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本編
2月 ①
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準備室の掃除以降、オレはできるだけ神凪先生に関わらないように気配を殺していたが、あれから授業以外で先生と関わることはなかった。
とはいえ、毎日警戒しているから、日に日に神経がすり減ってる。
早く副担任、帰ってきてくれー!
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
2月になると、疲弊するオレの目の前で皆、毎日ソワソワしてる。
なんだ抜き打ちテストでもあるのか?
なんて思っていたのだけど、そうではなかった。
「結季くん、週末買い物に行こ!」
「いいけど、なんで?」
「それは決まっているでしょ!2月はクリスマスに次ぐビッグイベント、バレンタインデーじゃない!」
え?
ウチ、男子校だよね?
バレンタイン関係なくね?
そんなオレの心の声が瑠可に届いたのか、元々、前のめり気味が更に前のめるから、オレの身体は海老反りになった。
「何言ってんの!ウチの学園のバレンタインはオメガからチョコあげるに決まってるでしょ!」
「そ、そうなの?」
「そうだよ!だから週末出かけるよ!」
「はひ」
押し切られた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
週明け。
オレは更に疲弊した。
バレンタインって戦場なんだな。
バレンタインの特設会場の一部はさながら女の戦場だった。
瑠可は果敢に挑んで、見事目当てのチョコをゲットして、オレは思わず賞賛の拍手を送った。
オレは空いているエリアで、お手頃なチョコをいくつか買った。
その一つは自分用だ。
バレンタイン当日は週明けだったが、木曜日にチョコを持ち込んで瑠可と一緒にクラスメイトと担任に配ったら喜ばれた。
HR終了の鐘と共に、気合を入れた瑠可が教室を飛び出した。
そういえば、今日は瑠可の誕生日で皇貴先輩に告白するって言ってた。
以前「16歳以上じゃないと抱いてもらえない」って言ってた。
瑠可は皇貴先輩の番になることを夢見ていて、今日の誕生日をずっと心待ちにしていた。
瑠可は可愛いから、もしかしたら今日夢が叶うかもしれない。
そんなことを考えていたら、胃がズシンと重くなった。
冗談でオレにしていることをこれからは瑠可だけにするって想像したら鼻の奥がツーンした。
何だ、この気持ちは?
鞄に荷物を入れてると、中にある箱に手が当たった。
掴むとそれは綺麗に包装されたチョコレートだった。
「何持ってきてんだよ、オレ…」
鞄にチョコレートを突っ込んで、肩にかけると教室を出た。
「如月くん?……如月くん、そのまま行くと柱にぶつかりますよ」
「えっ?わぁっ」
大きな手で視界を塞がれて慌てた。
オレが止まるとすぐ手は離れ、見上げると見知った人がいた。
「あ、生徒会長」
「もう生徒会長ではありません」
「あ、望月先輩ですね」
「はい。どうかしました?ぼぅっと歩いていましたが」
望月先輩が心配そうにオレの顔を覗き込む。
「あ、の…。少し考え事をしてて…」
「少し顔色が悪いようですが、何かあるのでしたら話を聞きますよ」
「え、あ、だ、大丈夫です」
眼鏡の奥から射抜くような視線に耐えきれず目を逸らす。
こんなぐちゃぐちゃな気持ちは言えない。
「何かありましたらすぐ話して下さい」
「ありがとうございます。あ、そうだ…あの、これ…」
バッグの中からさっきのチョコレートを取り出して、望月先輩に差し出す。
「え?」
「色々、お世話になったので感謝の気持ちです」
「私に?」
コクン頷くが、なかなか受け取ってくれない。
見上げると視線が合い、微笑まれた。
「これは私に用意したものじゃないでしょう?ちゃんと本人に渡すべきだよ」
そう言う望月先輩に押し返されてしまった。
「でも…オレ、自分の気持ちよくわからなくて…こんな気持ちのまま渡せない」
込み上げる涙を見られたくなくて俯くオレの頭にポンと手が乗りサワサワと撫でられる。
「いいんですよ。今のその気持ちをそのまま伝えて渡しなさい」
「で、でもっ、ぶっ」
見上げると目元をハンカチで押さえられた。
「もし、受け取ってもらえなかったら、その時は私が貰いますよ」
クスクスと笑いながら、オレの涙を拭き取ってくれた。
望月先輩に背を押され、オレはスマホを取り出し先輩の番号を呼び出しながら昇降口を出て行った。
寮を隔てる柵に到着すると、少しして皇貴先輩は来た。
「どうした?なんか目赤いな。泣いたのか?」
「えぇっと、何でもないです。それよりこれ」
柵の隙間から綺麗に包装された箱を差し出す。
「これって…」
「ば、バレンタインなのでお世話になっている皇貴先輩に…って…」
「それだけ?」
「それだけって…?」
先輩はチョコ毎オレの手を掴んで「それだけ?」ともう一度聞いてきた。
「わ、分かりません。今、オレの頭ん中ぐちゃぐちゃで全然整理できなくて……なんて言ったら正解か本当にわからなくて…」
言っていたらまた鼻の奥がツンときて、視界がぼやけて先輩の顔がよく見えなくなった。
大きい手がオレの頬を撫でて涙を拭った。
「ん。わかった。チョコありがとな」
先輩は優しく微笑んでくれた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
ふわふわしたまま寮に帰ると、寮監が焦った様子でオレに掴みかかってきた。
「瑠可くんは?深月瑠可くんと一緒じゃないの?」
「え、瑠可、どうしたんですか?」
「いないんだ。学園の外に出て行ったのを見たって言う子がいてーー。瑠可くん、発情期近いのに…」
今まで見たこともないくらい寮監が取り乱していた。
____________________
2022年の設定で進めると、2/11は建国記念日(祝日)だったので、金曜日→木曜日に変更しました。
とはいえ、毎日警戒しているから、日に日に神経がすり減ってる。
早く副担任、帰ってきてくれー!
