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本編
1月 ③ side keito
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冬休み明け、始業式の夜。
父にメールを送った。
『神凪清暙と名乗る教諭が学園に赴任しました』
メール送信後、すぐ電話が鳴った。
「彼は?」
「発情期中のため、まだ自宅です」
「そうか…」
電話の向こうでため息が聞こえた。
息子の前でも隙を見せない父が、電話越しとはいえため息を溢すのは珍しかった。
「あの…」
「発情期中ならば、あの男がすぐ動くことはない」
「そう、ですか?」
父が言うなら間違いない筈なのに、どこか納得できない。
「佳都、もうすぐ入試だ。あれこれ考えるのは試験が終わってからにしなさい」
「……はい」
こんなに不安になるのは、父以外、誰にも相談できないからだ。
いっそ皇貴にだけ話してしまいたい。
話せば皇貴は全力で彼を守るだろう。
試験すら蹴ってでも。
それは、皇貴の将来に何らかの汚点をつけるだろう。
それにより、当事者である彼が一番苦しむだろう。
「佳都」
「はい」
「絶対大丈夫だ。だから、まず目の前の問題をクリアしなさい」
力強い言葉が耳に届いた。
「はい。わかりました」
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
試験当日。
志望の大学、学科が同じ皇貴と一緒に試験会場へ向かった。
隣を気怠そうに歩く皇貴はいつも通りで、試験も彼の実力なら問題はないだろう。
自分もいつも通りに受ければ問題ないはず。
試験の全日程が終わった帰り道。
「なあ、佳都」
「なんですか」
「なんか、俺に隠してるだろ」
「っ……」
皇貴から不意打ちに、言葉を失い俯いてしまう。
皇貴との付き合いも6年近くなるが、相変わらず考えていることがわからないことの方が多い。
今も、何も考えていないようで、自分の様子がおかしいことに気が付いていた。
口調からして、隠し事が何なのかもある程度気付いているだろう。
「無理矢理口を割らせる気はない。佳都が話して良いって時にちゃんと教えろよな」
コツンと肩に拳が当たって、顔を上げるとニヤリと笑う皇貴の目と合った。
その金色の瞳は自信に溢れていて、思わずフッと笑ってしまった。
「はい。必ず貴方に話します。だから、もう少しだけ待って下さい」
「ああ……なあ、腹減ったな。なんか食っていかね?」
「いいですね。コーヒーが美味しいカフェがあるのでそこに行きましょう」
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
そこは、父から教えてもらったオフィス街にあるカフェだ。
コーヒーの味はもちろん気になるところだが、今回はそれだけではない。
先月、結季と瑠可が此処から駅に向かう途中に数名の男に襲われたと父が教えてくれたので、どのような場所か自分の目で見てみたいと思っていたからだ。
ドアを開けるとカランと心地よい音がした。
その音に気づいた店員がすぐ出迎えてくれた。
人当たりは良さそうだが、少し違う雰囲気を感じる店員だ。
「店内のご利用ですか?」
「はい」
案内された席は、ガヤガヤと騒がしいエリアではなく、少し離れた静かなテーブル席だった。
「ウチの店はじめて?」
「あ、はい」
「ウチ、コーヒーが美味いけどケーキも美味いから、脳休めに食べていくといいよ」
気が利く店員のようだ。
注文から数分後、店員のオススメのケーキとコーヒーが届いた。
席の位置のおかげか、視線は感じるが声を掛けてくる人はおらず、2人でその味を楽しむ。
「これ、あいつ好きそうだな」
あいつとは彼のことだろう。
「彼はこの店知ってますよ」
「えっ……」
「その後、駅に向かう途中で数人の男に絡まれたようですよ」
「なっ……ゲホッゲホ」
気管に入って咽せる背中を摩る。
伝えるタイミングを間違えたのだろうか?
まあいいか。
結果、無事だったから。
「偶然近くを通りかかった父が対処したので大丈夫ですよ」
「そう、か…」
眉間に皺を寄せて何かを考える皇貴に、口が開く。
「貴方は彼をどう思ってるのですか?」
「……何だよ急に」
「いえ、ずっと気になっていたんですよ。彼に会ってから貴方はだいぶ変わりました。色々な意味で、いい方向に」
「………」
言葉に詰まり気不味そうに私から目を逸らすから、クスリと笑ってしまった。
フォークで無意味にケーキを刺す皇貴を見ながら話を続ける。
「私は貴方が彼を気にかけるのはとても良いことだと思っています。あと少しで私たちは卒業ですが、貴方は彼とどうなりたいと考えているのですか?」
「……わからねぇ」
それっきり、皇貴は口を開かなかった。
中学で皇貴と親しくなった頃、「会いたい人がいる」と零したことがあった。
確か子供の頃、父親の実家について行った時に会った女の子だと言っていた。
それ以上は話してくれなかったが、たぶん初恋の子なのだろう。
その子への気持ちに区切りをつけない限り、今の気持ちに真正面から向き合えないのだろう。
ついこの前まで下半身の節操がない男とは思えないほどの律儀さだ。
私の考えが合っているのなら、皇貴の愁はすぐ晴れるだろう。
だが、それではダメな気がする。
もう少しだけ、様子を見よう。
早く気づいてくれると良いのだが……。
____________________
5日まで修正状況を見つつですが、12時にも公開します。
※目指せ、毎日!
