと、大事にしたいんだよ……。前はゴムなしでしちゃったし、もし何かあったらと思うと」
「おっ、おれがいいって言ってる……!それとももう、その気になれない?おれ、いま変な顔してるもんな。さっきお前、おれの顔見て引いてただろ?か、顔、むくんでるとか?それとも、泣きすぎて目が腫れてる?」

 人生でこんなに素直になったのは初めてで、それが挿れてほいとか、どんだけ必死だ。まぬけ過ぎる。恥ずかしくてやるせなくて、優人は溢れる涙を誤魔化すために繰り返し顔をこすった。とたん、その動きを阻止するように両手首をつかまれ、代わりにテオの掌で顔を挟まれる。驚いて眼を瞬かせていると、優人の眼前にまたあの怖い顔のテオが現れた。なぜか笑顔を失ったテオの顔がほんのり赤い。

「おれ、ゆーとくんのそういう天然なとこ、だいすきだけど……っ!いまは、逆効果だよ……!」
「はぁ!?だれか天然だっ……あ!?」

 ぶちゅっと音がするキスをされたかと思うと、気づけば天井をみあげていた。身体を倒されていると思ったと同時に、眉を寄せたテオが覆いかぶさってくる。

「その気になれない?そんなわけないよ。さっきから優人くんがエロすぎておかしくなりそうだった。だから一旦離れて、あたまを冷やそうって思ってたのに……!」

 もう知らない、と耳元で囁かれ、指とは比べ物にならないほど長大なものが窄まりに押し当てられる。驚いて目を見開くと、テオがごめん、とひと言って優人の内壁をこじ開けるように、みちみちと押し入ってきた。

「……っ、あ……あ……」

 浅い呼吸を繰り返していると、顎を取られて唇を吸われた。ゆったりと舌を絡めるキスに、こわばっていた身体が徐々にほどけていく。

「だいじょうぶ、ゆっくり息をして……そう、じょうず……」

 キスをされながらそこが押し開かれていく感覚に、優人は短い息を何度も吐いた。テオのそこは大きくてさっきはあんなに慄いていたのに、不思議と痛みはない。それよりもやっと繋がれた歓びのほうが勝っていた。求めていたものを与えられ、腹の裏がわに脈打つテオのものを感じるたびに、胸が焼けるほどの愛おしさが全身に広がってゆく。

「テオ……っ、テオ……っ」

 キスの合い間に優人が繰り返し名を呼ぶと、テオがぐう、と不思議なうめき声をあげて肩口顔を寄せてくる。離された唇が寂しくて、優人がテオのうなじのあたりに唇をおしつけていると、テオが耐えきれなくなったように軽く腰を揺すってきた。

「んぁ……っ」
「ゆーとくん……あんまり、煽らないで……!」

 テオが呻いたが、優人はもう喋ることができなかった。テオのそこが優人の内壁を擦った途端、優人のナカはまるで食虫植物のようにテオの屹立を貪婪になめしゃぶり、きつく締めつけているのがはっきり分かる。

「まずい……なんだ……これ……」

 テオがこめかみに血管を浮き立たせながら息を弾ませる。身体がおかしい。ヒートじゃないのに、軽くナカを擦られただけで尋常じゃないほど昂って、優人は身も世もないような乱れ方をしてしまう。

「テオぉ。おれのからだ、なんか変っ……!」

 もっともっとと勝手に腰が揺れると、目をつむり、ずっと耐えていたテオがかっと目を見開いた。その刹那、腰をつかまれ、ずんと根元までテオのものを埋め込まれる。優人はその刺激だけで達してしまい、テオの下で優人の身体はよくしなった弓のように反りかえる。テオはそのしなった身体を腕ごと両手でがっちりホールドすると、更にがつがつと奥を穿ってきた。

「やっ……だめっ……だめっ……」

 それ以上はおかしくなる、優人は横に振って抵抗したが、まるで吸い付いてくるような巧みな腰の動きに優人の頭は陶然としていく。テオはひとことも発さなかった。まるで口を開いたら、優人を食らいつくしてしまうとでもいうように、テオはひたすら優人の身体を貪り追い詰めてゆく。

「ひっ……んぁ……」
「くっ……」

 ひときわ大きな快楽の波がやってくると、二人同時にさらわれた。優人のナカが水に飢えた草花のようにテオの放ったものを一滴残さず飲み干してゆく。

 濃密な空気の残り香のなか、全力疾走したあとのような二人の荒い息だけが響いていた。優人は自分のうえでくったりとしている愛しい男の背を撫でる。男の肌は汗で濡れて冷たくなっていた。あんなに理性的だった男が、ヒートじゃないのに自分に夢中になってくれたことが嬉しい。この多幸感は互いにヒートだったら、決して味わえないものだった。

 けれどさっき散々変なところを見せてしまった手前、それをどうやって伝えていいか分からない。とりあえず互いにお風呂に入ったあと、
眠りにつく前に雑談がてら言ってもいいかも、などと優人が益もないことを思っていると、やっと上体を起こしたテオはなぜか優人を見て獰猛に笑った。

「ゆーとくん、だいすきだよ。だいじょうぶ、時間がゆるすかぎり、おれがゆーとくんをどれだけ好きか今からもっともっと証明するからね」

 テオはそう言うと、放ったものをナカに塗り込めるように再び奥をついてくる。


 優人がやがて理性を手放す頃はすでに外が白み初めていたが、テオの証明はまだまた終わりを知らないようだった。
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