金の野獣と薔薇の番

むー

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本編

9月 ③

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9月の最終週。
3日間の体育祭が始まった。

バスケットボール、バーレーボール、卓球、バドミントン、テニス、ソフトボール、フットサルの7競技を1学年5クラスの計15チームで各競技の勝者を決める。
まずは3チームずつ分け総当たりの予選をして、一番勝ち点が多いチームが決勝トーナメントに進むという至ってシンプルなものだ。
基本、予選、決勝とくじ引きで公平に決める。
オレが参加する1-Aのフットサルのグループの予選の対戦相手は1-Cと2-Eだ。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

「如月が間に合って良かったな」
「あの空振りを見た時は終わったと思ったわ……」
「あれはなぁ」
「あそこまで下手だと逆に新鮮で感動だったな」

チームメイトが好き勝手言っているが、オレ自身もまともなプレーができるレベルまでに仕上がるとは思わなかった。
それもこれも、皇貴先輩が根気強く教えてくれたのが大きい。

「とりあえず、如月はまっすぐ蹴ることを頑張れ」
「うん」

運動部のメンバーにはそれほど期待はされていないのは悔しいが、今は出来ることを頑張るしかない。

そういえば、と鞄の中のタオルを取り出す。
義母にお願いして買ってもらったタオルだ。
すぐ使えるように一度洗濯をした。
以前、練習の前に、新品の状態で渡したのだが突っ返されてしまった。
一度洗って吸収力が抜群になったタオルこれなら皇貴先輩が汗を掻いたときに、汗を拭く名目で返せるだろう、と。

手提げのトートに自分用と返却用のタオル、スポーツドリンクを入れて、メンバーとグランドへ向かった。

「しっかし、如月は白いよな」
「俺たちなんかこんなに真っ黒になってんのに」
「オレだって少しは焼けたよ、ホラ」

Tシャツの腕の部分を捲って境目を見せたが鼻で笑われた。
それは仕方がない。
初日に生徒会長に保健室へ運ばれた時、肌が真っ赤になっていたため保健医に日焼け止めと炎症止めのローションを渡されたからだ。
オメガになってからのオレの皮膚は、太陽光に弱くなったようだ。
だからトートの中にも、一応、日焼け止めが入っている。


グランドに着くと、2面の試合用のコートが出来ていた。
この学園はアルファの保護者やOBの寄付で成り立っているため資金が潤沢で、コレも有り余る寄付金で土日に作ったそうだ。
しかも、終わったら元に戻すらしい。

周りを見渡すと試合に参加する生徒と見学の生徒で溢れかえっていたが、その中に皇貴先輩はいなかった。


オレたちの最初の相手は1-Cだった。
オレはみんなの邪魔にならないよう、空いたスペースで試合に参加した。
試合中、オメガのオレは皆ノーマークというか、仲間ですら放置だった。
おかげでほとんどボールが飛んで来なくて正直助かった。
オレと言うハンデをものとせずチームは5-3で勝った。
勝った時のハイタッチはオレも参加した。

次の対戦は午後からのため、他の試合を見学した。
2、3年は流石に上手くて、次はたぶん負ける気がする。
そんなこんなで、あまり汗を掻かなかったオレは着替えることなく昼食を食べて午後の試合に臨んだ。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

午後も周りを見渡したが、皇貴先輩はいなかった。
タオルいつ渡せるのかな。

次の相手は2年だ。
午前中に1-Cとの試合を見たが、際どいラフプレーが結構あって、1-Cの生徒が2人怪我で途中退場した。

「如月はヤバいと思ったら逃げろよ」
「絶対、捕まんなよ」
「ああ、気をつけるよ」

チームメンバーもかなり警戒していて、みんなオレのことを心配してくれた。
相手の2-Eは、あまり素行が良くない生徒が多いと瑠可から聞いた。
基本、各学年のEクラスの生徒は成績だけでなく、なんらかの問題児が集まってしまうらしい。
1年の時はそこまでではなくても、学年上がるにつれて劣等感が強くなって、素行にも出てしまうようだ。
だから、この体育祭はそういう奴らが憂さ晴らしに参加することも多いと。
オレは気を引き締めてコートへ向かった。


