魔法使いと眠れるオメガ

むー

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【番外編】しまのゆめ

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『ぼくのゆめ』

たちばな しま

ぼくのゆめはおかあさんのようなおかあさんになることです。
ぼくのおかあさんはかわいくてやさしくてりょうりがじょうずで、おとうさんもかずしもぼくもおかあさんのこともおかあさんのつくるごはんもだいすきです。
だから、おとなになったらおかあさんみたいなやさしくてりょうりがじょうずなひとになって、うんめいのつがいのひととけっこんします。
そして、だんなさまやこどもにごはんをたくさんつくってあげたいです。

あと、けっこんしきはおかあさんがきたふくをきたいです。
ゆうめいなデザイナーさんがおかあさんのためにつくってくれたふくはすごくきれいで、それをきたおかあさんもすごくきれいだったからです。
だから、しまははやくおとなになりたいです。


☆★☆★☆

「紫真、作文できた?」
「できた!」
「じゃあ、おやつにしようね」
「おやつー!」

お母さんに抱きつくとお菓子の甘い香りがして、抱きしめてくれる手は暖かい。

「今日はクッキーを焼いたよ」
「お母さんのクッキー大好き!ねぇ、一紫は?」
「今お昼寝中だからちょっとだけ静かに食べようね」
「うん!」

口の中でホロホロと崩れるクッキーをモグモグして温かい牛乳と一緒にゴックンすると幸せな気持ちになる。
いろんな形のクッキーを一個一個選んでお母さんとおしゃべりして食べるともっと楽しい。
一紫はバクバクたくさん食べちゃうから、たまに今日みたいにゆっくり食べれると嬉しくなる。

「ねぇ、紫真の作文読んでもいい?」
「っ!ダメっ!」

テーブルの上置いた半分に折った紙をお母さんが手を伸ばして取ろうとしたから、バッと取って後ろに隠す。

「えー」
「ダメったらダメぇ」

お母さんが残念そうな顔をするけどダメだもん。

「これは今度の参観日に読むやつだから、お母さんまだ読んじゃダメなの」
「参観日?」
「うん!お父さんとお母さんの前で読むんだ。だから今はダメなの」
「そっかぁ。それなら読んだらダメだね。ごめんね」

お母さんはそう言って僕の頭を撫でてくれる。

「……お父さんも、来てくれるかな?」
「お仕事早く終わらせて来るって言ってたよ。お父さん、紫真の作文楽しみにしてるって」
「うんっ。じゃあ、おっきな声で読むね!」

お父さんとお母さんの前で。
先生やクラスのお友達とお友達のお父さんたちとお母さんたちの前で、僕のゆめを発表するね。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

「真琴さん、それ……」
「うん。紫真が小学一年の父兄参観で発表した作文」
「懐かしい」

22時。
子供たちが眠り、リビングで過ごす夫婦の時間。

紫真は宣言通り、大きな声でこの作文を読み上げた。
その内容に紫陽くんも僕も嬉しさとちょっとの恥ずかしさで赤くなった。

「あの日、紫陽くん来るの遅くて紫真泣きそうだったんだよね」
「うっ、面目ない」
「先生が気付いて紫真の発表を最後にしてくれて……。2人で聞けてよかったね」
「ああ」

チェストの上に飾られた写真立てに目を移す。
家族の写真を成長に合わせて、何枚か中身を入れ替えている。
その中の一つ。
真ん中にずっと変えずに飾られている写真。
僕の妊娠が判明して2ヶ月後に挙げた結婚式で、紫陽くんと2人で撮ってもらった写真だ。

最初は入籍だけで、写真も記念写真程度にするつもりだった。
でも、妊娠と結婚を父に報告すると、急だったにも拘らず会場とドレスを用意してくれた。
しかもドレスは有名な棗百合さんがデザインしたもので、だいぶ前から依頼をしていたものだと教えてくれた。

結婚式の会場は弥生グループ系列のホテル。
当日は晴天で、式の後はガーデンパーティーが行われた。


「おめでとう。そのドレスとてもよく似合っているよ」
「お父さん……」

ドレスといっても、僕は男だからドレス風な服だ。
総レースの繊細なジャケット。
チョーカーもレースだ。
それに合わせたシャツにも細かい刺繍が入っていてとても素敵だ。

「こんにちは。今日はおめでとうございます。わー、我ながらとてもよく似合ってるー」
「棗さん、態々来てくださりありがとうございます」
「いーえ、私が真琴さんの花嫁姿が見たくて勝手に来ただけですよ~。でも、お隣さんに預けている子どもたちがぐずっててもう帰らないといけなくて……。ゆっくりお話しできなくて残念ですわ……。あ、真琴さん、身体は大丈夫?お腹できるだけ締め付けないように作ったんけど」
「大丈夫です。今日はいつもより悪阻も酷くないのでとても楽に着られてます。素敵なドレス、ありがとうございます」

今日はここ最近の中で一番調子がいい。
「触っていい?」と聞かれ、手で押さえていたまだペッタンこのお腹を触ってもらう。

「お腹の子、お母さんのハレの日に協力してくれたのかな?ふふっ、良い子ね。うちの子どもたちと歳が近いから、大きくなったら仲良くしてね」

そう言って棗さんに触れられたお腹はじんわりと温かくなった。


結婚式と披露宴は両家の親族とその関係者数名が出席したささやかなものだった。
紫陽くんは数名の友人と大学時代のバイト先の店長さんと沙也さんが出席したが、僕の方は呼べるほどの友人がいないため、望月さんと息子の佳都くんが出席してくれた。
それでも、とても暖かみのある素敵な式になった。


「あのドレスを紫真が着たいって言ってくれた時すごく嬉しかった。今も着たいって思ってくれているかな……?」
「思ってるよ。だから、綺麗に取ってあるんでしょ。俺のタキシードと一緒に」

僕の肩を抱き寄せた紫陽くんが小さく笑う。
そう、あの時のドレスとタキシードは空気に触れ色褪せないようにプレスしてクローゼットの奥に大事に保管している。
いつか来る未来のために。
だから、紫真がこれを着て嫁ぐ日が来たら2人して泣いてしまうかもしれない。
でもそれ以上にーー。

「楽しみだね」
「うーーん。今はまだ素直に思いたくないっ。あと10年は嫁にやらんっ」
「ふふっ」

紫陽くんは出会った頃からだいぶ性格が変わった。
こんなに子どもを溺愛する父親になるなんて想像していなかった。



お母さん。
僕は子どもの頃の夢を叶えたよ。
今、とても幸せだよ。



【番外編】しまのゆめ
終わり





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