至高のオメガとガラスの靴

むー

文字の大きさ
29 / 53

閑話:アカリのきもち③

しおりを挟む
大好きな人じゃない人に抱かれた。


あの日。

薬を打たれ力が入らない身体は次第に燃えるように熱くなった。
身体は敏感になって、少し触れるだけで奥が疼いた。

そんなボクの身体をアイツはすごく雑に、乱暴に触った。
その手も体温も臭いも息遣いも、全部気持ち悪かった。
吐きそうなくらい気持ち悪くて…。
実際、吐いた。
吐いた胃液にはロールケーキの残骸があった。

なのに、ボクの身体は気持ちとは反対に甘い声が出た。
心と身体がバラバラになったみたいで、頭がおかしくなりそうだった。

碌な抵抗もできないまま挿れられ、奥に出され……。
そして、項を噛まれた。
頭が真っ白になったボクは意識を手放した。

次に目を開けると景色が変わっていた。
寝かされていたベッドがダブルからセミダブルに変わっていた。
ベタベタだった身体は中まで綺麗になっていて、丈の長い真新しいシャツを着ていた。
傍にアイツはいなく、代わりに小柄な男の子がいた。
目覚めたボクにピルを飲ませてくれたその子はずっと震えながら「ごめんなさい、ごめんなさい」って涙を流した。
ぼんやりした頭で、たぶん、この子もそうなのかなって思ったら怒りは湧かなかった。

それからすぐお父さんたちが迎えにきた。
大好きな人もいた。
ボクを真っ直ぐ見る目に返すことができなくて、逸らすように俯いた。
そんなボクをアイツは抱き寄せた。
大好きな人の目の前で…。
すごく気持ち悪かった。

すごく気持ち悪かったのに…。

さっきまでした吐き気がするくらい嫌いで臭かったアイツの匂いがしなかった。
嫌悪感も湧かなかった。

そして……

目の前にいる大好きな人の匂いがわからなくなっていた。

それだけて、目の前が真っ暗になった。

そのままボクはオメガ専門の病院に連れて行かれ入院した。
入院中は両親以外の人に触られるのが気持ち悪くて、診察や検査では何度も吐いた。

気がついたら、ご飯もまともに食べれなくなっていた。
無理に食べてもすぐ吐いて、食べなくても吐いた。
しばらくの間、点滴がボクの命を繋いだ。

そして、眠るのが怖くなった。
眠ると、毎日のように夢の中にアイツが現れて、あの日と同じようにボクを抱いた。

アイツの夢を見過ぎで、このままアイツのこと好きになるんじゃなないかなって思ったけど、そんなことはなかった。
むしろ、どんどん気持ち悪くなって、もっともっと嫌いになった。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

年を越して、やっと退院できた。

退院する頃に、やっとご飯を食べても吐かなくなって、あの気持ち悪い夢も見る回数が減った。

そうしたら、大好きな人に逢いたくなった。

「じゃあ、お家に帰りましょう」ってお母さんが言って、お父さんの運転で家に帰った。

流れる外の景色を眺めながら大好きな人に逢った時のことをたくさん考えた。

ボクの名前呼んでくれるかな?

ボクに逢えない間、寂しかったかな?

ボクを抱きしめてくれるかな?

ボクのこと……まだ好きでいてくれているかな?

だけど、家に着い途端、怖くなった。

車から降りれなくなった。

お父さんの手助けで降りたら、大好き人がいた。
大好きな人がボクに手を差し伸べてくれた。

その手をボクは…拒絶した。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

アルファとオメガの番は一種の契約。

発情期のオメガとの性行為中に、アルファの2本の鋭い犬歯をオメガの項に深く食い込ませて噛むことで、その契約は成立する。
その契約により、オメガの鼻は番のアルファのフェロモンしか嗅ぎ取ることができなくなり、そのフェロモンにしか発情しなくなる。
そして、オメガのフェロモンは番のアルファにしか嗅ぎ取れなくなる。

中学の保健体育の授業で先生がそう言った。
すごく素敵な話で、ボクは自分がオメガであることがすごく嬉しかった。
大好きな人は風邪で休みだったから、彼の分までちゃんと覚えて、いつか2人で実践するんだって。
ボクの項に残る3つの痕を本物にするんだって…。

そう思ってた。

実際、発情期にした大好きな人との甘い行為はすごく幸せだった。
噛んでもらえなかったけど。

だからーー

久しぶりに会えた大好きな人の匂いを嗅ぎ取れなかったことは、ボクを更なる絶望へ落とした。

やっぱりボクはアイツの番になったんだって。

ボクの鼻は大嫌いなアイツのフェロモンしか嗅ぎ取れなくなったんだ。
いろんなフェロモンが染み付いたアイツの匂いにしか欲情しなくなったんだ。

それからまた眠れなくなった。

ボクはいつかアイツと結婚してーー

キスしてーー

発情してーー

セックスしてーー

子供が産まれてーー

そんなことがグルグル頭の中を巡った。

アイツのフェロモンに欲情する自分の姿に気が狂いそうになった。

この世界から消えたくなった。

けど……できなかった。

大好きな人のいない世界に行く方がもっと辛い。


「逢いたいよぉ……」

大好きな人に……

ヒロに逢いたい。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


そんな日々は突然終わりを告げられた。
アイツと両親と顔合わせの日が決まった。

そしてボクの発情期が来る。

__________________

アカリの気持ちの根っこはずっと変わりません。

残りの話数の都合で、今日は1話多く更新します。
次はいつも通り18時の公開です。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...