金の野獣と薔薇の番

むー

文字の大きさ
67 / 78
番外編 瑠可/楓

番外編 kaede-7

しおりを挟む
振り返った男の腕の中には、頬を真っ赤にした瑠可がいた。
よく見ると口の端が切れて血が出ていた。

息が整わないまま、瑠可と男に近づく。

「あれ、面接はもう終わったのかい?」
「はっ、はあっ、んなわけねぇよ」
「だよね。ごめんね」

胡散臭い笑みを浮かべる男は篠崎で間違いないが、以前見かけた時と表情が違っていた。
俺は汗を拭いながら近づいた。

「おっさん、瑠可を離せよ」
「何故?瑠可はこれから僕の番になるんだよ」

浮かべた笑みを一切崩さない篠崎に、瑠可は怯え震えていた。
俺は怒りを落ち着かせるため、ため息を大きく一つ吐く。

「それは瑠可が決めたことなのか?」

俺の問いに、篠崎は言われた意味がわからないと言わんばかりの顔で首を傾げる。

「決める?決めるのはアルファである僕だよ。子供アルファを産むしか能力がないオメガに相手を決める権利はないよ。君も同じアルファなら分かるだろう?」

楽しそうに抱き上げている瑠可の首筋をネックプロテクターの上から撫でると、瑠可は「ヒッ」と小さな声を上げた。
胸糞悪い事ばかり言う篠崎に、俺の怒りと不快感は最高潮になったが、逆に冷静になった。
篠崎にとってアルファの自分が番として選んだ瑠可オメガが他の人間を選ぶことは許されない。だから、頬が腫れるほど殴っても許されるのだ。
オメガに人権はないと。
ここまでのクズは初めて見た。

「はぁ?生憎、うちの一族のトップはオメガなんで、あんたの言うことはさっぱりわかんねぇな。あと、オメガを差別して貶める発言はうちの一族に喧嘩売ったっておっさんわかってる?」

皮肉混じりに言うと、篠崎はすぐ何かに気が付いたようだ。

「オメガの一族?……え、まさか」

篠崎の笑みは崩れた。
それなりに俺のことは調べたが、父方の実家については調べてなかったようだ。
まあ、一族とは関係ない会社に勤めているからな。
篠崎は動揺のあまり落とした瑠可の元に駆け寄って抱き起こした。

「瑠可っ…大丈夫か?」
「う、うん」

涙が滲ませホッとした顔を浮かべて俺を見上げた。
2歩、3歩と後退る篠崎に話を続ける。

「ああ、俺も調べたんだけど、おっさんの会社ってウチのばーさまの会社と取り引きしてんだな。社員がオメガを差別してるって知ったら、確実に契約切られるなぁ」

冷静さをなくした篠崎の顔は青くなっていく。

「脅しか?社会にも出てない子供の戯言を聞いて契約を切ったら会社の評判が落ちるだろうね。第一証拠がない」

減らず口の減らない篠崎は落ち着きを取り戻し、醜い笑みをこっちに向けた。
あー胸糞悪い。
本当、いい歳して自分の置かれて状況を理解できないとは。
俺は鼻から大きく空気を吸い込む。

「おっさんの番って4人?」
「な、何を…」
「フェロモンの匂いを例えるとリンゴ、桃、キウイ、ココナッツって辺りだろ?番でミックスジュース作ってんのか?糞だな」
「ーーっ!」

すれ違った時、纏っていた複数のオメガのフェロモンが今日も着いていた。
今日はあの時よりも濃いめに感じるから、朝まで一緒だったのだろう。
この濃さから、何人かは番いなのかもしれない。
動揺させるには十分だとカマをかけた。
まさか全部だったとは…。
本当に糞野郎だな。
篠崎からは完全に笑みが消え、顔色は真っ青なった。

「なんで判るのかって?特別に教えてやるよウチはそういう一族なんだよ。フェロモンの匂いで相手のことがある程度判るんだよ。信用できるかどうかもな」
「ひっ、ば、化け物っ」
「化け物結構。大事なもん守れんならバケモンになってやるよ」

尻餅をついて怯える篠崎にニヤリと笑って見せた。
ここまで篠崎のメンタルをゴリゴリに削ったら、もう反撃はできないだろう。
俺は、何が起きているかわからずキョトンとしている瑠可の顔を見る。

「なあ、瑠可」
「え…」
「お前はどっちを選ぶ?それともどっちも選ばない?」

そこのクズか?
化け物の俺か?
それ以外か…?

ほんの少しだけ、化け物の俺を選んで欲しいと願った。

「そんなの…楓がいいに決まってる。楓じゃなきゃヤダ!」

俺のジャケットを掴んだ瑠可は、迷うことなく叫んだ。

『楓兄がいい』

じゃなくて

『楓がいい』

その嬉しい言葉に笑みが溢れた。

____________________

5/21 13:45
一部修正しました。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

「呪いを解くには毎日可愛いと言ってください」と嘘をついたら、氷の聖騎士様が本気で口説きにかかってきました

たら昆布
BL
間違って呪われた青年と呪いを解除したい騎士の話 番外編はその友達たちの話

あなたの家族にしてください

秋月真鳥
BL
 ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。  情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。  闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。  そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。  サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。  対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。  それなのに、なぜ。  番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。  一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。  ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。  すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。 ※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。 11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

処理中です...