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第5話

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 俺は目の前のゴブリンに向けてスリングショットを放った。いつも通りゴブリンの頭が吹き飛び倒れた。今までと何も変わらない。


「パパ~すごーい!!」


「ちゅごーい!」


ひかりとあかりが俺の活躍を目を輝かせ称えてくる。



「パパ、ひかりもそれ欲しい!!」

「あかりも~!!」


「ひかりはともかく、あかりにはまだ難しいんではないかな?」


「やだー!あかりも欲しい!!いりゅの!えーーん!!」


ととうとう大声で泣き出してしまった。



ここはゴブリンがそこらじゅうにいる場所なので大声は不味いのだが…


「あかり、ごめんね。シーできるかな?同じものは無理でもあかりにも使えそうな物を後でパパが作るからね。魔物が寄ってきちゃうから泣き止んでくれるかな?」


「パパ、あっちからゴブリンが!」


「パパっ!あっちからも!」


浩美とひかりが色々な方向を指差している。案の定、ゴブリンが四方から近づいてきたのだ。


全部で4匹か…



「ママ!ひかり!緊急事態だ!!2人は石でも投げて、少しでもいい、時間を稼いでくれるか?」


「分かったわ!」


「頑張ってみる。」



その声を聞き、俺は一番近いゴブリンの方へ駆け出した。射程に入る少し手前で止まり、スリングショットを構える。


焦るな俺…外せばそれだけ余計な時間を取られる。確実に1匹ずつ潰していく!


俺は焦る気持ちを抑え、呼吸を整えてからスリングショットを放った。見事に命中した。


「残り3匹!」


俺は次に近いゴブリンの方へ再び駆け出した。同じように確実に一撃で倒し、家族の方へ振り返ると残る2匹は俺に向かってくるゴブリンと、家族の方へ向かっているゴブリンがいた。浩美とひかりは必死にそのゴブリンへ石を投げつけて時間を稼いでいた。

俺は迷わず家族の方へ向かっているゴブリンの方へ駆け出した。スリングショットを構え、俺の大事な家族を狙うふざけたゴブリンへ怒りの一撃を放った!



「よしっ!これで残りは1匹。」


と残るゴブリンの方へ振り返った瞬間、俺の腹に鈍い痛みが走った。



ゴブリンにお腹を刺されたのだ。


「痛ってーー!!」

「「パパっーー!!」」



半端ない痛みで気を失いそうになったが、家族を残して気絶してる場合じゃねー!!!っと気合いで絶えた。

正直…まだ血の気が引いて、頭がくらくらするが、目の前のゴブリンに向けて俺は必死に殴り掛かった!

ゴブリンもここで殴りかかってくるとは予想してなかったようで避けることもできず、後ろへ大きく吹き飛んだ。それでもまだ生きてるようで起き上がろうともがいてるようだ…


俺は止めを刺そうと必死にスリングショットを構えたが、ゴムを引く力を込めれば込めるほどお腹の痛みは爆発的に膨れ上がり、狙いが定められない。

そしてその必死の痛みに耐えての一撃は、ゴブリンの方へ飛びはしたが、虚しくも外れてしまう。


俺はすぐに次の攻撃を準備していたが、そこで浩美や子供たちが俺のところへやって来た。


「パパっ!応急処置するからお願い、一回力を抜いて!!」


浩美が俺の腹へ手をかざした。
すると、不思議なくらいあの燃えるような痛みが引いてくるではないか!


「どう?少しは楽になったかな?」


「ありがとう、ママ!ものすごく楽になったよ!!愛してる!!これならあいつに止めをさせそうだ。」



俺は立ち上がり、再びスリングショットを構えた。その一撃は起き上がろうとしていたゴブリンの頭を吹き飛ばし、絶命させた。


本当にしんどい戦いだった!!





.....
....
...
..





 俺たち家族は、あれから家へ真っ直ぐ帰った。もちろんその前にゴブリンたちの死体は浩美に入金してもらった。まだ狩りは始めたばかりだったのだが、さすがにあんな怪我を負っても狩りを続けるのは危険だと判断して戻ったのだ。


「あかりのバカ!!あかりがあんなに大きな声で泣くからパパが怪我したじゃん!パパが死んじゃってたらどうするんだよ!!」


「パパ~ごめんなしゃいー。死んじゃやだー!」


ひかりに責められ、あかりは再び大泣きになってしまった。



「ひかり、パパの為に怒ってくれてありがとうな。優しい子だ。」


俺はひかりの頭を撫でた後、ゆっくりとあかりの顔を覗き込む。



「あかり、パパの顔を見てごらん。」


あかりはしばらく泣き続け、ようやく顔を上げた。



「あかり、パパは生きてるよ!死んだりしないよ!!かわいいひかりとあかり、それに大好きなママを残してパパは死んだりできないよ!

でもね、さっきみたいに魔物がいる場所で、大きな声を出したらたくさんの魔物が寄ってきちゃうから…今度からは大きな声で泣くのは我慢してくれるかな?約束できるかな?」


「うん!できりゅ。パパごめんなしゃい。いたかった?」


「あー、メチャクチャ痛かった!久しぶりに泣きそうなくらい痛かったよ。でもママに治してもらったし、ひかりやあかりが心配してくれたから、もうすっかり良くなったよ!おいで。」



俺はあかりをぎゅっと抱きしめ、頭を撫で続けた。


「ひかりもー!!」


ひかりが後ろから抱きつき俺の首をぎゅーっと締め付ける。


「ひかり!首はダメ。パパ苦しいから!うー。がくっ。パパ死んじゃったー。パパゾンビだぞー。かわいい2人を捕まえちゃうぞー!!」


「「キャー!にげろー!」」


しばらく追いかけて遊んであげたら、子供たちは疲れたのか眠ってしまった。浩美と手を握って子供たちを眺めていたら、浩美から話しかけられた。


「パパ、今日パパが刺されたのを見て私すごく怖かった。私たちを守る為に、無理をし過ぎてあんなことになってしまった…

明日からは私も戦うわ!魔物と戦う怖さよりも、足手まといであなたを失う方がずっと怖いの!!」


「そうか…でも俺が家族を守ることは当たり前のことなんだ!ママはあくまでも自分等を守る程度に危険の少ない戦い方をして欲しい。それでいい?」


「うん。」



俺たちはこの世界に来て初めての熱い口づけを交わした。
その先は?そこはご想像にお任せする。これ以上の愛の語り合いは夫婦の秘密だ!





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