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閑話:アカリのきもち③
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大好きな人じゃない人に抱かれた。
あの日。
薬を打たれ力が入らない身体は次第に燃えるように熱くなった。
身体は敏感になって、少し触れるだけで奥が疼いた。
そんなボクの身体をアイツはすごく雑に、乱暴に触った。
その手も体温も臭いも息遣いも、全部気持ち悪かった。
吐きそうなくらい気持ち悪くて…。
実際、吐いた。
吐いた胃液にはロールケーキの残骸があった。
なのに、ボクの身体は気持ちとは反対に甘い声が出た。
心と身体がバラバラになったみたいで、頭がおかしくなりそうだった。
碌な抵抗もできないまま挿れられ、奥に出され……。
そして、項を噛まれた。
頭が真っ白になったボクは意識を手放した。
次に目を開けると景色が変わっていた。
寝かされていたベッドがダブルからセミダブルに変わっていた。
ベタベタだった身体は中まで綺麗になっていて、丈の長い真新しいシャツを着ていた。
傍にアイツはいなく、代わりに小柄な男の子がいた。
目覚めたボクにピルを飲ませてくれたその子はずっと震えながら「ごめんなさい、ごめんなさい」って涙を流した。
ぼんやりした頭で、たぶん、この子もそうなのかなって思ったら怒りは湧かなかった。
それからすぐお父さんたちが迎えにきた。
大好きな人もいた。
ボクを真っ直ぐ見る目に返すことができなくて、逸らすように俯いた。
そんなボクをアイツは抱き寄せた。
大好きな人の目の前で…。
すごく気持ち悪かった。
すごく気持ち悪かったのに…。
さっきまでした吐き気がするくらい嫌いで臭かったアイツの匂いがしなかった。
嫌悪感も湧かなかった。
そして……
目の前にいる大好きな人の匂いがわからなくなっていた。
それだけて、目の前が真っ暗になった。
そのままボクはオメガ専門の病院に連れて行かれ入院した。
入院中は両親以外の人に触られるのが気持ち悪くて、診察や検査では何度も吐いた。
気がついたら、ご飯もまともに食べれなくなっていた。
無理に食べてもすぐ吐いて、食べなくても吐いた。
しばらくの間、点滴がボクの命を繋いだ。
そして、眠るのが怖くなった。
眠ると、毎日のように夢の中にアイツが現れて、あの日と同じようにボクを抱いた。
アイツの夢を見過ぎで、このままアイツのこと好きになるんじゃなないかなって思ったけど、そんなことはなかった。
むしろ、どんどん気持ち悪くなって、もっともっと嫌いになった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
年を越して、やっと退院できた。
退院する頃に、やっとご飯を食べても吐かなくなって、あの気持ち悪い夢も見る回数が減った。
そうしたら、大好きな人に逢いたくなった。
「じゃあ、お家に帰りましょう」ってお母さんが言って、お父さんの運転で家に帰った。
流れる外の景色を眺めながら大好きな人に逢った時のことをたくさん考えた。
ボクの名前呼んでくれるかな?
ボクに逢えない間、寂しかったかな?
ボクを抱きしめてくれるかな?
ボクのこと……まだ好きでいてくれているかな?
だけど、家に着い途端、怖くなった。
車から降りれなくなった。
お父さんの手助けで降りたら、大好き人がいた。
大好きな人がボクに手を差し伸べてくれた。
その手をボクは…拒絶した。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
アルファとオメガの番は一種の契約。
発情期のオメガとの性行為中に、アルファの2本の鋭い犬歯をオメガの項に深く食い込ませて噛むことで、その契約は成立する。
その契約により、オメガの鼻は番のアルファのフェロモンしか嗅ぎ取ることができなくなり、そのフェロモンにしか発情しなくなる。
そして、オメガのフェロモンは番のアルファにしか嗅ぎ取れなくなる。
中学の保健体育の授業で先生がそう言った。
すごく素敵な話で、ボクは自分がオメガであることがすごく嬉しかった。
大好きな人は風邪で休みだったから、彼の分までちゃんと覚えて、いつか2人で実践するんだって。
ボクの項に残る3つの痕を本物にするんだって…。
そう思ってた。
実際、発情期にした大好きな人との甘い行為はすごく幸せだった。
噛んでもらえなかったけど。
だからーー
久しぶりに会えた大好きな人の匂いを嗅ぎ取れなかったことは、ボクを更なる絶望へ落とした。
やっぱりボクはアイツの番になったんだって。
ボクの鼻は大嫌いなアイツのフェロモンしか嗅ぎ取れなくなったんだ。
いろんなフェロモンが染み付いたアイツの匂いにしか欲情しなくなったんだ。
それからまた眠れなくなった。
ボクはいつかアイツと結婚してーー
キスしてーー
発情してーー
セックスしてーー
子供が産まれてーー
そんなことがグルグル頭の中を巡った。
アイツのフェロモンに欲情する自分の姿に気が狂いそうになった。
この世界から消えたくなった。
けど……できなかった。
大好きな人のいない世界に行く方がもっと辛い。
「逢いたいよぉ……」
大好きな人に……
ヒロに逢いたい。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
そんな日々は突然終わりを告げられた。
アイツと両親と顔合わせの日が決まった。
そしてボクの発情期が来る。
__________________
アカリの気持ちの根っこはずっと変わりません。
残りの話数の都合で、今日は1話多く更新します。
