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番外編 瑠可/楓
番外編 kaede-7
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振り返った男の腕の中には、頬を真っ赤にした瑠可がいた。
よく見ると口の端が切れて血が出ていた。
息が整わないまま、瑠可と男に近づく。
「あれ、面接はもう終わったのかい?」
「はっ、はあっ、んなわけねぇよ」
「だよね。ごめんね」
胡散臭い笑みを浮かべる男は篠崎で間違いないが、以前見かけた時と表情が違っていた。
俺は汗を拭いながら近づいた。
「おっさん、瑠可を離せよ」
「何故?瑠可はこれから僕の番になるんだよ」
浮かべた笑みを一切崩さない篠崎に、瑠可は怯え震えていた。
俺は怒りを落ち着かせるため、ため息を大きく一つ吐く。
「それは瑠可が決めたことなのか?」
俺の問いに、篠崎は言われた意味がわからないと言わんばかりの顔で首を傾げる。
「決める?決めるのはアルファである僕だよ。子供を産むしか能力がないオメガに相手を決める権利はないよ。君も同じアルファなら分かるだろう?」
楽しそうに抱き上げている瑠可の首筋をネックプロテクターの上から撫でると、瑠可は「ヒッ」と小さな声を上げた。
胸糞悪い事ばかり言う篠崎に、俺の怒りと不快感は最高潮になったが、逆に冷静になった。
篠崎にとってアルファの自分が番として選んだ瑠可が他の人間を選ぶことは許されない。だから、頬が腫れるほど殴っても許されるのだ。
オメガに人権はないと。
ここまでのクズは初めて見た。
「はぁ?生憎、うちの一族のトップはオメガなんで、あんたの言うことはさっぱりわかんねぇな。あと、オメガを差別して貶める発言はうちの一族に喧嘩売ったっておっさんわかってる?」
皮肉混じりに言うと、篠崎はすぐ何かに気が付いたようだ。
「オメガの一族?……え、まさか」
篠崎の笑みは崩れた。
それなりに俺のことは調べたが、父方の実家については調べてなかったようだ。
まあ、一族とは関係ない会社に勤めているからな。
篠崎は動揺のあまり落とした瑠可の元に駆け寄って抱き起こした。
「瑠可っ…大丈夫か?」
「う、うん」
涙が滲ませホッとした顔を浮かべて俺を見上げた。
2歩、3歩と後退る篠崎に話を続ける。
「ああ、俺も調べたんだけど、おっさんの会社ってウチのばーさまの会社と取り引きしてんだな。社員がオメガを差別してるって知ったら、確実に契約切られるなぁ」
冷静さをなくした篠崎の顔は青くなっていく。
「脅しか?社会にも出てない子供の戯言を聞いて契約を切ったら会社の評判が落ちるだろうね。第一証拠がない」
減らず口の減らない篠崎は落ち着きを取り戻し、醜い笑みをこっちに向けた。
あー胸糞悪い。
本当、いい歳して自分の置かれて状況を理解できないとは。
俺は鼻から大きく空気を吸い込む。
「おっさんの番って4人?」
「な、何を…」
「フェロモンの匂いを例えるとリンゴ、桃、キウイ、ココナッツって辺りだろ?番でミックスジュース作ってんのか?糞だな」
「ーーっ!」
すれ違った時、纏っていた複数のオメガのフェロモンが今日も着いていた。
今日はあの時よりも濃いめに感じるから、朝まで一緒だったのだろう。
この濃さから、何人かは番いなのかもしれない。
動揺させるには十分だとカマをかけた。
まさか全部だったとは…。
本当に糞野郎だな。
篠崎からは完全に笑みが消え、顔色は真っ青なった。
「なんで判るのかって?特別に教えてやるよウチはそういう一族なんだよ。フェロモンの匂いで相手のことがある程度判るんだよ。信用できるかどうかもな」
「ひっ、ば、化け物っ」
「化け物結構。大事なもん守れんならバケモンになってやるよ」
尻餅をついて怯える篠崎にニヤリと笑って見せた。
ここまで篠崎のメンタルをゴリゴリに削ったら、もう反撃はできないだろう。
俺は、何が起きているかわからずキョトンとしている瑠可の顔を見る。
「なあ、瑠可」
「え…」
「お前はどっちを選ぶ?それともどっちも選ばない?」
そこのクズか?
化け物の俺か?
それ以外か…?