試合は主にオレが狙われた。
ラフプレーに紛れた暴力行為は、メンバーの中で特に小柄なオレに集中して、何度も体当たりをかまされた。
なんとか避けてほとんどよろめく程度だったが、たまにあからさまに突き飛ばされて尻餅をついた。

試合も中盤に入ると、相手のオレへのマークが前後に2人ついた。
その2人が行動を起こしたのは残り5分を切った時だった。

「うわっ」

前の奴が突然下がってきて、オレはまともにぶつかった。
吹っ飛ばされはオレは後ろにいた奴に抱きとめられた。

「大丈夫か?」
「あ、は…い?」

意外に近いところから声を掛けられて、背筋にゾワっと悪寒が走った。
すぐに身体を起こそうとするが、オレを抱きとめる奴の手が離れない。
身を捩ってみるがガッツリ拘束されて動けない。

「本当に大丈夫か?」

オレの腹に当ててた手をTシャツの裾から滑り込ませてきた。

「ひっ……ちょっ、は、離して下さい」
「えっ、何?俺、君のこと心配してるだけじゃん」

審判に見えないようにオレを背中で隠し、声を出さないよう手で口を塞がれた。
体重を掛けて前のめりになったオレの腹を撫でながら、その手は上に向かっていく。

「んー…っ…んんっ」

男は嫌悪感で鳥肌が立っているのも構わず、その手はオレの服の中で動く。
その間も試合は進み、誰もオレの異変になんて気にも止めなくなった。
上がってきた手に胸の尖を掠めるように触れられ、その嫌悪感は最高潮となり我慢できずに涙が出てきた。

「何、オメガちゃん、気持ちよくて泣いちゃった?やっぱ、九条皇貴のお気に入りだけあって感度いいな」
「っ⁉︎」

オレの反応に気を良くしたソイツは耳元で囁いた。
皇貴先輩のお気に入り?
何のこと?

声が出せないオレは必死に首を振ると、口を塞いでいた指先が唇を割り中に侵入してきた。
そのまま閉じていた歯をこじ開けて奥に進むと中を撫で始めた。
汗が混じった塩気のある男の指の感触に吐き気を催した。

「んっ…ふ…」
「口の中も気持ちいいだろ」

どこもかしこも気持ち悪いんだよ。
男の指がオレの舌を捉えた瞬間、思いっきり歯を立てた。

「い゛っっ」

男の動きが止まり、その隙に身を捩ると簡単に抜けることができた。

「触んなっ、気持ち悪い」
「……っ……このっ」

口の中の男の味が混じる唾液をぺっと吐き出し言い捨てると、怒気を孕んだ目を向けられ、こいつがアルファだということに気づいた時にはすでに遅かった。
その圧で指一本動かすことができなくなったオレに、男の拳が迫ってきて目をギュッと閉じた。

「そこまでです」

オレの肩に置かれた手と背中に当たる体温に目を開けると、横から伸びた手が男の拳を受け止めていた。

「あ…生徒会長」
「試合は終了です。2-Eは失格のため1-Aの勝利です」

それだけ言うと生徒会長はオレの肩を抱いて保健医のいる救護室に連れて行った。

「ありがとうございます」
「いえ、気付くのが遅くなり申し訳ありません。……あれほど彼に頼まれていたのに…」

救護室のパイプ椅子に座ると、今頃になってカタカタ体が震えだした。
そのため、オレは生徒会長の後半の言葉を聞き逃した。
生徒会長は震えるオレの頭を優しく撫でてくれた。


思わぬ形で決勝トーナメントに進出したオレたちは、翌日、アッサリ敗退した。


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