姫様、国を買う〜亡国の姫は己の拳で金を稼ぐ〜

アジカンナイト

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第三十五話 赤い結晶

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 謁見の間に、カリーナの拳とグルードの拳の衝撃が響き渡る。
 
「……拳に随分自信があるようだな、娘。剣を握らないのか?」
 グルードは弾かれた自らの拳を一度開き、指の感触を確かめるように再び強く握り込んだ。
 
「私は、剣も魔法もからっきしだったから。私には、この拳しかなかった。それだけよ」
 カリーナは荒い息を整えながら、鋭い視線を返した。
 
「その野蛮さ、嫌いじゃない」
 グルードの右ストレートがカリーナに迫るが、カリーナはそれを紙一重で躱すと、懐へ潜り込んだ。
 
「もらった!」
 渾身の力を込めたカリーナの右ストレートが、グルードの腹部を捉えた。
 
 ドゴオオオオオオン!!!
 
 凄まじい衝撃がグルードの巨体を背後の玉座へと叩きつけ、ガラガラと音を立てて玉座が崩れた。

「……中々、いい拳を持っているじゃないか」
 巻き上がる煙の中から、グルードの声が響いてきた。ゆっくりと立ち上がったグルードは、驚くべきことに、あれほどの直撃を受けていながら平然としていた。
 破けた服の隙間から、金属のの胸プレートが覗いている。
 
「へー、その鎧……相当硬いのね」
 カリーナが顔を顰めると、グルードは無造作にマントを脱ぎ捨てた。
 
「特注だ。ドラゴンのブレスですら、これ一枚で弾き返す」
 
 カリーナは部屋の端で震える王夫妻をチラリと見た。
 
「一つ聞いてもいいかしら。……あんたたちの目的は何? この国を支配して、金や地位を得るのが目的?」
 
「ふはははははははは!!」
 グルードは突然大笑いし、その大笑いが、天井の高い謁見の間に響き渡った。
 
「何がおかしいのよ」
 
「地位? 金? こんなくだらないちっぽけ国の支配?そんなものは俺にとっては単なる通過点に過ぎない。俺が望むのは、このカルファスの玉座ではない……この世界、すべてだ!」
 グルードは両手を広げると、狂気に満ちた宣言を放つ。

「くだらない?……ちっぽけ?この国で生きている人たちの大切な故郷を馬鹿にするのは許さない!」

「お前はどこのどいつだ?」

「なんでも屋『エルダ』、エルダカリーナ・マネニット」
 カリーナはグルードを力強く見つめた。

「ふははは!なんでも屋『エルダ』?知らんな、貴様には関係のない話だ」

「関係あるわよ。私たちはこの国の王女様に依頼されたのだから」

「依頼されたから助けてるって?金のためか」

「もちろん、金のためよ。だけど、それだけじゃないわ。エルダ王国の王女として、私はこの国を見捨てられない!」
 カリーナは強く拳を握る。
 
「王女だ?ただの小娘が何を言う。貴様じゃこの国は救えない。俺の力、クラリオの頭脳、ルナドゥーイの艦隊の前で絶望を見るがいい!」
 
 グルードは懐から小さな紅い結晶を取り出すと、それを迷わず口の中に放り込んだ。

「さぁ、始めようか。話し合いは終わりだ、殺し合いをしよう」

「カリッ」
 グルードがその結晶を噛み砕いた瞬間、彼の体から赤い蒸気が湧き上がった。ミシミシと骨が軋み、肉体が膨れ上がり、血管が浮き出し、瞳は理性を失った破壊の光に染まっていく。

 カリーナはグルードの変化に身構えた。酒を飲んで顔を赤くした男と殴り合ったことはあるが、これはそれとは明らかに違った。
 
「ヴオオオオオオオオオオッ!!!」
 咆哮が空気を震わせ、グルードが踏み込んだだけで、大理石の床が粉々に粉砕させた。

「それは何?………………ああ、聞こえてないのね。最後に一つ言っておくわ、私が勝つから」

 ◆◇◆◇

 ブルー、ブレイブ、サラマンダーの三人は、城のどこかにいるカリーナを探していた。城の床には何十、何百ものの兵士が横たわり、城は静かであった。

「おい!ブレイブ、チンタラ探してる暇なんてねぇよ」
 ブルーは、丁寧に一部屋一部屋探していくブレイブに苛立ちをみせていた。

「そんなことは知っている。だが、万が一だ。お前だって急に俺たちの前から消えたと思ったら、下で倒れていたんだぞ。カリーナが部屋に囚われていたらどうする?」

「カリーナが囚われる?」
 ブルーは、頭の中でカリーナが囚われる姿を思い浮かべてみるが、すぐに首を横に振った。あのカリーナが大人しく捕まるとは思えなかったのである。

「サラマンダー!カリーナは上に登って行ったんだろ?」

「階段を登って行ったのまでは知っている」

「なら、まず上から探そうぜ。だろ?」
 ブルーは肩をすくめてブレイブに同意を求めた。

「分かった、分かった。上からな」

 その時、城が激しく揺れて、パラパラと天井から砂が落ちてくる。上で戦いが起きていると、この三人はすぐに分かった。そして、城を揺らすほどの衝撃を与えられるのはカリーナだろうと。

「ほら上だ」
 ブルーは天井を上げると、勝ち誇ったようにブレイブにキメ顔をする。

「急ぐぞ。早く、カリーナに爆弾のことを伝えないといけない」

「おい、無視するな」

「痛てぇな。何だよ、急に立ち止まるな」
 前を走っていたブレイブが急に立ち止まり、ブルーの鼻はブレイブの背中にめり込んだ。

「サラマンダー、階段を作ってくれ」
 ブレイブは先頭を走るサラマンダーにお願いした。

「承知した」
 サラマンダーはそう言うと立ち止まり、天井に向けて剣を構える。

「【円雷】(エンライ)」
 サラマンダーが剣を素早く突き上げると、螺旋状の空気の刃が天井を突き破っていき、円形状の穴は空まで届いた。

「すげぇな。もしかしてだけど、これを跳んでいくのか?階段って……」
 ブルーは呆然と穴を見上げて、そしてブレイブの方を向く。

「階段を目指して城を駆け回るより、こっちの方が早い」

「話していると、置いていくぞ」
 サラマンダーは二人を置いて、穴を足場にして跳び上がっていった。
 ブレイブはそれに続いて跳び上がると、穴に手をかけて登る。

「早くしろ、ブルー」

「階段でいいか?」
 ブルーはだらしない腹をポンと叩いた。
 
 

 
 
 
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