ほんの少しだけ、化け物の俺を選んで欲しいと願った。
「そんなの…楓がいいに決まってる。楓じゃなきゃヤダ!」
俺のジャケットを掴んだ瑠可は、迷うことなく叫んだ。
『楓兄がいい』
じゃなくて
『楓がいい』
その嬉しい言葉に笑みが溢れた。
____________________
5/21 13:45
一部修正しました。
よく見ると口の端が切れて血が出ていた。
息が整わないまま、瑠可と男に近づく。
「あれ、面接はもう終わったのかい?」
「はっ、はあっ、んなわけねぇよ」
「だよね。ごめんね」
胡散臭い笑みを浮かべる男は篠崎で間違いないが、以前見かけた時と表情が違っていた。
俺は汗を拭いながら近づいた。
「おっさん、瑠可を離せよ」
「何故?瑠可はこれから僕の番になるんだよ」
浮かべた笑みを一切崩さない篠崎に、瑠可は怯え震えていた。
俺は怒りを落ち着かせるため、ため息を大きく一つ吐く。
「それは瑠可が決めたことなのか?」
俺の問いに、篠崎は言われた意味がわからないと言わんばかりの顔で首を傾げる。
「決める?決めるのはアルファである僕だよ。子供を産むしか能力がないオメガに相手を決める権利はないよ。君も同じアルファなら分かるだろう?」
楽しそうに抱き上げている瑠可の首筋をネックプロテクターの上から撫でると、瑠可は「ヒッ」と小さな声を上げた。
胸糞悪い事ばかり言う篠崎に、俺の怒りと不快感は最高潮になったが、逆に冷静になった。
篠崎にとってアルファの自分が番として選んだ瑠可が他の人間を選ぶことは許されない。だから、頬が腫れるほど殴っても許されるのだ。
オメガに人権はないと。
ここまでのクズは初めて見た。
「はぁ?生憎、うちの一族のトップはオメガなんで、あんたの言うことはさっぱりわかんねぇな。あと、オメガを差別して貶める発言はうちの一族に喧嘩売ったっておっさんわかってる?」
皮肉混じりに言うと、篠崎はすぐ何かに気が付いたようだ。
「オメガの一族?……え、まさか」
篠崎の笑みは崩れた。
それなりに俺のことは調べたが、父方の実家については調べてなかったようだ。
まあ、一族とは関係ない会社に勤めているからな。
篠崎は動揺のあまり落とした瑠可の元に駆け寄って抱き起こした。
「瑠可っ…大丈夫か?」
「う、うん」
涙が滲ませホッとした顔を浮かべて俺を見上げた。
2歩、3歩と後退る篠崎に話を続ける。
「ああ、俺も調べたんだけど、おっさんの会社ってウチのばーさまの会社と取り引きしてんだな。社員がオメガを差別してるって知ったら、確実に契約切られるなぁ」
冷静さをなくした篠崎の顔は青くなっていく。
「脅しか?社会にも出てない子供の戯言を聞いて契約を切ったら会社の評判が落ちるだろうね。第一証拠がない」
減らず口の減らない篠崎は落ち着きを取り戻し、醜い笑みをこっちに向けた。
あー胸糞悪い。
本当、いい歳して自分の置かれて状況を理解できないとは。
俺は鼻から大きく空気を吸い込む。
「おっさんの番って4人?」
「な、何を…」
「フェロモンの匂いを例えるとリンゴ、桃、キウイ、ココナッツって辺りだろ?番でミックスジュース作ってんのか?糞だな」
「ーーっ!」
すれ違った時、纏っていた複数のオメガのフェロモンが今日も着いていた。
今日はあの時よりも濃いめに感じるから、朝まで一緒だったのだろう。
この濃さから、何人かは番いなのかもしれない。
動揺させるには十分だとカマをかけた。
まさか全部だったとは…。
本当に糞野郎だな。
篠崎からは完全に笑みが消え、顔色は真っ青なった。
「なんで判るのかって?特別に教えてやるよウチはそういう一族なんだよ。フェロモンの匂いで相手のことがある程度判るんだよ。信用できるかどうかもな」
「ひっ、ば、化け物っ」
「化け物結構。大事なもん守れんならバケモンになってやるよ」
尻餅をついて怯える篠崎にニヤリと笑って見せた。
ここまで篠崎のメンタルをゴリゴリに削ったら、もう反撃はできないだろう。
俺は、何が起きているかわからずキョトンとしている瑠可の顔を見る。
「なあ、瑠可」
「え…」
「お前はどっちを選ぶ?それともどっちも選ばない?」
そこのクズか?
化け物の俺か?
それ以外か…?
ほんの少しだけ、化け物の俺を選んで欲しいと願った。
「そんなの…楓がいいに決まってる。楓じゃなきゃヤダ!」
俺のジャケットを掴んだ瑠可は、迷うことなく叫んだ。
『楓兄がいい』
じゃなくて
『楓がいい』
その嬉しい言葉に笑みが溢れた。
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一部修正しました。
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