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
2月になると、疲弊するオレの目の前で皆、毎日ソワソワしてる。
なんだ抜き打ちテストでもあるのか?
なんて思っていたのだけど、そうではなかった。
「結季くん、週末買い物に行こ!」
「いいけど、なんで?」
「それは決まっているでしょ!2月はクリスマスに次ぐビッグイベント、バレンタインデーじゃない!」
え?
ウチ、男子校だよね?
バレンタイン関係なくね?
そんなオレの心の声が瑠可に届いたのか、元々、前のめり気味が更に前のめるから、オレの身体は海老反りになった。
「何言ってんの!ウチの学園のバレンタインはオメガからチョコあげるに決まってるでしょ!」
「そ、そうなの?」
「そうだよ!だから週末出かけるよ!」
「はひ」
押し切られた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
週明け。
オレは更に疲弊した。
バレンタインって戦場なんだな。
バレンタインの特設会場の一部はさながら女の戦場だった。
瑠可は果敢に挑んで、見事目当てのチョコをゲットして、オレは思わず賞賛の拍手を送った。
オレは空いているエリアで、お手頃なチョコをいくつか買った。
その一つは自分用だ。
バレンタイン当日は週明けだったが、木曜日にチョコを持ち込んで瑠可と一緒にクラスメイトと担任に配ったら喜ばれた。
HR終了の鐘と共に、気合を入れた瑠可が教室を飛び出した。
そういえば、今日は瑠可の誕生日で皇貴先輩に告白するって言ってた。
以前「16歳以上じゃないと抱いてもらえない」って言ってた。
瑠可は皇貴先輩の番になることを夢見ていて、今日の誕生日をずっと心待ちにしていた。
瑠可は可愛いから、もしかしたら今日夢が叶うかもしれない。
そんなことを考えていたら、胃がズシンと重くなった。
冗談でオレにしていることをこれからは瑠可だけにするって想像したら鼻の奥がツーンした。
何だ、この気持ちは?
鞄に荷物を入れてると、中にある箱に手が当たった。
掴むとそれは綺麗に包装されたチョコレートだった。
「何持ってきてんだよ、オレ…」
鞄にチョコレートを突っ込んで、肩にかけると教室を出た。
「如月くん?……如月くん、そのまま行くと柱にぶつかりますよ」
「えっ?わぁっ」
大きな手で視界を塞がれて慌てた。
オレが止まるとすぐ手は離れ、見上げると見知った人がいた。
「あ、生徒会長」
「もう生徒会長ではありません」
「あ、望月先輩ですね」
「はい。どうかしました?ぼぅっと歩いていましたが」
望月先輩が心配そうにオレの顔を覗き込む。
「あ、の…。少し考え事をしてて…」
「少し顔色が悪いようですが、何かあるのでしたら話を聞きますよ」
「え、あ、だ、大丈夫です」
眼鏡の奥から射抜くような視線に耐えきれず目を逸らす。
こんなぐちゃぐちゃな気持ちは言えない。
「何かありましたらすぐ話して下さい」
「ありがとうございます。あ、そうだ…あの、これ…」
バッグの中からさっきのチョコレートを取り出して、望月先輩に差し出す。
「え?」
「色々、お世話になったので感謝の気持ちです」
「私に?」
コクン頷くが、なかなか受け取ってくれない。
見上げると視線が合い、微笑まれた。
「これは私に用意したものじゃないでしょう?ちゃんと本人に渡すべきだよ」
そう言う望月先輩に押し返されてしまった。
「でも…オレ、自分の気持ちよくわからなくて…こんな気持ちのまま渡せない」
込み上げる涙を見られたくなくて俯くオレの頭にポンと手が乗りサワサワと撫でられる。
「いいんですよ。今のその気持ちをそのまま伝えて渡しなさい」
「で、でもっ、ぶっ」
見上げると目元をハンカチで押さえられた。
「もし、受け取ってもらえなかったら、その時は私が貰いますよ」
クスクスと笑いながら、オレの涙を拭き取ってくれた。
望月先輩に背を押され、オレはスマホを取り出し先輩の番号を呼び出しながら昇降口を出て行った。
寮を隔てる柵に到着すると、少しして皇貴先輩は来た。
「どうした?なんか目赤いな。泣いたのか?」
「えぇっと、何でもないです。それよりこれ」
柵の隙間から綺麗に包装された箱を差し出す。
「これって…」
「ば、バレンタインなのでお世話になっている皇貴先輩に…って…」
「それだけ?」
「それだけって…?」
先輩はチョコ毎オレの手を掴んで「それだけ?」ともう一度聞いてきた。
「わ、分かりません。今、オレの頭ん中ぐちゃぐちゃで全然整理できなくて……なんて言ったら正解か本当にわからなくて…」
言っていたらまた鼻の奥がツンときて、視界がぼやけて先輩の顔がよく見えなくなった。
大きい手がオレの頬を撫でて涙を拭った。
「ん。わかった。チョコありがとな」
先輩は優しく微笑んでくれた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
ふわふわしたまま寮に帰ると、寮監が焦った様子でオレに掴みかかってきた。
「瑠可くんは?深月瑠可くんと一緒じゃないの?」
「え、瑠可、どうしたんですか?」
「いないんだ。学園の外に出て行ったのを見たって言う子がいてーー。瑠可くん、発情期近いのに…」
今まで見たこともないくらい寮監が取り乱していた。
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2022年の設定で進めると、2/11は建国記念日(祝日)だったので、金曜日→木曜日に変更しました。
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