金の野獣と薔薇の番

むー

文字の大きさ
72 / 78
番外編 瑠可/楓

番外編【後日談】 瑠可のおうちの話 前編

しおりを挟む
楓の番になると決心した日。

「番になる前に、瑠可の家族に挨拶行っていいか?」

楓が言った。
なんか結婚の挨拶みたい!

ボクは浮かれて、帰宅後すぐ実家に電話した。

『はい、深月です』
「…あ…お義母さん。ボク、瑠可です」
『…何ですか?』

家ではほとんど話したことがないお義母さんの声に、ボクは一気に緊張した。

「…あ、あの…」
『………』

顔が見えないこの沈黙が怖いけど、拳を握って声を振り絞る。

「あ、あのっ…会って欲しい人が居るんだ。お父さんとお義母さんと…お兄ちゃんも居る日に」
『……それは、番予定の相手なの?』
「うん」

耳に響く冷たいお義母さんの声に、震える声で返事をすると、はぁーと大きなため息が聞こえた。

『電話で話すことではないけど、あなたの結婚相手はお父さんが決めるから、番を作ることは認められないわ。その人も連れてこないでちょうだい』
「ぇ…。そ、そんな話聞いてない!」
『お父さんが決めることをあなたに話す必要がある?……じゃあ、切るわよ』

電話を切られた。
涙が出そうになって必死に堪えて、楓に『忙しくて時間が取れないって』とメッセージを送った。
すぐに楓から電話が来た。

「も、もしもし」
「瑠可…大丈夫か?」
「……っ、か、かえでぇ…」

堪えていた涙は楓の声で簡単に流れた。

「まあ、簡単にいくとは思ってなかったし気にするな」
「で、でも…」
「俺から連絡するよ」
「だっ、ダメっ!もう一度ボクから連絡するから、待って」

そう言って電話を切った。


とはいえ、完全門前払いのお義母さんを頑張って説得できても、お父さんまでいくのは難しい。
そもそも、お義母さんの攻略すらできないかも…。
考えれば考えるほど弱気になる。

頭を抱えていると、また電話が鳴った。
スマホの画面を見ると実家からだった。

「…も、もしもし…」
『瑠可?』
「えっ…お兄、ちゃん?』
『ああ』

受話器からは久しぶりに聞く兄の声だった。
最後に口を交わしたのは、中3の夏休みのあの時だ。

「ど、どうしたの?」
『お前、僕たち家族に紹介したい人がいるんだろ』
「なんで…」
『さっき、母さんから聞いた。……瑠可、2週間後の日曜日、その人を家に連れて来れるか?』

2週間後は、確か楓とデートの予定だ。
水族館に行く計画をしている。

「たぶん、大丈夫だと思う。会う予定だったから」
『一応確認して、分かったら家電じゃなく僕の携帯の方に連絡して』
「う、うん」
『じゃあ』

そう言ってお兄ちゃんは電話を切った。
えっ?
どういうこと?


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

2週間後。

楓と一緒にボクの実家に着いた。
約束は14時だ。

「瑠可、緊張してる?」
「き、緊張……するに決まってるでしょ…」

緊張のあまりカタカタ震える手を楓に見せると、楓はぷっと笑ってその手を握ってくれた。
その手はボクよりちょっとだけ冷たくて、楓も緊張しているんだって分かった。
それだけでボクの震えは治った。

「じゃあ、行くぞ」
「うん!」

呼び鈴を押した。


我が家の応接室のソファーにボクと楓、向かいのソファーにはボクの両親、横の1人掛けにはお兄ちゃんが座った。
お父さんは不機嫌丸出しの渋い顔で、お義母さんとお兄ちゃんは無表情だ。

「初めまして、如月楓と申します。瑠可くんと交際させていただいています」

凍りつくような空気を破るように楓が口を開いた。

「今回、ご挨拶させていただいたのは」
「楓くんと言ったかな。瑠可には然るべき相手と卒業後に籍を入れ番になる予定ですので、申し訳ないが今すぐ別れていただきたい」
「なっ、お父さんっ」

不躾なお父さんの話に抗議しようとしたボクの手を楓が握り引き止めた。
その目は「大丈夫だ」と言っていた。

「君はまだ若いし、見目も良い。これからもっと良い出会いがあるのだから、瑠可に拘る必要はないだろう。それに瑠可はオメガだ。親として、より良い相手と番って幸せになって欲しいんですよ。君には理解できないかもしれないだろうけど」

一方的なお父さんの言葉はボクの気持ちを無視したもので、ボクの心を抉るものだった。
横目で楓を見ると、眉がピクピクと動いていて、握る手が少し強くて怒っているのが分かった。

「確かに俺はアルファで、まだ学生です。瑠可を支えられる力はまだありませんが、一生をかけて守る覚悟はあります」
「楓…」

かっこよくて泣きそうになる、
もうこれってプロポーズだよね。

「ダメなものはダメだ。私は忙しいから話はこれで終いだ。おい、帰って頂きなさい」
「お父さんっ」

お義母さんは無表情が崩れて少し困惑した顔をしていたけど、お父さんに逆らえずに立ち上がろうとした。

「あ…」
「いい加減にしろよ」

楓の言葉を遮ったのはお兄ちゃんだった。
これには全員が驚いて一斉にお兄ちゃんを見た。

「しゅ、愁、どうしたの?」

お義母さんは困惑した顔でお兄ちゃんに声を掛けた。

「どうしたもこうしたもない。…何が親としてだよ。父さんは子供のことを母さんに押しつけて何もしてないじゃないか。そうやって父さんはどれだけ母さんを傷つけているか分かってないだろ。そのせいで瑠可も」
「やめなさい」

パシッ

お義母さんがお兄ちゃんを叩いた。
その目には涙が溢れていた。

「やめないよ。だって、母さん、瑠可のこと嫌いじゃないでしょ?」
「……えっ……」

お兄ちゃんの言葉にボクは声を失った。
お母さんはボクのこと嫌いじゃないの?
思わず楓の方を向くと、楓は微笑みながら頷いた。

「父さんが…父さんが他所で女作って母さんを蔑ろにしたから、…瑠可を引き取った後も黙って押し付けたから、母さんはこんなにも苦しんだんじゃないかっ。それに、母さん。瑠可を寮があるあの学園に入れたのは、本当は瑠可を守るためだろ」
「……お願い…もう、やめて」

お義母さんはソファーに崩れ落ちる様に座り込み、顔を手で覆って静かに泣いた。


____________________

後半は0時更新予定です。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

あなたの家族にしてください

秋月真鳥
BL
 ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。  情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。  闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。  そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。  サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。  対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。  それなのに、なぜ。  番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。  一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。  ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。  すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。 ※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

「呪いを解くには毎日可愛いと言ってください」と嘘をついたら、氷の聖騎士様が本気で口説きにかかってきました

たら昆布
BL
間違って呪われた青年と呪いを解除したい騎士の話 番外編はその友達たちの話

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。

下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。 文章がおかしな所があったので修正しました。 大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。 ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。 理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、 「必ず僕の国を滅ぼして」 それだけ言い、去っていった。 社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。

処理中です...