ボッチ英雄譚

3匹の子猫

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第19話

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 目の前に突然現れたゴブリンジェネラルに僕たちは固まりました。
あれは手を出してはいけない奴だ!とすぐに理解できました。


「ニコルさん、早く逃げて下さい!」


ニコルさんは素早く行動に移してくれました。僕はゴブリンジェネラルを前に構えています。


「えっ?ロンさんも一緒に逃げないのですか?」


「僕がニコルさんの逃げる時間を稼ぎますので、早く助けを呼んで来てください!!」


「わ、分かりました!」


 ニコルさんは申し訳なさそうにこの場を離れていきます。


カッコつけたのはいいのですが、今の僕では目の前のゴブリンジェネラルに勝てるとはとても思えません。


 開き直って僕は倒すことは諦めて、守りに徹して時間を稼ぐことにします。ニコルさんもしくは、ニコルさんを置いて逃げた冒険者がギルドに報告してくれれば5時間後には冒険者を集めてここに戻ってくる筈です。

幸い僕には、気配関知、見切り、受け流し、苦痛耐性と守りに関するスキルはそれなりに充実してます。さらに先ほど思い付きで大量の回復薬と毒消薬を作成していたのでダメージを受けてもすぐに回復が可能です。


 こう頭の中では考えていたにも関わらず、僕はやらかしてしまいました。


 ゴブリンジェネラルが右手に持つ剣を僕に向けて振り下ろした瞬間、思ってた以上にきれいに受け流すことに成功して、ついついゴブリンジェネラルの脇腹にメガインパクトを放ってしまったのです。

結果は強大な筋肉に守られ大したダメージを与えることも叶わず、逆にスキルの後の僅かな硬直に合わせられ、強烈な蹴りを喰らうこととなってしまいました。

僕の体は大きく吹き飛び、木に叩きつけられてしまいました。



「ぐはっ!」


僕は口から血を吐き出しました。どうやらどこかの内蔵をやられたようです。それでも追撃を警戒し、すぐに立ち上がったのですが…

ゴブリンジェネラルは既に僕に興味を失い、ニコルさんを追いかけ出したようです。


 離れていくゴブリンジェネラルの後ろ姿を見ながら、僕は正直助かった…と思わずにはいられませんでした。すぐに回復薬を2つ飲み傷を全快した僕は、次の行動を迷いました。


このままではゴブリンジェネラルがニコルさんに追い付いてしまう恐れが高い筈です…走って助けに行くべきか?…そもそも追い付いても助けることができる可能性は限りなく少ない筈です…多少でも時間を稼いだのだから後はニコルさんの運次第じゃないのか?

ゴブリンジェネラルを追いかけない理由は次々と思い浮かんできます。


 だけど駄目そうです。僕はこのまま自分だけが助かる選択を選べそうにありません。こんなに自分が物語の英雄のような行動をとることのできる性格とは…これまでの人生で僕自身も知らなかった自分でした。


僕はゴブリンジェネラルからニコルさんを救ってみせる!!




.....
....
...
..





 私は今全力で走っています。正直もう体力の限界です。でもまだ足を止めるわけにはいきません。

会ったばかりの私を逃がす為にロンさんという方があの恐ろしいゴブリンジェネラルと対峙してくれているのです。

私は彼に助けを呼んで来てくれと頼まれました。

私が街に戻りここに人を連れてくるには、どんなに急いでも4時間以上掛かってしまいます。それだけの時間、あの若い彼があのゴブリンジェネラルと戦い生き残れる筈がありません。

でも…それでも私は彼の最後の頼みを疎かにする訳にはいかないのです。



 間もなく森を抜けられると思った時、無情にも私の進行方向からあいつは現れました。突然姿を現したゴブリンジェネラルは、私が驚いて立ち止まる前に私の頬をその大きな掌で凪ぎ払いました。

痛みに堪えて必死で起き上がったのは、私の絶望をより早くするだけだったのかもしれません。ゴブリンジェネラルは私の着ていた服を無理やり破り捨て、私の上に跨がりました。


ゴブリンには雄しか生まれません。その為、ゴブリンは人間などの女を繁殖の道具にするのです。このまま捕まれば、私は死ぬまでゴブリンたちの子供を生むだけの道具とされてしまいます。

今は恐らく味見なのでしょう…


「あっ…あぁあ…」


 私はこのおぞましく汚らわしいゴブリンジェネラルに間もなく初めてを奪われてしまうのです…


「アーマーブレイク!」
「パリンッ!」


 私は絶望し、全てを諦めかけていたその時、この声が聞こえてきたのです。死んだと思っていたあの若い男性が勇敢にもゴブリンジェネラルにハンマーで殴り掛かっていました。


「ロンさん!!」


 残念ながらゴブリンジェネラルには何のダメージもなかったようですが、ロンさんはさらに追撃をしようとしていました。

ロンさんはハンマーを逆手に持ち、尖った方をゴブリンジェネラルの頭に叩きつけようとしていました。


「メガインパクト!」


ゴブリンジェネラルの左耳は何かが弾けるような音を響かせ、弾け飛びました。


「グゥアァーーーゥアーー!!!」


ゴブリンジェネラルの左耳と頭の一部は深く抉られ、苦しみの声を出しています。



「ニコルさん、大丈夫ですか?すぐにここから逃げて下さい!!僕には不意討ちでもあいつを倒しきるだけの実力はありません!守りに徹して時間を稼ぎますので、助けを少しでも早く呼んで来てください!!

僕は4時間でも5時間でもきっと耐えきってみせます。」



 私にはとても信じられなかったです。さっき初めて会ったばかりの人が、自分でも敵わないと言ってる相手から私なんかを守るために死地へ自ら飛び込んで来てくれることを…


ロンさんは英雄なんだ…私は私の英雄を死なせたくない!!



「ロンさん!分かりました!!1秒でも早く戻ってきます!必ず生きていて下さい!!!」


 私は王都へ向かって再び走り出しました。


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