父にメールを送った。
『神凪清暙と名乗る教諭が学園に赴任しました』
メール送信後、すぐ電話が鳴った。
「彼は?」
「発情期中のため、まだ自宅です」
「そうか…」
電話の向こうでため息が聞こえた。
息子の前でも隙を見せない父が、電話越しとはいえため息を溢すのは珍しかった。
「あの…」
「発情期中ならば、あの男がすぐ動くことはない」
「そう、ですか?」
父が言うなら間違いない筈なのに、どこか納得できない。
「佳都、もうすぐ入試だ。あれこれ考えるのは試験が終わってからにしなさい」
「……はい」
こんなに不安になるのは、父以外、誰にも相談できないからだ。
いっそ皇貴にだけ話してしまいたい。
話せば皇貴は全力で彼を守るだろう。
試験すら蹴ってでも。
それは、皇貴の将来に何らかの汚点をつけるだろう。
それにより、当事者である彼が一番苦しむだろう。
「佳都」
「はい」
「絶対大丈夫だ。だから、まず目の前の問題をクリアしなさい」
力強い言葉が耳に届いた。
「はい。わかりました」
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
試験当日。
志望の大学、学科が同じ皇貴と一緒に試験会場へ向かった。
隣を気怠そうに歩く皇貴はいつも通りで、試験も彼の実力なら問題はないだろう。
自分もいつも通りに受ければ問題ないはず。
試験の全日程が終わった帰り道。
「なあ、佳都」
「なんですか」
「なんか、俺に隠してるだろ」
「っ……」
皇貴から不意打ちに、言葉を失い俯いてしまう。
皇貴との付き合いも6年近くなるが、相変わらず考えていることがわからないことの方が多い。
今も、何も考えていないようで、自分の様子がおかしいことに気が付いていた。
口調からして、隠し事が何なのかもある程度気付いているだろう。
「無理矢理口を割らせる気はない。佳都が話して良いって時にちゃんと教えろよな」
コツンと肩に拳が当たって、顔を上げるとニヤリと笑う皇貴の目と合った。
その金色の瞳は自信に溢れていて、思わずフッと笑ってしまった。
「はい。必ず貴方に話します。だから、もう少しだけ待って下さい」
「ああ……なあ、腹減ったな。なんか食っていかね?」
「いいですね。コーヒーが美味しいカフェがあるのでそこに行きましょう」
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
そこは、父から教えてもらったオフィス街にあるカフェだ。
コーヒーの味はもちろん気になるところだが、今回はそれだけではない。
先月、結季と瑠可が此処から駅に向かう途中に数名の男に襲われたと父が教えてくれたので、どのような場所か自分の目で見てみたいと思っていたからだ。
ドアを開けるとカランと心地よい音がした。
その音に気づいた店員がすぐ出迎えてくれた。
人当たりは良さそうだが、少し違う雰囲気を感じる店員だ。
「店内のご利用ですか?」
「はい」
案内された席は、ガヤガヤと騒がしいエリアではなく、少し離れた静かなテーブル席だった。
「ウチの店はじめて?」
「あ、はい」
「ウチ、コーヒーが美味いけどケーキも美味いから、脳休めに食べていくといいよ」
気が利く店員のようだ。
注文から数分後、店員のオススメのケーキとコーヒーが届いた。
席の位置のおかげか、視線は感じるが声を掛けてくる人はおらず、2人でその味を楽しむ。
「これ、あいつ好きそうだな」
あいつとは彼のことだろう。
「彼はこの店知ってますよ」
「えっ……」
「その後、駅に向かう途中で数人の男に絡まれたようですよ」
「なっ……ゲホッゲホ」
気管に入って咽せる背中を摩る。
伝えるタイミングを間違えたのだろうか?
まあいいか。
結果、無事だったから。
「偶然近くを通りかかった父が対処したので大丈夫ですよ」
「そう、か…」
眉間に皺を寄せて何かを考える皇貴に、口が開く。
「貴方は彼をどう思ってるのですか?」
「……何だよ急に」
「いえ、ずっと気になっていたんですよ。彼に会ってから貴方はだいぶ変わりました。色々な意味で、いい方向に」
「………」
言葉に詰まり気不味そうに私から目を逸らすから、クスリと笑ってしまった。
フォークで無意味にケーキを刺す皇貴を見ながら話を続ける。
「私は貴方が彼を気にかけるのはとても良いことだと思っています。あと少しで私たちは卒業ですが、貴方は彼とどうなりたいと考えているのですか?」
「……わからねぇ」
それっきり、皇貴は口を開かなかった。
中学で皇貴と親しくなった頃、「会いたい人がいる」と零したことがあった。
確か子供の頃、父親の実家について行った時に会った女の子だと言っていた。
それ以上は話してくれなかったが、たぶん初恋の子なのだろう。
その子への気持ちに区切りをつけない限り、今の気持ちに真正面から向き合えないのだろう。
ついこの前まで下半身の節操がない男とは思えないほどの律儀さだ。
私の考えが合っているのなら、皇貴の愁はすぐ晴れるだろう。
だが、それではダメな気がする。
もう少しだけ、様子を見よう。
早く気づいてくれると良いのだが……。
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5日まで修正状況を見つつですが、12時にも公開します。
※目指せ、毎日!
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