次はいつも通り18時の公開です。
あの日。
薬を打たれ力が入らない身体は次第に燃えるように熱くなった。
身体は敏感になって、少し触れるだけで奥が疼いた。
そんなボクの身体をアイツはすごく雑に、乱暴に触った。
その手も体温も臭いも息遣いも、全部気持ち悪かった。
吐きそうなくらい気持ち悪くて…。
実際、吐いた。
吐いた胃液にはロールケーキの残骸があった。
なのに、ボクの身体は気持ちとは反対に甘い声が出た。
心と身体がバラバラになったみたいで、頭がおかしくなりそうだった。
碌な抵抗もできないまま挿れられ、奥に出され……。
そして、項を噛まれた。
頭が真っ白になったボクは意識を手放した。
次に目を開けると景色が変わっていた。
寝かされていたベッドがダブルからセミダブルに変わっていた。
ベタベタだった身体は中まで綺麗になっていて、丈の長い真新しいシャツを着ていた。
傍にアイツはいなく、代わりに小柄な男の子がいた。
目覚めたボクにピルを飲ませてくれたその子はずっと震えながら「ごめんなさい、ごめんなさい」って涙を流した。
ぼんやりした頭で、たぶん、この子もそうなのかなって思ったら怒りは湧かなかった。
それからすぐお父さんたちが迎えにきた。
大好きな人もいた。
ボクを真っ直ぐ見る目に返すことができなくて、逸らすように俯いた。
そんなボクをアイツは抱き寄せた。
大好きな人の目の前で…。
すごく気持ち悪かった。
すごく気持ち悪かったのに…。
さっきまでした吐き気がするくらい嫌いで臭かったアイツの匂いがしなかった。
嫌悪感も湧かなかった。
そして……
目の前にいる大好きな人の匂いがわからなくなっていた。
それだけて、目の前が真っ暗になった。
そのままボクはオメガ専門の病院に連れて行かれ入院した。
入院中は両親以外の人に触られるのが気持ち悪くて、診察や検査では何度も吐いた。
気がついたら、ご飯もまともに食べれなくなっていた。
無理に食べてもすぐ吐いて、食べなくても吐いた。
しばらくの間、点滴がボクの命を繋いだ。
そして、眠るのが怖くなった。
眠ると、毎日のように夢の中にアイツが現れて、あの日と同じようにボクを抱いた。
アイツの夢を見過ぎで、このままアイツのこと好きになるんじゃなないかなって思ったけど、そんなことはなかった。
むしろ、どんどん気持ち悪くなって、もっともっと嫌いになった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
年を越して、やっと退院できた。
退院する頃に、やっとご飯を食べても吐かなくなって、あの気持ち悪い夢も見る回数が減った。
そうしたら、大好きな人に逢いたくなった。
「じゃあ、お家に帰りましょう」ってお母さんが言って、お父さんの運転で家に帰った。
流れる外の景色を眺めながら大好きな人に逢った時のことをたくさん考えた。
ボクの名前呼んでくれるかな?
ボクに逢えない間、寂しかったかな?
ボクを抱きしめてくれるかな?
ボクのこと……まだ好きでいてくれているかな?
だけど、家に着い途端、怖くなった。
車から降りれなくなった。
お父さんの手助けで降りたら、大好き人がいた。
大好きな人がボクに手を差し伸べてくれた。
その手をボクは…拒絶した。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
アルファとオメガの番は一種の契約。
発情期のオメガとの性行為中に、アルファの2本の鋭い犬歯をオメガの項に深く食い込ませて噛むことで、その契約は成立する。
その契約により、オメガの鼻は番のアルファのフェロモンしか嗅ぎ取ることができなくなり、そのフェロモンにしか発情しなくなる。
そして、オメガのフェロモンは番のアルファにしか嗅ぎ取れなくなる。
中学の保健体育の授業で先生がそう言った。
すごく素敵な話で、ボクは自分がオメガであることがすごく嬉しかった。
大好きな人は風邪で休みだったから、彼の分までちゃんと覚えて、いつか2人で実践するんだって。
ボクの項に残る3つの痕を本物にするんだって…。
そう思ってた。
実際、発情期にした大好きな人との甘い行為はすごく幸せだった。
噛んでもらえなかったけど。
だからーー
久しぶりに会えた大好きな人の匂いを嗅ぎ取れなかったことは、ボクを更なる絶望へ落とした。
やっぱりボクはアイツの番になったんだって。
ボクの鼻は大嫌いなアイツのフェロモンしか嗅ぎ取れなくなったんだ。
いろんなフェロモンが染み付いたアイツの匂いにしか欲情しなくなったんだ。
それからまた眠れなくなった。
ボクはいつかアイツと結婚してーー
キスしてーー
発情してーー
セックスしてーー
子供が産まれてーー
そんなことがグルグル頭の中を巡った。
アイツのフェロモンに欲情する自分の姿に気が狂いそうになった。
この世界から消えたくなった。
けど……できなかった。
大好きな人のいない世界に行く方がもっと辛い。
「逢いたいよぉ……」
大好きな人に……
ヒロに逢いたい。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
そんな日々は突然終わりを告げられた。
アイツと両親と顔合わせの日が決まった。
そしてボクの発情期が来る。
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アカリの気持ちの根っこはずっと変わりません。
残りの話数の都合で、今日は1話多く更新します。
次はいつも通り18時の公開です。
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