金の野獣と薔薇の番

むー

文字の大きさ
24 / 78
本編

1月 ②

しおりを挟む
「如月結季くんって君で合ってる?」
「え、あ、はい」

古文の授業の後、先生に声を掛けられた。
確か『神凪カンナ』という珍しい苗字だと瑠可が言っていた。
珍しい、か…。
って、何だろう、このモヤモヤは…?

考えてもやっぱりよく分からない。
だが、その考えは授業が始まったらなくなった。


「僕は3ヶ月間だけ、このクラスの古文を担当する神凪カンナ清暙キヨハルです。短い間だけどよろしくね」
「はい。よろしくお願いします」

態々、挨拶に来てくれるとはご丁寧な先生だ。
でも、なんだろう。先生の顔を見た時、なんか胸の奥が騒つくような悪寒が走った。

「前回、欠席したようだけど、さっきの僕の授業、わからないところはなかった?」
「あ…はい。たぶん、大丈夫だと思います」
「そう?わからないことがあったらいつでも聞きにおいで。準備室にいるから」
「はい、ありがとうございます」

妙に優しい先生だから、既に生徒には人気があるようだ。
しかもアルファで瑠可はいい匂いだというが、その匂いに俺は頭が少し痛くなった。
だから、出来るだけ関わらないようにしようと思った。

……のだけど。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

「ごめんね。手伝ってもらって」
「大丈夫ですよー。なー如月」
「あ、うん」

現在、オレとクラスメイトの矢部の2人で副担が使っている準備室の掃除をしている。
準備室は物置部屋と化していて、その辺の物を触ると埃が舞い使える状態ではないため、クラスからオレと矢部が掃除の手伝いに駆り出された。

準備室は一階にあるため、埃を被った本を窓から外に運び出して、ブルーシートを敷いた上に並べることにした。
幸いそこは日陰になっていて程よく風が通るので、置いておくだけである程度埃が飛んでいってくれた。
とはいえ、時間は限られているからテキパキと働いた。
オレと矢部が本棚に積もった埃をハタキで落としてから雑巾で拭いて、床も掃除機を掛けた後モップで仕上げ、その間に先生には机の上を片付けてもらった。
本に埋もれていたテーブルが現れたから、そこで埃を除いた本を先生に分類してもらい、それをオレたちで本棚に戻していく。

ふと視界の悪さに窓の外を見ると、だいぶ日が落ちてきていた。
片付けも終わりそうにないし、今日は先輩と勉強会はもう無理だなと、ちょっと凹んだ。

「如月くん、疲れちゃった?」
「え、あ、大丈夫です」
「先生、俺は疲れましたー」

矢部が手を上げた。
実のところ、オレもだいぶ疲れてんだけど、それより早く終わりたかった。

「では、手伝ってくれたお礼に、何か食べ物と飲み物を買ってきますよ。何が良いですか?」
「あ、俺買ってきます!」

急に元気になる矢部。
現金なやつだな。

「なら、オレも一緒に買ってくるんで、先生は少し休んでいてください」

そう言ったのだが、矢部がオレの肩を押さえて無理矢理椅子に座らせた。

「俺1人で大丈夫です」

矢部はそう言うと、先生からお金を預かって走っていった。
つか、あいつ元気じゃん。

矢部の帰りを待つ間、本の分類をする先生に向かい合う形で座っているが、なんとなく気不味い。
やっぱり、胸が少し騒めく。
ここにいてはいけないと、警告しているみたいだ。

「如月くんはオメガなんですね」
「え…はい」
「いつ分かったんですか?」

突然振られた先生の質問の意図が判らない。

「高校に上がって直ぐの血液検査でオメガと判定されました。それまではベータでした」
「後天性ですかね?ベータがオメガに変わる例は聞いたことがないので、如月くんのようなタイプは珍しいですね」
「そう、なんですか…」

微笑みながら喋る先生の目は笑っていないように見える。

「君はあの『如月』の家の子なのかい?」
「……はい」
「本当に?」

何だろう。
探られている感じがする。
両親と血が繋がっていないことはこの人には言わない方が良いのかもしれない。

「はい」

とても居心地が悪い。
心臓がバクバクいって苦しいし、先生の匂いでまた頭痛がしてきた。
矢部、早く帰ってこい。

「如月くん、顔色が少し悪いね。大丈夫?」

本を置き、オレに触れようと伸ばされた手を反射的に躱すと、先生の目が微かに大きく開いた。

「ぁ……と、大丈夫です」
「そう」

目を細め答える声。
背中に寒気が走り、頭が脈打つようにズキズキ痛む。

「ぁ…の…」
「心配だな」

先生はそう言うと、立ち上がって俺の目の前に来た。
漂うフェロモンに脚に力が入らず立ち上がれないどころか、体を動かすことができなくなった。
先生はオレの肩に手を置き顔を寄せてきた。
警告のように頭がズキンズキンと痛みが強くなる。
あと数センチ…。

「ぁ……」
「おっ待たせしましたぁー!」

空気を打ち破る能天気な声と共にパンパンに詰まった袋を二つ持った矢部が帰ってきた。
矢部の登場により先生がオレから離れ、それによりオレの身体の緊張が解けた。

「ああのっ!オレ、用事あるんでこれで失礼します!」

ガバリと立ち上がって、逃げるように準備室を後にした。

翌日、矢部に残りの片付け1人で全部やらされたと文句を言われたが聞き流した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

「呪いを解くには毎日可愛いと言ってください」と嘘をついたら、氷の聖騎士様が本気で口説きにかかってきました

たら昆布
BL
間違って呪われた青年と呪いを解除したい騎士の話 番外編はその友達たちの話

あなたの家族にしてください

秋月真鳥
BL
 ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。  情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。  闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。  そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。  サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。  対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。  それなのに、なぜ。  番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。  一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。  ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。  すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。 ※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。 11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

処理中です...